逢魔時に会いましょう

@aoiro_

第1話

腕時計をふと見た。5時だった。

朝ではない、夕方だ。太陽が沈みかけている。

この光景を切り出すと、まるで日の出のような光景だ。一瞬、自分がどの時間に存在しているか分からないような、そんな気分にさせられる。


遠くを見ると、女性の人影が見えた。ここは、人の少ない駅近くの公園前だ。

出張で見知らね土地に来た自分は、この近くにホテルを予約した事は後悔した。なんせこの街の土地感がなかったからだ。


てっきり近くに飲み屋があると思っていたが、チェーン店以外は公園と団地以外は何もない、人気が少ない場所だった。


そのせいで女性の人影は異様に浮いて見えた。単に周りに何もないから、そう思えたかもしれない。


いや、やる気がない仕事で出張させられたためか。自分の気持ちを探ってみても、やるせない虚無感から、女性の人影に、つい魅入ってしまったかもしれない。或いはその両方か。


赤焼けに染まった太陽と女性の人影が、長く、長く伸びていた。その女性も、長い髪で直立不動だった。

ひどく長く伸びた髪の毛だったが、美しいと思える気分になれなかった。


真っ直ぐに伸びた影は、自分の方向に伸びている。小さな公園と住宅の間に敷かれたコンクリートの道に対して真っ直ぐ影は伸びている。

結構な距離は離れているのに関わらず、影は近くまで伸びているので、彼女がまるて近くにいるような気がした。

自分の距離感は狂っているのだ。


彼女の影を見つけてから、その感数秒だったかと思う。いや、数秒だったかもしれないが、もっと長い時間がたった気さえする。距離感だけではなく、時間の感覚さえ狂ったか。分からない。


そんな時に影が動いた。首を傾げるような仕草だった。


どうやら彼女は背中を向けているようだった。

首傾げたかと思ったが、そのまま頭は横に下がって行った。右側だ。右側にゆっくり、体を折り曲げたのだ。


腰の位置は変わらない。横にぐっと、ぐっと、ぐっと、まるで、くの字を描く様に、身体を右側に曲げた。

髪の毛は重力に応じて、ダラっと水鳥におりている。

影もその形を真似している。


ふぅ、っと息を吐いてみた。


冷静になれば、君が悪いような気もしたが、出張用のビジネスホテルに向かおうと踵を返した。


いや、踵を返そうとした時だ。


その瞬間、影の形が変わったのだ。

早い動きではない。ゆっくりと、右側に逸らした、くの字から、背中を反らしたのだ。

こちらに背を向けているので、背中を反らした時も、やはり髪の毛は重力に逆らえず、ダラんと、下に垂れている。

身体を反らしたら、ゆっくりと女の額が見えて来た。そして、まつ毛が見えて来た。


そのまま、そのまま。

そのまま、身体を反らして行くと。


女と、目が、合った。




背面に反らした、女と目が合った瞬間、その体勢で。

体をは背中を向けて、反らしたまま、こちらに、早いスピードで、近寄って来た。近寄って来た。


早い。早い。まるで自分が石化したように。この状況が他人事のように、動けなかった。

いや、動こうと思い、筋肉に力を入れる前に、自分の目の前まで来ていたのだ。


近寄ってきて分かった。女は異様に大きいのだ。反り返った体勢で、自分は女の顔の位置は、自分の目の上高さより、高かったのだ。


女は言った。





「お久しぶり亅





私は気を失った。

逆さまの女はの目は空洞で、口だけが動いた。

視界が暗闇が見え始めた瞬間、その女の存在を理解した。


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