第一話
今の霊体の状態で長くこの人間界にいると、何かしらの支障を来すのでここから天界へ移動するわけだが、移動する間の意識が飛んでしまっていて、どのようにして天界に来れたのかわからなかった。とりあえず、意識が戻った時には薄暗い、広い空間に出ていた。
「なぁ。俺らは今どうやってここまで来たんだ?」
初めての天界なので、いろいろと知りたいところだった。
「ああ。今は
「本当にか?物語の中に出てくるようなものが・・・・・いや、嘘だろ」
「嘘はつかん。証拠にお前今体が重いだろ、それは虚無間を通ったときかかる負荷の影響によるものだ」
言われてみれば、確かに体の動きが悪い気がする。
「マジかよ」
正直、かなり驚いた。すでに死んでいるので、これからどんなことが己の身に起きようとも、驚かないと思っていた。しかし、生きた人間が知っているはずのない、科学的にも証明できなさそうなことを体験したのだ。脳内で状況の整理をしていると、死神の女が鎌で大きな円を書いた。するとそこには、新たな空間への入口のような穴が空いた。
「さあ、入れ」
死神の女が、その空間に一歩足を踏み入れた。ついて来いと言うわけだろうか。
少し躊躇したが、ここにいても何も始まらないので、とりあえず入る。出口の光はすぐに見えた。数歩歩いて穴の外に出ると、これまた驚きの光景が、眼下に映った。夜のような暗い空間に、月明かりが淡く照らしている。足元に地面は無く、あるのは大小様々な無数の島々で、それは広い空間の中にバラバラに浮いていた。
「なんだここ・・・・・・・・すごい、こんなの見たことない」
「ここは天界において、我々死神の領域とされる冥府と呼ばれる場所だ。まあ、人間には珍しいだろうが、これが天界の普通だ、さっさと慣れろ。」
またもや見たことのない風景に見とれていると。
「早くしろ、置いていくぞ」
と、少し離れたところで声をかけられた。これ以上もたもたしていると、本当に置いていかれそうなので、急いで追いかける。移動中は終始無言で、辺りをキョロキョロ見ていると怒られるので、前だけ向いて進んだ。いくらか進んだところで、一つの大きな島へ着いた。
大きな門の前の門番に用件を伝え、通してもらう。門番の横を抜け、門をくぐり、中へ入る。その島には大きな建物が一つあるだけで、その他は何もない。その唯一の建物は辺りの薄暗さのせいでもあるが、廃ビルのようなたたずまいに見えた。中に入っていくと、外と変わらない薄暗いロビーで、カウンターには黒いフードを深く被った少女が座っていた。薄暗いし、フードを深く被っているので正直気味が悪気というか、怖いというか、好印象ではないのでビクビクしながら横を通ると、不意にカウンターの少女が立ち上がり、顔を上げた後お辞儀をした。不意のことだったので、肩がびくっとした。普通に見たら可愛らしいだろうが、暗い照明のおかげで半減だ。それに目が光って見えた気がする、いかんこれ以上恐怖を煽ってどうする!!気にしない。気にしない。自己暗示をかけながら先を行く死神の女についていく。まるで、ホラーゲームの舞台のような廊下をしばらく歩いてエレベーターに乗った。17階で止まり、また長い廊下を歩く、他の部屋のとは一回り程度大きい扉のある部屋の前で立ち止まった。どうやらこの部屋にはいるようだ。
「なあ、今から何すんの?」
とりあえずついてきものの、俺は今から何をするのか、誰に会うのか、そんなことはさっぱり分からなかった。
「今からこの部屋にいる管室長に会う。詳しいことは管室長から説明があるだろう。じゃあ入るぞ」
「ああ」
死神の女がドアノブに手をかけ、扉を開いた。
「失礼します管室長。例の死霊を連れてきました」
開いた扉の先、部屋の中に、大きな本や多くの書類が山積みにされている机から一人の人影が見えた。
「やあ、遅かったね」
くるっと大きな椅子を回し、一見優しげな目をしているが、何というか、他にものを言わせないような威圧感のある男性が、かけていたメガネを外し、こちらを向いた。
「君が新たに死神となる人だね、まあ楽に椅子にでも腰かけてくれ」
と言うと何やら手で操るような仕草をすると、程よく空いた俺と死神の女の間に
椅子が二脚現れた。
「さあどうぞ」
「し、失礼します」
隣の死神の女と同時に椅子に腰かけた。
「よし、それじゃあ本題に入ろうか。君は死んだ、だが天国には行かずここにいる時点で、君はこれからどうなるのか、わかるよね」
わかるも何も、来る前にお前は今日から死神なって、答えを言われているのだ。
「死神になるんですよね」
「その通り、君はこれから死神として我々のいる天界のために転生するまできっちり働いてもらうよ」
「は、はい」
さっきより声のトーンが一つ下がったので、緊張して少し上擦った声が出た。
「まあ、仕事といっても人間達が想像しているように、人間界にいる死霊を天界へ連れて来たり、天界にいる霊の管理したりするのが仕事さ。一見簡単そうに見えるし、実際普通の霊に対して仕事をするのは簡単だしね」
今のを聞いて少しホッとした。しかし、そんな安堵の気持ちも束の間だった。 「でも安心してよ、君にそんな簡単な仕事を任すつもりはないから」
ニコッとした笑顔とは裏腹の意味を含んだような言い方に、背筋が凍ったと同時に大きな絶望が襲ってきた。ああ、こんなことになるなら意地でも断って天国でまったり暮らせば良かったなと、今更遅いが後悔していた。
「あはは、そんな絶望した顔しないでよ、大丈夫、君が一人でリスクの伴う大きな仕事をすることはないよ、必ず班で動くから心配しないでくれたまえ」
「わかりました」
