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人沼駅へ戻れる手前で漸く、耳が少し聴こえるようになってきた。

鳥の囀りが微かに響いてきた。

駅前には、バス停があるものだと思っていた私は、バス停看板をキョロキョロと探してみたけど無い。

この人沼駅に住んでいる人はいるのだろうか?

住んでいるとしたら山奥しかない。

人沼駅の入り口に在る三段の小上がりの階段に脚を伸ばし座った。

緊迫感が抜け、喉が渇いた。

さっき、電車の中で携帯電話をさがした時に、昨日の飲み掛けのペットボトルも鞄に入っていたのを思い出し、取り出した。

電車の中では、お茶のペットボトルを見て、昨日また出し忘れたから捨てないとと、自分のだらしなさに自己嫌悪したけど‥

自動販売機もない所に着いてしまった今じゃ、飲み掛けのお茶を鞄から取らずに、入っててくれて逆に良かったと、電車の中の自己嫌悪を撤回した。

昨日とは、少し味が違っているかも知れないけど、お茶は美味しかった。


気を取り直して、トンネルとは反対の右手側の道へ行ってみることにした。

「きっと、誰かいる。民家を見つける。」

森の中に1本の道が続いている。

人沼駅周辺には、大きな木が太陽に向かって伸びている。

東京駅周辺では、ビルが聳え立ち、ビルの中では沢山の人達が働いているんだと森の木を見て、会社を思い出した。

今頃‥

緊急連絡先の親へ連絡が行っているのかと考えたら気が重くなった。

それでも、帰る手段を探さないと帰れないのだからと、森の一本道をひたすら歩いた。


日が落ちる前の空の色だった。

日中の青い空と、夕暮れのオレンジの空が重なっている。

歩いていた道は、道ではなく、草叢になっていた。

草の青臭さに気が付き、樹海に入ってしまっていた。

これは、道を間違えてしまったのだと踵を返した。

鞄はボストンバッグ形で、右と左と交互に肩に掛けながら歩いたものの‥

脚も、肩も疲労でパンパンだった。

朝の満員電車、トンネルまで歩き、また戻り、また歩き、また戻る。

結構なエネルギーを使ったことが疲労となって現れる。

草叢を戻って道を確認してみたところ、道を間違えたのではなく、道が途中から草叢になって、道じゃなくなっていたのだった。

これは、行く先は樹海‥

日も暮れそうだし、真っ暗になってしまう。

このご時世、キャンプ道具やテントもなく森で一夜を過ごす何て私には出来ないと、左の道も諦めて、ベンチの在る人沼駅へ戻るしかなかった。

キャンプ道具があっても、一人で森へは泊まろうと思うアクティビさはない。

黒いブーツには、草叢の千切れた草が数本まとわりついていた。

樹海から人沼駅へ歩いて来た記憶は余りなく、辿り着いた。

振り出しに戻った。

もぉ時期、日が暮れる。

山と山から差し込む夕陽がとても綺麗だった。

小さな改札を潜り、白いベンチに鞄を置いた。

「はぁー。」

と思わず無防備にボストンバッグの持ち手の部分を手から離してしまった。

ボンと鳴るボストンバッグの重みとの音と、鈴の音が「チャリチャリン〜」

と聞こえた。

音の先を見ると、鞄のスライドに付けていたルアーのキーホルダーが鞄を置いた勢いで、丸カンが緩んで取れてしまったのだ。

キーホルダーをホームのコンクリートから拾い上げた瞬間。

視界にクーピーで塗ったかのような、黄緑色の虫が私の前に現れた。

「覚えていますか?この間、助けて頂いたカマキリです。」

カマキリが喋ってる?

人沼駅のホームのコンクリートの床に手を着いて、屈んでいる姿勢でカマキリを見つめた。

「ちょっと待って‥カマキリが喋ってる?」

私は、この状況を理解するまで時間を要した。

「‥」

きっと、人沼駅と知らない土地に来てしまい、泊まる所が見つからず、歩き過ぎて、色々と受け入れがたい出来事が多くて疲れて、とうとう頭おかしくなってしまったのかも知れない。

鈴のキーホルダーを握り締め、しゃがんだ。

顔を上げ、夜になろうとする空を見つめ考えてから口を開いた。

「カマキリさん、喋れるの?それとも私の幻聴?」

カマキリの特徴でもある前足を動かしカマキリが言った。

「驚かせて、すみません。貴方がおかしくなった訳じゃないですよ。幻聴が聴こえるのではなく、私が本当に喋っています。名前はグリです。」

「ああっ。私は村瀬愛と申します。」

「1月に、愛さんの白いマフラーに乗せて貰い、その後、優しく外の木の枝に降ろして頂きありがとうございました。」

「覚えてますよ!駅の地下にある駐輪場で、いつも通り自分のママチャリが置いてある列に行ったら駐輪場には珍しい色が見えて‥それがカマキリさんでした。外は寒いから、中へ入って来てしまったのかな?とも、あの時考えたのですが‥」

