パレットなSummer Festival!(2)
あたしとトキ君のことを浅緋ちゃんに聞かせるなら……おそらく、彼女達が一緒に暮らすようになる前の出来事が良いだろう。
それは、当時大学一回生だったトキ君が浅緋ちゃんと再会するまでの約二ヶ月間を指す。
この期間は、あたしの数少ないアドバンテージの一つであり、きっと浅緋ちゃんが聞きたがる事柄なのだろうと考えた。
そしてあたしは、彼女に話して聞かせるために、思い出を紐解いていく。
あれは、言葉の上では夏に入った五月の半ばあたりのことだ。
当時三回生だったあたしはその頃ひどい金欠で、空腹でぺしゃんこになったお腹を抱え、一人大学のラウンジで突っ伏していた。
腹の虫を飼い始めて今日で三日目になるだろう。
「はぁ……」
くぅくぅと情けない鳴き声をあげるお腹を押さえていると、口からため息が漏れ出た。
あたしは普段からため息を吐くということをあまりしない。
けど、この時ばかりはひもじさに気力を奪われ、ことあるごとにため息を吐いていた。
それもこれも、倹約の過程で一つ失敗したのがそもそもの原因である。
卒業後、世界を一周する。
この目的の為にあたしはアルバイトと貯金に精を出し、そして倹約に倹約を重ねていた。
その倹約の一環として、一度預金したお金には卒業するまで絶対に手を付けないという、簡単な決めごとをしていたのである。
が、今回はそれが完全に裏目に出た。
と、言っても大したことではない。
ただ、生活費をまるごと世界一周の為の預金口座に振り込んでしまっただけのことだった。
つまり今、あたしは意固地になっているのだ。
ちょっと銀行まで足を運び『間違えたのだからしょうがない』と自分を許容して、間違って振り込んだ生活費を引き出してしまえば空腹に関しての問題は解決できる。
しかし、それでは『一度預金したお金には卒業するまで絶対に手を付けない』という決めごとを破ることになってしまう。
だから、それだけは避けねばなるまいとあたしは空腹を堪えるのだった。
とは言え、先月分の生活費の残りで次の給料日まで過ごすのは中々容易なことではない。
先週までは親友に昼食を恵んでもらうことで、食事に関しては首の皮一枚繋がっていたのだが、彼女は今週から季節外れの実習に向かい二週間程あたしの傍にいない。
そこであたしは一食分にも満たない量の食事を朝と夕の二回に分けて摂取し、なんとか二週間を食いつなごうとしていた。
おかげで、この空腹感である。
時折、腹痛と間違えそうなその感覚に、あたしは突っ伏するより他なかった。
「くっ……菜月。君が傍にいてくれたなら、こんなことにはなっていなかっただろうに……」
力なく握りこぶしをつくり、だむっとテーブルを叩きながら、あたしは弱音を声に出す。
そして、今この場に彼女さえいてくれたならと夢想した。
もし菜月がいてくれたなら、あたしは今頃、彼女のお弁当箱から可愛らしい一口サイズのおにぎりや、冷めた油が舌にざらつくウィンナーを頂戴出来ただろう。
なんてことを考えだすと、あたしは実習先で奮闘しているだろう親友が恨めしく思えてしまった。
自身のドジが原因であるにもかかわらず、彼女に若干の逆恨みを抱いてしまう。
そうやって、
これを宥めることは現状不可能だろう。
あたしは諦めの境地でただただ空腹感を紛らわせようと、意味もなくおでこをテーブルにこすりつけた。
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