第8話「オフ会」

-01-

私:「手振り地蔵って知ってます?」

男性:「ああ、その手の話は何処にでもあるけど…」

男性:「六甲山で峠族の間で噂になってた話は有名だね。 地蔵が手を振ってるだけならセーフで、手招きされると帰りに峠で事故に遭うって奴、実際には地蔵じゃなくて女の子の像だったかな、」

(峠族:峠道でスピードを競う二輪&四輪乗りの集団、当然違法。)



-02-

私:「じゃあ、霊界に通じる公衆電話はどうです?」

男性:「うん、昔大学の構内に設置された公衆電話からある番号にかけると霊界に通じて。笛の音が聞こえたらセーフ、太鼓の音が聞こえたらアウトって流行ったな。 確か失恋した女の子が自殺する前に元彼にかけていた電話ボックスだったとかいう設定、実はどこかの会社のファクシミリの番号で、かけるとピーフョロフョロって通信音が聞こえるんだよね。」


男性:「でも今じゃみんな公衆電話なんて使わないからな。」



-03-

私:「私の周りで実際に流行っていたのはトイレの花子さんとかかな。」

男性:「僕が小学生の頃は、開かずのトイレ伝説がどの学校にもあって、其処に入るとトイレの穴から手が出てきて引きずり込まれるっていうオチだった。 今じゃ皆水洗トイレだから意味通じないだろうけどね。」

男性:「後、口裂け女とか言うのも流行ったな。 事故だったか何かで整形手術したんだけど失敗して。口が耳まで裂けちゃった女の人の話。 いつもはマスクをしていて、突然「私綺麗?」ってマスクを外すんだ。 それでびっくりして逃げるんだけど、車と同じ位のスピードで追いかけてきて、鎌で切り殺されてしまうっていう話。」



-04-

私は「迦楼羅三言かるらみこと」、本名は辻井。 花も恥らう県立高校二年生、実態は彼氏いない歴16年の極普通の女子。


ファミレスの向かいの席に座っている男性は「高杉健作」、恐らくバンドルネーム。 何処から見ても普通の冴えないおじさんである。 ちょっと無精髭ぶしょうひげで、ちょっと疲れてるみたいに影があって、ちょっと身体にしまりが無くなってきてはいるけれど、生理的に拒絶するほどではない。 自分と遺伝的に遠い異性の匂いは、時として正常な女子高生の判断力を鈍らせたりもする…


私:「高杉さんって一体何歳なんですか? やけに古い話に詳しいですね。」

高杉:「聞きたい?」

私:「聞きたい。」

高杉:「この間41歳になったとこ、」

私:「ふーん二周りも違うんだ.。」


…と言うかうちのパパと二つ違いじゃない!



-05-

勿論、私は援助交際などにかまけている訳ではない。

こう見えても私は県内屈指の進学高校2年生、進学に不利になるような事件に関わるようなマネはしない。

これはれっきとした「サークルのオフ会」なのである。


私達はネットのオカルト研究サークル「オカルト・グルーブ」のメンバだった。

普段の活動はリーダー兼サークル主催者の「佐々木さん」が運営するブログの掲示板で巷のオカルトネタについて意見交換する…と言う、いたって真面目な文科系サークルなのである。


まあ、予備校の講習会と偽って日曜日に赤レンガ倉庫に来てる時点でちょっと問題ありだが

…これ位は誰でもやってることだろう。



-06-

高杉:「カルラさんこそ、若いのによくそんな古いネタを知ってるね。」

私:「実は私、高校の民俗学研究部に所属してるんですけど、このクラブかなり古くから継続している「妖怪研究クラブ」で、古い時代のファイルにこの手の古いオカルト話が残されていたりするんですよ。 本当の事言うと、部員は私一人だけで、ほとんど廃部寸前なんですけどね。」