「いぇいぇ、迷い込んでしまった私がいけないのです。でも、気付かれず自転車に引かれていたか?誰かに踏まれていた可能性もありました。」

「そぉ思って、つい‥白いマフラーに乗せちゃいました。だってあんな狭い間隔で自転車が沢山並んでいて、自転車ラックのすぐ下にいらっしゃたじゃないですか?カマキリさんにを外に案内しないとと思ったんです。あの駅の地下の駐車場ではカマキリさんの目線からでは危険が多すぎます。」

「白いマフラーフワフワでしたよ。」

「自分の手で、カマキリさんの繊細な身体を触るのが怖かったので‥白いマフラーへ誘導しちゃいました。ごめんなさい。」

「自転車の前籠にマフラーをそっと乗せ、ゆっくりと車体を押し地上へ上がり、スタンドを私が落ちないように止めてくれて、駐輪場の出口近くにある公園の木へ私の乗ったマフラーを葉っぱと枝へ近づけて返してくれました。無事、自然の場所へ帰れました。」

カマキリの由来となったであろう前足を動かしながら映画のCGを見ているかのように、カマキリのグリさんは話してくれた。

グリさんは、前足を揃えた。

人間で例えると、両手を合わせて“お願い”の時の格好になっていた。

「あの日、助けて頂いたお礼と言ったら厚かましいですが、もぉ夜になります。私の知り合いの家をご紹介します。」

「えーっ?本当?野宿かと思ったいたから、嬉しい!まだ3月でしょ?寒くて外で寝れないもん。」

「でわ、私がご案内します。」

「案内って?どぉすればいいですか?」

「ジャケットのラペルに行ってもいいですか?」

「ここ?」とラペルをパタパタさせて見せた。

鈴のキーホルダーをジャケットのポケットへ仕舞い、恐る恐る右手を差し出してみた。

グリさんは、ゆっくりと私の指へ前足を片方づつ乗せた。

カマキリを触るのは初めてで、くすぐったのか?チクチクするのか?その感覚が解らずドキドキした。

粗塩を一粒づつ指に乗せた感覚だったのが前足。

グリさんの身体は軽かった。

そっと立ち上がり、顔の近くへ右手を持ち上げ、きれいな黄緑色の姿に見惚れてしまった。大カマキリ特有の黄緑色。

グリさんが右の前脚で私のジャケットを指した。

「ラペルへお邪魔してもいいですか?」

「あぁっ、すみません。」

と私は右胸のラペルの前に手のひらをくっつけた。

「私が、ジャケットのペンダントになりますね。カマキリのペンダントじゃ可愛くないと思いますが、許してください。」

私は顎を引いてグリさんの光る目を見つめた。

「でわ、行きましょう。」

「お願いします。」

白いベンチに置いてあった鞄を左肩に掛け、グリさんの案内に着いて行くことにした。

人沼駅を出て、トンネルとは逆の左手側の樹海があった道の方へ進んで行った。

「さっき、こっちへ進んだら道が途中でなくなりました。気が付いたら草叢で、ブーツが草まみれになっちゃいました。」

後、30分も経てば完全に夜になる。

夕陽が沈み、夕焼けが私の背を照らす。

街灯など1ツもない。

グリさんを信じて進む他なかった。

その前に、カマキリが喋っている事を、すんなり信じていた私がいる。

樹海の道を、また歩き出した。

今度は、一人じゃない。

一人+一匹だ。

「ところで、駐輪場助けてくれた時、私を見て怖いとか?気持ち悪いとか思いはしませんでしたか?」

「気持ちが悪いとは思いませんでした。でも、極小の身体の一部を傷つけてしまうのではないか?とは思いました。」

まだ、道になっている場所だったけど、少し足元と、グリさんがペンダントになっているラペルも交互に見ながら歩いている。

「愛さんぐらいの年頃の女性は、虫何て気持ち悪いと思うものだと思っていました。公園の木に戻して頂いた時は、私は私で驚きました。」

「いやぁ〜昔、親父が竹をどっからか?貰って来たんです。竹と笹の間に、カマキリとカマキリの卵がついていて、それに気付いた親父が一本の竹だけ、庭の木にそっと立てかけて、カマキリは逃がしてやるんだ。って言ってたのを娘として、思い出しちゃいました。親の言う事を守ってみただけです。」

「お父さんにも、私の仲間を助けてくださり親子で優しいんですね。」

「遺伝です。遺伝。」

私は、ちょっと恥ずかしそうに言った。

「でも所詮、虫です。慕ってくださる人もいれば、虫が苦手な人も沢山いらっしゃるかと‥見た目が綺麗でカラフルな虫は少ないですし、沢山脚があったり、動きが怪しく人間の目に映ってしまうこともありますよね?」

