Grim Reaper

二話章人

プロローグ


かけがえのない命を無くした時、人はその死んだ霊を天界へいざなう黒い影 と出会う。彼らは神話上の神であり、死を司る神である。そう、冥府においての魂の管理者である彼らを人々は、Grim Reaperしにがみと呼ぶ。


 「ん......ん?」

目を開けてみるとそこには見慣れない白い天井があった。首だけを動かして周りを確認する。長く眠っていたようなので体がけだるい。重く中々動かない体を無理矢理起こし立ち上がる、そうすると、ベッドの上には横たわった俺の身体がそこにあった。顔には白い布がかけられていた。思考回路が状況を整理し、理解するための材料は、それだけで十分だった。別に驚きもしない。どうやら死んでしまったようだ。 

 

 齢にして17、鳴瀬 雷なるせ  あずまの人生は早々に幕を閉じてしまった。        俺の人生は............あれ? 思い出せない。記憶がない。名前、歳、誕生日などの基本的なことは覚えている、しかし何がどうしてどのように死んだのか、生前の家族関係、友人関係等覚えていたいところがすっぽり、脳の中から引き抜かれたように記憶の中に穴が空いてしまっている。思いだそうとすると、頭痛のような痛みが頭の中を駆け巡る。とりあえず、記憶について考えるのは止めよう、これ以上頭痛は味わいたくない。

 「はぁー」

自然とため息が漏れてしまう。今は体と繋がっているがその繋ぎ目がだんだん薄くなっている気がする。死んだことがないのでこれからどうなるのかはよくわからなかった。死神にでも連れていかれるのだろうか。その後極楽天国ライフ送るのだろうか。それとも迎えは来なかったりするのだろうか。迎えが来なかったらこのまま死霊行きなのだろうか。そんなことを考えながら、

 「これからどーすんのかな」 

何気なくつぶやく。誰も聞いていないのはわかっている。変わらず部屋は静まり返っている。

 「.......つけた」  

ん?なんだ、なんか聞こえたような気がした。身の辺りから部屋全体を見る、誰もいない。死んでなおこんな心霊現象みたいなことに出会うとは思っていなかった。他の死霊の仕業か。いや周りにそんなやつはいない。いろいろ考えていると、ベッドの上の死体の上に、一人のぱっと見でもわかるような綺麗な女が乗った。赤い髪を持ち、黒いコートを身に纏っている。その女の黒いブーツのヒールが死体の腹に食い込んでいる。死体を通じて、霊体の方まで痛く思えてくる。そんないたたまれない俺の姿を見ていると、鼻筋の通った綺麗な顔がこちらを向き、見下ろし、指を指し、あたかも上司が部下に命令するように

 「お前は今日から死神な」

と、いかにも気の強そうな目を向けて言った。まずは驚く、次にやけに上からの物言いだなと思う、そしてやっと言われたことに対して思考回路が回ってきた。

 「は?」

 「は?ではない、私が登場してから大分時間が過ぎたぞ、そろそろその脳みそで状況を整理しろ。」

いやそんなこと言われてもと思ったが、考えてみるとありえないことでもない。死霊が死神になるのもありだと思う。しかし、

 「なんで俺なんだ?」

そこが気になったところだ。何故俺なのか。他にもいろいろいそうなのに。 

 「上が死人リストの本をパラパラっとめくって適当に指差したのがお前だったとは聞いた。本当はもっとちゃんとした理由があるだろうがそんなこと私に聞かれても知らん」

随分雑な決め方だなと心底思う。しかしだ、このまま天国に行くより死神になる方が面白いのではないかという俺の中の好奇心的要素が働いてしまったのかもしれない。俺は答えた。

 「よくわからんことだらけだけど、まあいいよ死神やったげる」

すると、

 「はぁ?なんで貴様が上から物を言っているんだ」

 え?ちょっと

 「これは貴様が決めることではない命令だ」

強制でしたか、こりゃ失敬しました。

 「それじゃあ切り離すぞ」

女が手早く取り出した鎌で死体とのつながりを切ろうとする。

 「!ちょっと待って、あぁぁー」

こうして俺は死を司る神Grim Reaperしにがみとなるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る