私は一寸苦笑いしながら、ひとり巨大チョコパフェのアイスを舐める。



-07-

それにしても集まりが悪い。

予定では11時にこの店に5人が集まる事になっていたのだが、今のところ40過ぎのおじさんと女子高生の二人きりで。 二人の間にはかなり気まずい空気が漂い始めている。


私:「皆遅いですね、」

高杉:「それについてなんだけど、…実は謝らないといけない事があるんだ。」

私:「何ですか?」


高杉:「真理亜まりあは来ない。」

私:「もしかして、また喧嘩したんですか? 大人なんですから、少しは相手の意見にも耳を傾けるとか考えましょうよ。」


私は多少 大袈裟おおげさに呆れたフリをして溜息を付く。

真理亜さんというのは、サークルのメンバの一人で、理論派の高杉さんと霊感派の真理亜さんはいつも意見が食い違って喧嘩ばかりしていた…


高杉:「実は、真理亜は僕なんだ。」

私:「えっ、」


私はドキッとして目が点になる。


私:「でも、…あんなに仲悪かったじゃないですか?」

高杉:「だって、自分同士で仲良くしてたら気持ち悪いじゃない。」

私:「はあ、」


私は、スプーンを咥えたまま、暫し硬直する…


私:「これからは私が冷たくあしらってあげますから、ネカマ自演乙みたいな気色の悪い事は止めて下さいよね。」

高杉:「うん、そうする。」

私:「結構、お二人のリアル・バトル、楽しみにしてたんだけどな。」



-08-

私:「実は、」


私も打ち明ける


私:「「亮輔りょうすけクン」って、私なんですよね。」

高杉:「えっ?」


今度は高杉さんの目が点になる


私:「ほら、ネットって、ある程度「盛って」ないと、新しいメンバも入り難いじゃないですか。 だから、ちょっと格好よさげな男の子が居るフリをすれば他の女の子も入ってくれるかなって思って…」


高杉:「なんだ、カルラさんも同じ事やってたんだ、」

高杉:「やけに仲良くしてたから、てっきり二人は恋人同士なのかと思ってたよ。」


「私達」そんな風に、見られてたんだ…


高杉:「じゃあ、結局集まるのは4人なのか。」


私はちらりと携帯の時刻をチェックする。

現在11時30分。



-09-

突然携帯の着信音が鳴る!

ブログ管理人兼サークル主催者の佐々木さんからだった。


メール文章:「私はもう来ていますよ。」

私:「はあ?」


私は、意味不明に辺りを見回した。


高杉:「どうしたの?」

私:「いえ、佐々木さんからメールが…」



-10-

再びメール着信音!


メール文章:「カルラさんのチョコパフェ美味しそうだね、私にも頼んでくれる。」

私:「えっ?」


私は急に立ち上がって、

挙動不審に辺りを見回すも。それらしい人影は見当たらない。


私:「やだな、高杉さんでしょ、変な冗談止めてくださいよ。」

高杉:「えっ?何の事?」


私はふくれっつらして携帯の画面を冴えないおじさんに見せる。


高杉:「僕知らないよ、」

私:「またまた、佐々木さん以下残り3名も実は高杉さんの「成りすまし」だったりしたら、私、警察呼びますよ。」

高杉:「知らないってば、」



-11-

三度メール着信音!


私:「ちょっと、健作くん!」

私:「いい加減怒りますよ。」


私は、結構「怖がり」なのである


私は携帯の画面を健作クンの鼻先に突きつける


メール文章:「今日のカルラさんの赤いサマー・カーデ、可愛いね。」


健作クンは、困った様な戸惑ったような顔で私を見る


高杉:「二周り下の女子高生から下の名前で呼ばれるのって 一寸新鮮な感じだけど、とにかく僕はなんにもしてないって。」


私:「じゃあ、誰が…」



-12-

声:「びっくりさせてゴメン、実は私は家に居ます。」


突然!