「変な言い方、やっつけていい虫と逃がす虫って虫さんたちにとっては偏見ですが人間には、その区別があるかも‥」

「それに、たががカマキリを助けたところで何もないですしね。」

「そんな事ないです。」

少し俯いた。

「もし、私に気付いて頂けなかった場合‥大きな大きな自転車に引かれていたかも知れません。私が駐輪場から出れたとしても、相当の時間を要します。出る前に命尽きてしまっていたかも知れません。虫の一匹や二匹、死骸になっているのは日常です。カマキリが見えていない人、カマキリだね。虫だね。で終わる人。皆、悪気はありません。それが私達の宿命です。」

「助けたことは、私の自己満足だったかも知れません。でも、最悪の事態が起きてしまい‥グリさんが駐輪場で引かれている姿は見たくなかっただけです。キレイ事言ってしまい、ごめんなさい。」

「こんな小さな私に、気付いてくれてありがとう。」

「目立ちましたよ。そのトレードカラーの黄緑。クリームホワイト色の駐輪場床と、クリーム色の自転車ラック から一際映えていました。」

ちょっと、我ながらしんみりしてしまい話題を少し変えてみた。

「グリさんは、女性?男性?あっ、雌ですか?雄ですか?」

「雌です。カマキリでも、怖い雌。」

「噂で聞いたことあります。カマキリの雌は雄を食べちゃうって?」

私は指先を丸め、噛む歯をイメージして動かした。

「カマキリの雌全てが雄を、食べる訳じゃないのよ。カマキリの生態だから仕方がないんだけど‥この間、聞いたわよ。公園のベンチで若いカップルが座ったのよ。男の方が言ってたわ。「君の為なら死ねる!」って。まぁ、カマキリはグロテスクに見えちゃうけど、カマキリだって「君の為なら死ねる!」って雄は思って食べられているのよ。人間もカマキリも恋をすると盲目になっちゃう訳。同じよ。ふふふ。」

「えっ?それ本当?」

「冗談。でも、公園で男の人が思いをぶつけていたのは本当。」

「いいねー。若い時に言えるセリフだよね。」

ラペルの位置にいるグリさんとの距離が、ピンマイクに向けて話ている感じだった。

以前、仕事で使用していたのを思い出していた。

夕焼けも、三分の一になり夜空がメインになっていた。

星も見える。

何処と無く、グリさんの黄緑色の大きな目と身体が光って見えた。

「3月と言っても、夜はまだ冷えますよね。」

グリさんに視線を向けて顎を引いた。

背中には、使い捨ての貼るホッカイロを付けているけど、中身の鉄粉が固まり膨らみ持続時間が過ぎていた。

「あっちです。」

と、グリさんが前脚で方向を指してくれた。樹海ではなく細い道が確かにあった。

「こんな道あったっけ?さっき無かったよー。」

ぶー垂れ気味で、グリさんに言ってしまった。

「解りずらいですね。初めて人沼駅へ来た方は迷うみたいですよ。迷いの森です。」

「怖いー。」

私は笑いながら言った。

グリさんのお陰で、不安だった気持ちが、すっかり楽しくなっていた。

日暮れギリギリだった。

辺りが暗くなった森の中に、街灯が一つ灯されていた。

「あっ!明るい!」

野宿じゃない。人沼駅にも民家があって、泊めてくれる人いたんだ!

