パレットなSummer Festival!(9)
玄関の引き戸を開けた途端、眩しい陽光に目を伏せた。
太陽は既に高く、まだ早朝とはいえ外は十分に暑い。
真昼と比べれば涼しくも感じられるのだけれど……。
この温度差があたしに、フライパンの上を弱火でじっくりと転がされる気分を味あわせた。
「あつぅ……」
まだ外を覗いただけなのに、気の早い体はもう汗をかく準備に入る。
朝刊を取るためだけに汗だくになるのはごめんだ。
あたしはさっさと用事を済まそうと、手のひらを日傘代わりにして歩き始めた。
門戸につるされた新聞受けが視界に入り、自然と足取りが速くなる。
新聞が手の届く場所まで行くと、あたしは片手でさっと抜き取り、ちらりと一面を流し見て――。
「……ん」
――と、短い呼吸を置くなり、すぐさま小脇にはさんだ。
特に気になる記事があった訳でもなし、夏の日差しに当てられながら読むこともないだろう。
その後、あたしは何か入っているとは期待もせず、事務的に郵便受けへと手を伸ばした。
しかし、日陰の中で大口を開ける取り出し口に手を突っ込むと。
「お?」
予想に反して、何かがコツンと指先に当たる。
改めて郵便受けの中を覗き込むと、一枚の真っ白い横封筒が投函されていた。
手に取ってみると、それは日陰で熱気を逃れたのか紙の表面がひんやりと冷たく、可愛らしいひまわりのシールで封がしてある。
「あっ!」
そして、あたしはひと際目を引く小さな大輪を見た途端、一人の女の子の名前が浮かんだ。
「あさぎちゃんだ」
直後、なんとなくひっくり返して封筒の表も見てしまう。
すると、そこには何色もの鉛筆を使って描かれた、たくさんの花の絵が添えられていた。
瞬間的にあさぎちゃんが一生懸命に絵を描く姿が浮かび、頬が緩む。
それから、丁寧な字で書かれた『尼崎あさぎ』の名を確認し、あたしはその場で封をきる。
破れないようにと、努めて優しく爪の先でひっかきながら、シールを剥がすと……。
ぺリッと、紙に張り付いたノリの剥がれる音がして、封筒が跳ねるように口を開いた。
あたしは、カサリと軽い摩擦音を鳴らして、すぐさま手紙を取り出し、文面に目を通す。
花柄が透けて見える涼し気な便箋には、細く、しかし、しっかりとした筆圧で行儀よく並べられた文字列が綴られていて。
「ふふ……」
使い慣れていないらしい季節の挨拶を織り交ぜた内容に思わず笑みがこぼれる中、あたしはその一文を見つけて心を弾ませた。
『今度、遊びに行きたいです』
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