勝手に携帯電話がスピーカーモードでしゃべり出した。


私はオロオロしながら携帯の画面を「健作クン」に見せる。

そこには、見た事もないアニメ絵の男の子がにこやかに微笑んでいる。


佐々木:「カルラさんの携帯のマイクとカメラを通して、お二人の会話は聞かせてもらいました。」

佐々木:「ちょっと高杉さんの姿が見えないけど…、今日は、こんな感じで参加させていただきたいと思います。」


私:「あの、佐々木さん、盗聴ってれっきとした犯罪ですよね!」


どうしてくれようか…



-13-

高杉:「後は早苗さんか。」

私:「実は早苗さんは佐々木さんの成りすましだった、なんてオチ、止めてくださいよ。」


佐々木:「さすがに僕には成りすましなんて恥ずかしい事出来ないですよ。」


どの口が言ってんだか


私:「これじゃまるで私と健作クンのデートみたいじゃないですか。」

高杉:「いや、そう、見えるかな。」


私:「結構怪しいですよ、私達さっきから、」

高杉:「親子…っぽくないしな。」



-14-

佐々木:「ところで、早苗さんって誰だっけ?」


私:「誰って、ほらネットに書き込みしてる大人し目な女の子。 今日来るって言ってましたよ。」

高杉:「うん、覚えてる。」


佐々木:「でも、過去ログに それらしい書き込みは見当たらないよ。」

私:「って言うか、佐々木さん、もしかしてこれまでの書き込み全部セーブしてるとか怖いこと言わないで下さいよ!」

佐々木:「してるよ。」


私、このサークル抜けようかな…



-15-

高杉:「早苗さんの書き込みが無いって、どういう事なんですか?」

私:「昨日の夜も楽しみですって、言ってた。」

高杉:「そうだよね。」


佐々木:「だって、ほら、これ昨日のログ…」


携帯の画面に、私の成りすました「亮輔クン」と健作の成りすました「真理亜さん」を含めた5人の会話が再現されている


確かに、其処には早苗さんなる人物の書き込みは一つも無い…


私:「じゃあ、早苗さんって何なの?」



-16-

私:「とにかく、これ以上こんな怪しいオフ会を続けるのは…無理ですね。」

私:「私帰らせていただきます。」


私は席を立ち、


高杉:「まあ、仕方が無いよな」


健作クンも席を立つ。


佐々木:「じゃあ、私はカルラさんに憑いて行くよ…、」


私は無言のまま携帯の電源を切った。



-17-

当然のごとく、健作クンが二人分の支払いを済ませる。


高杉:「これからどうするの?」


私:「もしかして、健作クンは私とデート続けたかった訳ですか?」

高杉:「いや、デートとかじゃなくて、」

私:「その前に、健作クンって、もしかして独身なんですか?」

高杉:「いや、まあ、そうだけど…」


私:「せっかくだから、ミナトみらいまで散歩して帰ろうかな、」


自分とは遺伝的に遠い異性の匂いが、正常な判断を鈍らせる…、



高杉:「ネットサークルは続けるの?」

私:「まあ、オカルト話自体は嫌いじゃないですけど、佐々木さんは怪しすぎます。」

私:「どうやったらスマホをハッキングできるのよ、もう!」


高杉:「でも、本当に早苗さんって、一体なんだったんでしょうね?」



-18-

その夜、風呂から上がった私は、


何気なくパソコンのスイッチを入れて、

何気なく「オカルト・グルーブ」のサイトをロムって見る


佐々木さんの書き込み:「管理人>オフ会、楽しかったね!」

私:「全く…」


私はサイトにコメントを打ち込んで…、


階下から母親の怒鳴り声


母親:「早苗! 服脱ぎっぱなしにしないでちゃんと洗濯機に入れなさい!」

私:「はあい!」


全く、煩いんだから…。


私:「送信!」

書き込み:「高杉健作>佐々木さん、ハッキングは良くないですよ…」

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