と思ったら、つい嬉しくて発してしまった。

「そぉです。あの電球の所が私の友達の家です。」

グリさんも、嬉しそうに言った。

昭和の頃、電柱にあった型の傘が少しよれている鉄で出来ている、電球は檜の枝に掛けられていた。

檜の後ろは山の斜面になっていて、そこに木製の扉が付いていた。

扉は私の身長より低く1mぐらい。

私は、少し前屈みになり扉を2回ノックした。

トントンとノックの音の後に低い声が聞こえた。

「どなたですか?」

「お久しぶりです。グリです。」

とグリさんが返答した。

木製も扉が開いた。

目を疑った。カマキリが喋っている事も普通じゃない。

扉の向こうに現れたのがオーバーオールを着て二本足で立っていた熊さんだった。

小学生の時に大好きで、よく遊んだシルバニアファミリーのリアルバージョンになっていた。

熊さんは鼻先を、グリさんに向けた。

「久しぶりです。ようこそ起こし頂きました。」

グリさんが、小さな顔でmm単位の会釈をして「お世話になります。」言った。

私の背丈より低い扉潜り、熊さんの家に入った。

中には、お母さん熊と子熊が1匹テーブルの椅子に座っていた。

壁も、テーブルや椅子も無垢木材で造られていて自然たっぷりのこの場所ならではの内装。暖炉もあって、御伽の国とはこの事かなと思った。

熊さんの家はアメリカ式みたく土足で上がらせて貰った。

私を見た子熊は椅子から降り、物珍しそぉに寄ってきた。

スカートの裾を引っ張り「ねぇ遊ぼうよ。」と鼻先をチョンチョンと上げた。

「お姉さんは、疲れているのよ。今日は、ご飯食べてお終い。」

エプロンをしている熊のお母さんが言った。

「でも、今日はお姉さんが来たから一緒にご飯食べれるぞ!」

熊のお父さんが、私の足下に居た子熊を抱きかかえた。

「グリさんと、お姉さんも、まぁ座ってください。」

遠慮なく座らせて貰った。

「お名前は?」

と熊のお父さんが私に聞いた。

「愛です。」

「いい名前ですね。こいつはブラウン。」

抱きかかえている子熊を揺らして教えてくれた。

「ブラウン宜しくね。明日、遊ぼう。」

「うん。」

とても可愛いかった。

そうも話をしているうちに、熊のお母さんが夜ご飯を用意してくれた。

メニューはグリーンサラダ、鮭とエノキ茸のホイル焼き、キャベツと人参・玉ねぎなどが入った野菜スープ、栗ご飯だった。

朝食を普段から取らない私は、朝から何も食べていなかった。途中で、お茶を飲んだだけだった。沢山歩いたり、電車に引かれそうになったりと普段のOLの1日に比べたら大夫、体力を消耗した。

「美味しいそぉー。」

自分がとても笑顔なのが鏡を見なくても、口元の上がる角度で分かった。

「どうぞ召し上がれ。」

と熊のお母さんが優しく言ってたくれた。

こんなにも、お腹が空いたことは生まれて初めてと思うぐらいで、ついテーブルに前のめってしまった。

その隙にグリさんが、ラペルからテーブルの上に移動した。

私は、まず野菜スープを口にした。

冷えた身体に染みた。

「凄く美味しい。」

少し目尻が潤んでしまった。

普段の生活が、どれだけ不自由なく過ごせていたかを実感した。

毎日ちゃんと、お昼の時間があって食料が買えて食べれる。

お気に入りの珈琲屋さんだって、当たり前の様に利用してたけど、そうじゃない。人沼駅には、珈琲屋さんは無い。

謎の人沼駅と、現実帯びた東京駅との違いを比べていた。

熊のお父さんがグリさんに話掛けた。

「グリさんに、またお会い出来るとは嬉しい。」

「森林保護の方はいかがですか?熊のお父さん達のお陰で人沼駅の森は保たれています。グリーンキーパー、林業、畑仕事、釣り何でも出来ちゃうんですから。」

熊のお父さんは、いえいえと手を振り答えた。

「グリさん達や、小さな生き物から大きな生き物全てのお陰です。」

グリさんと、熊のお父さんが話している間に私は、栗ご飯をお代わりしていた。

家族団欒にお供させて頂き、お腹も一杯にで幸せな気分だった。

熊のお母さんが、食後に暖かい紅茶を出してくれた。

「カップ素敵ですね。」

私は、陶器のカップをグルリと1周回して見た。

「私が作ったのよ。轆轤でね手作り。」

熊のお母さんが、お代わりの紅茶の入ったポットをテーブルへ置いた後、子熊のブラウンを連れてお風呂に行った。

テーブルには、カマキリのグリさん、熊のお父さんと私になった。

グリさんと、熊のお父さんが初めて出会った時の話をしていた。

私とグリさんの出会いも話していた。

ゆったりとした時間が流れていた。

ポットから、紅茶のお代わりを注いでくれた熊のお父さんが私に言った。

「人沼駅に来るなんて勇者だね。」

「ふふ。」

と、グリさんも笑った。

私は「勇者って?」と聞き返した。

グリさんが、熊のお父さんの腕に前脚を乗せて言った。

「当分、熊さんの家にお世話になることと思うから、明日からは、お父さんの仕事の手伝いですよ。」

「えっ?今日は電車ないけど‥明日はあるんじゃないの?ないの?いつならあるの?」

てっきり、明日には帰れると思っていた。1日、会社の無断欠勤。連絡1ツなく外泊。携帯電話は家で鳴る始末。これでは行方不明者届を出される可能性が高いと予測した。いい大人のする事ではないと恥ずかしさと情けなさを思った。

「それがね、いつ帰れるか分からないのよ。」

グリさんが、熊のお父さんの顔を覗き込んで言った。

「帰るには、色々と条件が重ならないと帰れないんだよ。詳しくは情報を集めてから説明するよ。今は確かな事は言えないんだよ。明日聞きに行ってみる。」

熊のお父さんの眉毛が少し下がった。

「でもさ、いつまでも私が熊さん達にお世話になることは悪い気がして申し訳ないって思っちゃって‥全然お父さんの仕事手伝うし、寧ろ衣食住を提供して貰っているんだから当たり前だよ。仕事させてください。宜しくお願いします。」

