思春期というのはアンビバレントだ。
少し世の中の事が見えるようになったけれど全てが見通せるわけじゃない。
ひねているのに妙な潔癖さも持ち合わせている。
この作品は、そうした感情を描写するための環境設定が上手い。
飲酒運転の事故により父を亡くした母子家庭、忙しく働く母と妹の面倒を見る姉。
事故の背景やを通して世の中を見てうんざりしていながらも、だからと言って狡猾に立ち回れるわけでもなく学校では妙な真面目さを発揮して人間関係で失敗してしまう。
現実を知った気になりこんな世の中なんかと憤りを覚える。
たしかに、思春期ってそういう感じだった。
大人たちは当時の自分の姿を思い出しながらそう懐かしむ。
若いねっと生暖かい目で少女を見つめる。
けれど、ときどき思うのだ。
今の自分が考えるほどに当時の自分は幼さかっただろうか。
もっと色々と考えていたのではないか、もっと色々と見ていたのではない。
ただそれを忘れて未熟さだけを記憶しているのではないか。
子供は大人が考えるより大人なのではないか、と。
だからこそ主人公の最後の独白にドキッとしてしまう。
君どこまで自分のことが見えてるの?