人数の問題ではないのです!!心の中で思いっきりつっこんでいた。管室長様、管室長様、あなた様は人の心の中など簡単に読めてしまうのでしょう、ならば気休めでも良いので優しい言葉をかけて欲しかったのです。安心させて欲しかったのです!!!俺の悲痛なる叫びが心の中に響く。ここにきて気づかされたが、俺は相当怖がりな性格らしい。一方管室長はというと俺の方を見てクスッと笑っていた。管室長は終始俺の反応を見て楽しんでいるように見えて、何というか居心地の悪い気分だが、それを見透かされるとなぜだかマズイ気がするので、必死で感情を見透かされないように表情を殺した。
ひとしきり、この謎のやり取りが続いたところで、管室長が場を正すように一つ咳ばらいをした。
「さあ、さっさと彼を死神にしてしまおうか」
管室長の声を合図に隣にいた死神の女が、どこから取り出したか知らないが、ビンと紙を持って管室長の机の上に置いた。管室長がビンを手に取る。何が始まるのか、何をされるのか、分からなかったのでドキドキしながら管室長の行動を見ていると、どこからともなく小さな鎌を取り出した。そして、おもむろに管室長が自身の腕を切った。すると、切り口からモワモワとした煙りのようなものが出ている。それを管室長は上から吸い寄せる形でビンに入れていく。ビン一杯に入った頃には、切り口が塞がり煙りのようなものは消えていた。管室長がビンに蓋をして机の上に置いた。
「それじゃあ、僕の前に来てくれ」
先ほど取り出した鎌はまだしまっていない。おそらく俺を切るために呼ぶのだろう。先が見えているって言うとこと、管室長の異常な威圧で一歩がなかなか踏み出せない。
「大丈夫だよ。君はもう死んでいるのだから大抵のことでは傷付かないよ」
確かにそうだ、そうなんだけど・・・・・いや、もうここまで来たら後には引けない。一歩一歩前に歩いていく。遂に管室長の前まで来てしまった。
「さっき見たいに君の霊体の一部を切らせてもらう。そのあとに、僕の死神の霊力が入った霊を入れる。そして切った君の霊体の一部は万が一霊体が自然回復できないような損傷を負ったときに、それを使って修復するんだ」
そして、鎌を手に持った。
「それじゃあ、切るよ」
「は、はい」
サクッと腕の上部を切られた。痛いという感覚は無く、どちらかというと魂が抜けていくような感覚だった。切られるときつむってしまった目を開けると、管室長の時のようにモワモワと煙りのようなものが上がっていた。管室長がそれを慣れた手つきでビンに入れると同時に、管室長の霊が詰まったビンを取り出し、切り口から出る霊が十分に詰まったところで、腕の上に開けると出る一方だった霊が一転、管室長の霊を吸いだした。全部吸ったところで切り口が完全に塞がった。
「よし、完了だ」
管室長はビンを机の上に戻し、紙に何やら書き始めると同時に口を開いた。
「今君に入れた霊があるだろう。あれは君が死神として力を奮う際に必要となるものなんだよ」
そう言って書き終えた書類机の上に置き立ち上がると、何もないはずの場所から大きな鎌が出てきた。
「例えば、このように鎌を出したりするときに使う、天界の使者なら誰しもが与えられている力を今君に与えた。だから、鎌を持っていれば出し入れできるし、思ったように操れるようになる。まあこれは主に悪霊と対峙するとき使うから、君にはこれから必要になって来るだろうね。それと細かい使い方はクレア君に聞くと良いよ」
「ちょっと待ってください管室長!!何故私なのですか!教育係は他の者のはずです」
「今、僕の権限で変えたよ。それと班の配属もクレア君のところにするよ」
再び、クレアと呼ばれている女が声を上げようとすると、
「反論は認めないよ。確か君の班は結成仕立てで一人くらい人数が少なかったはずだろう」
「くっ・・・・わかりました」
渋々といった感じで承諾した。どうやら俺は最初に言っていた仕事をする班において彼女の班の一員になるようだ。
話すことが無くなり少しの間沈黙が続いた。どうしよう、よろしくとか言った方がいいのかな?迷いながら隣の様子を伺うが、止めておいた方が良い気がしたので止めておく。この重い沈黙を耐え抜く覚悟をして少ししたころ、管室長があっと声を上げた。
「そうだ君にもう一つ説明することがあったんだ」
「はっはい!!」
余りにもいきなり声をかけられたのでビックリして反射的に返事してしまった。
「これから君には大きな力を持った悪霊と対峙してもらうわけだが、注意して欲しいこととして言っておく」
また声のトーンが一つ下がり、いきなりの真剣モードに固唾をのんだ。
「まずはくれぐれも悪霊に飲まれないようにしてくれ、奴らに飲まれると面倒だし、飲み尽くされれば死神には戻れなくなる。あと悪魔や天使には気をつけて欲しい。奴らは悪霊よりタチが悪い、できれば出会いたくないが、もし出会ってしまったら班長のクレア君の指示にしたがって正しく対処して欲しい」
「わかりました」
やっぱり天界にも危険が一杯ではないか。それに悪魔はともかく、天使までにも気をつけろとはどういうことだろう。
「まあそうならない為に班で仕事をしてもらうんだけど、今話したことはくれぐれも忘れないようにね」
疑問だらけだったが、とりあえず気をつけなければならないものは覚えた。
「じゃあ最後に。君はまだこの死神の組織の名前を知らないだろう。あと僕の名前もね」
「はい」
「なら改めて、この天界において我々死神は他の者から
Grim Reaper 二話章人 @hanehito
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