ここで心配したところで帰れないのは事実。変に不安になっても無駄だと思い諦めざるおえなかった。

それに、居心地は良く人沼駅についても興味が湧いてきたから観光をしてみたいと小旅行気分も半分あった。

まだ、水滴がついているのも気にせず走ってきた子熊のブラウンに、タオルを持って追いかける熊のお母さんの姿があった。

「お風呂どうぞ。身体と髪の毛は、ムクロジの実を潰して使うのよ。後は椿オイルで髪と身体を整えてね。」

と熊のお母さんに説明を受けた。

脱衣場で服を脱ぎ脚の親指に引っ掛かりを感じ、下を見たら両脚のタイツは親指に穴が空いていた。今日の苦労を物語るかのように。

お風呂は外にある露天風呂だった。

カマキリと、熊が喋る場所、人沼駅。

一人湯船につかり今日一日を思い返していた。こんなに星が沢山見れたのは、児童センターで見たプラネタリウム以来だった。

自然の夜空に数多くの星がキラキラと輝いていた。

つい、郊外の温泉に来た気分になってしまい身体からは湯気が出ていた。

逆上せながらも、熊のお母さんが用意してくれたパジャマやパンツを履いた。

緊張感が解れ、眠気が襲ってきた。

熊のお母さんが、部屋を案内してくれてベッドに潜り混んだ。

パジャマやベッドを見て、人間のサイズが判るのかな?過去誰か来た事があるのか?と疑問に思ったものの、ここは何でも有りなんだと魔法がある場所なんだと眠りについた。

おやすみなさい。


バサっと毛布が剥がされた。

「愛、起きるんだよ。」

子熊のブラウンが、はしゃぎながら起こしに来た。

「おはよう。いい匂いがするね。」

目が覚めても、熊さんとカマキリは喋っていた。

熊のお母さんが作ってくれた手縫いの作業服を持ってきてくれた。

「森の仕事は、ハードだから昨日のお洒落着じゃ危ないわ。これ着て頑張ってね!着替えたら朝ご飯にしましょう。」

熊のお母さんは、ブラウンを連れて私の居る部屋を出て扉を閉めた。

着替えを済ませリビングに行ったら、熊のお父さんとお揃いの赤い繋ぎの作業着と黒い長靴だった。

私は、熊さんのお父さんの下で働く新人だ。

テーブルに着き朝食を取った。

胡桃パン、コーンスープ、トマトサラダ、ツナのスクランブルエッグだった。

「今日は、遊んでね。約束だよ!」

ブラウンがテーブルに両手をポンポンと叩いて言った。

「いいよー。遊ぼうね。」

私は胡桃パンを頬張りながら言った。

朝食を済ませた後、熊のお母さんがブラウンに「さぁ学校へ行くわよ。」と言った。

「学校?」と私は聞いてしまった。

熊さんの学校って‥何するのか気になってしまった。

「大きくなるまでの、敵から身を守る方法や、食料の調達、寝床の確保、子孫繁栄など、お勉強するのよ。愛ちゃん達、人間も同じでしょ?」

「うん。」

と答え、ブラウンと熊のお母さんを見送った。

人沼駅2日目

今日は、熊のお父さんから畑仕事を教わることになった。

熊のお父さんが日々手入れをしている土に、玉葱の苗を1本づつ手で植える作業だ。玉葱はスーパーでよく買うから見たことあるけど、玉葱の苗は初めて見た。

人沼駅に来てからは、初めて見る物や触るものばかりだった。

玉葱の苗は、玉葱独特の匂いがした。「これ見た目は、青ネギみたいなんですね。匂いは玉葱臭ーい。」と苗と手袋の匂いを嗅いで言った。

「ちゃんと、下の丸い部分が土の中で成長して玉葱になるんだよ。植える時に、元気に育ってね。って思いながら植えるんだよ。」

熊のお父さんは苗を丁寧に植えていた。

「はーい。ちょっと目も痛いけど頑張ります。畑仕事も初心者マークです。」

こんなやりとりを、立て掛けてあるスコップの持ち手の部分に居るグリさんが眺めていた。

「土はね、牛さんの糞を貰ったりして改良を重ねて良くなって野菜が甘くなったんだよ。」

土を手袋に取り臭いを嗅いだ。

糞の臭いはせず、玉葱の臭いが勝っていた。畑を調えたり肥料として、牛さんの糞を使うのは聞いたことがあったけど、実際、自分が触るとなると臭いを気にしたり避けたくなる心理に罰当たりな気持ちになった。

