第9話 樹里の手紙
二週間後、銀花と夜古はまだ成城音楽高校でまったりとした生活を楽しんでいた。そして樹里から銀花あてに手紙が来る。メールではなくわざわざ手書きの手紙で、今回の失踪も誘拐も全部自分の狂言だった事を告白し、その手紙を刑事に渡してもらうように頼んでいた。
「ちゃんと約束守ったね。神田君とうまくいっているみたいでよかった。手紙の字が楽しそうだ」
「ふふふ。そーやなー。心配したんやけど。神田君も本当は全部が樹里さんのしくんだ狂言やてわかったやろ思うて」
「それはモスクワに出発した時にはうすうす気付いていたよ。だってマフィアがあんな面倒くさいシナリオ書くわけないでしょ。たとえエミリアネンコ家から頼まれてもさあ」
「狂言だっちゅーこと分かっていても恋に落ちるんやな」
「いや逆だよ。樹里さんが仕組んだ狂言だって分かっていてさ、でもどうしてそんな事したんだろうって動機やトリックを考えていくうちに否応なく惹かれていくんだ。だって彼女のこと、真剣に考えるでしょ。それで危なっかしい奴だって思う。で、全部解き明かすとその根っこの動機が『あなたが好きです』って事なんだから。まあ、恋に落ちるよね。最後に山場もあったし」
「ふふふ。夜古らしいなあ」
「でも紗枝さんと恋に落ちる可能性もあったから心配した。だって紗枝さんの方も同じ手を使ってきたから。危なかったよー」
「この手紙んこと、紗枝さんに早よう教えてやりましょ。これで紗枝さんが罪に問われる事は無くなりますさかい。でも、教えたらすぐにロシアに行く言うてきはりますやろな。ビザ取るん手伝えとか」
「でもペテルスブルグに行ってもどこに居るか分からないじゃない」
「いや、それは何とかなりますやろ。エミリヤネンコ家の孫娘で日本人のハーフ言うたらどこに居てもすぐ聞き出せますわ。ちーっと誰かに金渡せば」
「そう……。紗枝さんならやるね」
「へー。第二ラウンドや。面白うなってきますえー」
「はははは」
「ふふふ」
2016年2月14日
著 北風とのう
誰がジュリエットを眠らせたのか 北風とのう @tonou_kitakaze
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