今からでも、遅くない。真剣に農業に取り組もう。黙々と作業を続けた。

自然と汗が出てきては首に巻いていたタオルで拭いた。

「休憩しませんか?」

グリさんが言った。

「一服しよう。」熊のお父さんが手を止めてグリさんの居るスコップへ向かっているのを見て私も追いかけた。

「近くに川があるから、天然水を飲みに行こう。」

熊のお父さんがグリさんを肩に乗せて向かうことにした。

畑から、森の道を少し歩いたら渓流の川に辿りついた。

「うわぁー。キレイ。この川の水飲めるの?」

私は、はしゃいで岩と岩を飛んだりした。

「転ぶなよ。はしゃぎっぷりはブラウン並だな。」

熊のお父さんとグリさんが笑っていた。

手に水を救い飲んでみた。

「美味しい。」

珈琲屋さんとの思いと同じで、水も蛇口を捻れば出てくる。コンビニや自販機で売ってる。だけで自分の喉の渇きを潤す以外のことには目を向けていなかった。

水だって、飲めるまでの行程があって、それを届けてくれる人がいることを。

まだ、玉葱の苗植えが終わっていなかったので、水を飲んで畑に戻った。

作業を再び開始して私は4つの畝を終わらせた。

熊のお父さんは、5つでやっぱり早い。

「お昼ですよ。」

熊のお母さんが、お弁当を持ってきてくれた。グリさんの居るスコップの隣に稲で作ったゴザを敷いている。

熊のお父さんと、私は熊のお母さんの元へ走った。

大きめの梅干しと、昆布のおにぎりも美味しくて熊のお母さんは料理が上手だと思った。

さっき行った川の水を熊のお父さんはボトルに入れていたのを皆に振る舞ってくれた。

天気が良くピクニックをしている気分だった。

デザートのリンゴを楊枝に刺して配っている熊のお母さんが「午後は何するの?」

熊のお父さんに興味津々そうに聞いた。

「牛さんの所にでも行こうかと。」

「あら、いいですね。牛さんファミリーに宜しくお伝えしてくださいよ。毎週お世話になっていますからね。私もしょっ中、訪問してるのよ。」

牛さんファミリーと、熊さんファミリーの仲良しさが伝わってきた。

お昼ご飯を済ませ、私は後残り1畝があったので続きに取り組んだ。

右の指で穴を掘り、左手で苗を置き土を被せてを一つ一つ、心を込めて植えた。

最後の一苗が植った。

「お父さん、終わりまし。」

1mぐらいの木を山積みにしていた。

「おお、ご苦労さん。少し休んだら、牛さんの所へ行こう。」

「はーい。」

リアカー付きの自転車があり、荷台には牛さんファミリー用の干草が積まれていた。

「今日は、若者に運転してもらおう。愛ちゃん運転手。」

熊のお父さんが、さぁ頑張れと言わんばかりの顔で言った。

「了解です。自転車は毎日通勤で乗ってるから頑張るよ!」

と、リアカー付きの自転車を跨いでサドルへ座った。

リアカーの荷台には、干草と熊のお父さんとグリさんが乗っている。正直言うと熊のお父さんの体重がペダルを漕ぐ負荷を増やしていて重く感じた。

熊のお父さんが重いなんて言ってられない。食事から寝泊まりまで世話になっているんだから。

いい汗をかいた頃、坂の半分を登ったぐらいから丘の上に建つ赤い屋根のお家が見えてきた。

牛さんファミリーは、6ファミリー居た。そのうちの中でも熊さんファミリーの一番仲良しはホルスタインの牛さんファミリーだった。

「こんにちわ、熊のお父さん。あら、グリさんもお久しぶりです!」

牛のお母さんは前脚の蹄で土を少し蹴り迎え入れてくれた。

「一昨日、人沼駅に到着した愛さん。宜しくね。」

熊のお父さんが掌を私に向けて紹介してくれた。

「初めまして。未熟者ですが宜しくお願いします。」私は一礼をした。

「牛ファミリーの母です。隣にいるのが牛のお父さんで、柵の奥にいる2頭が大きいけど、うちの子。」

私は、色々な種類の居る牛さんファミリーを見ていた。

牛のお母さんが熊のお父さんに

「今日は、チーズがあるから持って行く?」

「いつも、甘えてばかりで申し訳ないです。」

「私達も干草や稲ワラ、トウモロコシなどの食料を頂いてますから。お互い様ですよ。」

牛のお母さんと、熊のお父さんは仲良く話をしていた。

「牛乳はどぉします?持って行くなら搾ればいいわ。」

と牛のお母さんが言った。

「愛ちゃんは、乳搾り体験はしたことあるの?」

熊のお父さんが聞いてきた。

「えっ?私?無いです。けど‥」

私は、変に赤面してしまった。

「折角だから、やってみたらどぉかしら?」

と熊のお父さんの肩に居るグリさんが言った。

目を泳がせながら3秒ぐらい考えて‥

「あっでわ‥やらせてください。」

と決心した。

熊のお父さんがステンレスの牛乳缶を持ってきてくれた。

私は勇気を出してしゃがみ、牛のお母さんに向かって「失礼します。」と言って初めての乳しぼり体験をした。

恐る恐る触った乳は、緊張して体温が上がってしまったのか、私の手の温度よりは低かった。

先の方をゆっくり握ってみたら、ミルクが出てきた。

私は思わず、おぉーと声を上げた。

慣れてきた私は両手でこなしていた。

いつも何気無く飲んでいるカフェラテの牛乳も、サンドイッチのチーズも牛さんのお陰だと身を持って実感した。

「上手じゃない?」

グリさんが言ってくれた。

恥ずかしさも消え慣れきた間に、熊のお父さんと、グリさんは牛さんの家に干草と置きにリアカーを運転して行っていた。

「牛さん達の努力も知ろうしないで、ただお金だけ払って牛乳を飲んでました。すみません。」

「こぉして愛さんが牛乳が出来る迄の過程を知ってくれただけでも嬉しいです。」

「いぇ。勉強不足です。」

時折、下から牛のお母さんの顔を見ながら話をした。

「現実、私達は食べられてしまう事もある。スーパーに並ぶ前迄の過程は人によっては残酷に捉えられてしまうかもしれない。でも、綺麗事だけではない真実。これを知って食べるのを止めて。とは言えない。これが私達の宿命であるから。食べて貰う事によって、人間へ栄養や食事をする時間の提供を皆に出来るじゃない?」

「宿命かぁ。プロの料理人の人達がよく、命を頂いているから常に感謝を。とTVで言っるのはこぉ言うことですよね。私、事実牛さんの仲間を頂いてます。ごめんなさい。」

ミルクを搾る手の力が弱くなった。

「ベジタリアンの方、アレルギーの方、宗教上の事情があって、お肉を食さない人達もいるので、人間それぞれあります。逆にこの過程を知って嫌いにならないでくださいよ。私達は愛さん達の栄養となって働きます。だから愛さんも、お仕事や恋等に頑張れる力を牛肉で付けてくださいね。」

牛のお母さんの言葉が胸に響いた。

私は周りに対する恩恵の気持ちが足りなさすぎた。

お金を出せば、すぐ買える便利な日常にしか目を向けていなかった。

休み、休み地面に尻餅を着いては、また体勢を直して作業を開始した。

「愛さんは、バターの作り方は知ってるかしら?」

「知らないです。教えてください。」

「今日、熊のお母さん達と作るといいわ。あのね、牛乳を蓋のある容器にいれてギュッと締めて振るだけ。そぉすると、水分と脂肪分が分かれてくるの。その脂肪を練れば完成。水分の方は牛乳として飲んでね!簡単よ。」

「そぉーなんですか?もっと難しいかと思っていました。チャレンジします。」

私が、牛さんのお仕事や、現実の背景を知らず不甲斐なさを感じていたのを、牛のお母さんは察してくれた。バターを作る話をしてくれた事で救われた。

気づかないだけで、見えない、見ようとしていない優しさに囲まれるのかも知れない。

そして、バターと言う商品は知っているが、バターを作ろうと思う機会やきっかけが無かったのもある。

私の勝手な思い込みによって、バターは機械で作る物、色々と材料が必要なのではないかとか?時間が掛かるのではないか、バターを作る人がいるから買えばいい等と、面倒くさいと思う気持ちが先行していたのは否めなかった。

やっと牛乳缶の三分の一、ミルクが貯まった。

私は立ち上がり、牛のお母さんの背中をそっと触れた。触わった体毛の部分がピクピクと痙攣した。

「本当に有難うございます。大好きな珈琲も、ケーキもクッキーも、アイスだってチーズもヨーグルトも沢山、沢山、牛さんが関わっているんですね。私、毎日頂いてます。」

牛のお母さんが私の方を見て

「私達だって、人間に助けられてます。牛達だけでは、牛乳もバター等作れません。私達を育て、商品を作る人が居て、運ぶ人が居て、提供する人が居て、食する人がい居る。工程の中には役割を持った人達が活躍しています。共存ってことですかね?」

牛のお母さんの大きな目は、会った瞬間から今でも綺麗な瞳だった。

私は、この工程の仕事についたことはない。しかし、同じ人間が人間の為に働いてくれていることは事実で、こぉして世の中に溢れている物は、私の知らないうちに手掛けられ、作られていると牛のお母さんさんから教しえてもらえた。

東京駅内のコンビニで、毎朝買う飲むヨーグルトや店員さんに対しての心持ちが良い風に変わっていけそうな自分を新たに牛のお母さんに発見して貰えた。

もしかしたら、小学校の道徳でこんな内容の勉強をしたのかも知れないけど‥

覚えていない。今からでも遅くない。

予習も、復習も兼ねて過ごしても間違いではない。

「終わったかーい?」

リアカーを運転しながら、熊のお父さんが手をハンドルから離して叫んだ。

バスケットと、ミルクの入った牛乳瓶が荷台に積まれていた。

「お待たせ。乳搾りはどぉだったかな?コツ掴めたかしら?」

グリさんが前脚を使いジェスチャーのように動いて言った。

「頑張って搾って貰ったわよ。搾った分はバターにするのよね。」

「はい!バターの作り方を牛のお母さんから聞きました。作るの楽しみです。」

「そぉかぁー良かった。今日はこれで、お邪魔します。」

熊のお父さんと、グリさんと私は、お辞儀をしてリアカーに乗った。

リアカーの自転車からも両手を大きく振ってバイバイをした。

帰り道は、干草が牛さんファミリーに納めた分、無くなっていたのと下り坂で、熊のお父さんの体重の負荷は大分、軽減された。

動物だけではなく、人間にも生き物全ての自然の摂理がある。

それは避けて通れないことだが、それをマナーとして隠したりもする。

牛さんだけではなく、動物や魚生き物には臭いがある。

人間誰にでもある。結婚したい男性No俳優も、若くて可愛いアイドルも綺麗な女優さんも、TV以外の周囲の人達もトイレには行く。

牛さんから作られる物を平然と食べて置きながら、牧場の糞等の臭いを気にした私は自分を棚に上げて、牛さんの糞が汚いとかより先に、自分の心が汚く若輩だと情けなくて仕方がなかった。

熊さんのお家まえにリアカーを停めていたら、熊のお母さんとブラウンが手を繋いで学校から帰ってきた。

「お帰りなさい。牛さんファミリーは、いかがでしたか?」

「今日はチーズと牛乳を頂いたぞ。牛乳は愛ちゃんが搾った物だぞ。」

熊のお父さんは、チーズの入ったバスケットと、牛乳缶を持ち上げて見せた。

家の前にあるポストを熊のお母さんが開けた。

「あなた、木の葉の葉書が届いているわ。」

熊のお父さんは受け取り、目を通した瞬間

「ちょっと、グリさんと出掛けてくる。夕食までには帰る。」

「分かったわ。」

熊のお母さんは頷き、お父さんとグリさんは出掛けて行った。

私は牛さんから貰ったチーズと牛乳をリアカーの荷台から降ろしていたら、子熊のブラウンが寄って来た。

「持つよ。」と手伝おうとしてくれたので、チーズの入ったバスケットをお願いした。

私は牛乳缶を持ち、ブラウンと一緒に家の中へ運んだ。

「まだ、明るいから愛と、お外で遊んでいい?」ブラウンがお母さんに聞いた。

「愛さんは、ブラウンの相手お願いできるかしら?」

「昨日、夕食前に遊ぶ約束したもんね。」私は、しゃがんでブラウンと目線を合わせた。

「お母さん、大丈夫です。ちょっと外で遊んできます。」

「怪我しないようにね。」

子供が1匹増えたかのような眼差しで、熊のお母さんは私とブラウンを見た。

私は、ブラウンと手を繋ぎ玄関を飛び出て野原を掛け回った。

もぉ時期30歳なんて関係ないと笑ってしまった。

大人になってからの、隠れんぼ、木登り新鮮だった。

泥で汚れるし、小さい虫にも遭遇する。木に登るのに失敗して肘を擦り剥いたりもした。

それでも、普段出来ない体験ばかりで楽しかった。

夕焼けが綺麗になってきたので、家に帰ることにした。

扉を開けると熊のお母さんが夕食の用意をしてくれていて、いい匂いがした。

「2人共、手を洗いなさい。手を洗ったらバター作りをしましょう。」

私とブラウンは声を合わせて返事をした。

洗面台で手を洗い、テーブルの席に着いた。熊のお母さんが牛乳の入った蓋付きのガラス瓶を2つ持ってきてくれた。

私とブラウンが泥んこになっている間、牛乳を殺菌し冷やしてくれていた。

ブラウンと私は、イスに座ったり立ったりして瓶を振りまくった。

「腕痛いよー。ブラウンは?」

ブラウンも飽きてきたらしく便をテーブルに転がしたりして、バター作りよりは遊びっぽくなっていた。

「ちょっと頑張って!明日の朝ご飯で食べるんだから。もぉ少し!」

キッチンから、熊のお母さんが応援してくれた。

腕がの筋肉がプルプルしてきた頃、脂肪分と水分の牛乳が分離された。

「これじゃない?出来た?」

私と、ブラウンは得意気に熊のお母さんに便を見せた。

「ほら、出来るじゃない?固まりと牛乳を分けましょう。はいコップとお皿ね。お皿の固まりは少しスプーンで練ったらバターの出来上がり!牛乳は明日の朝飲みましょう。」

作業をしていたら扉が開いた。

「只今。帰ったぞ。」

熊のお父さんと、グリさんが外出から帰ってきた。

「お帰りなさい。」

と、熊のお母さんとブラウン、私も連呼した。

バター作りも終わり、テーブルには夜ご飯が並んだ。

「今日は、牛さんファミリーから頂いたチーズと牛乳を使って、ジャガイモとコーンのグラタンと、筍のスープ、山菜おこわ、大根サラダです。」

熊のお母さんの料理はいつも、バランスが取れている。

ファーストフードも好きだけど、この暖かさを感じる山の料理は今迄の私の生活に不足している物だった。

畑で玉葱を植えたこと、牛さんファミリーの家に行った事、乳搾りをしたこと、ブラウンと泥まみれになったこと。

今日過ごした1日の話で夕食の会話は盛り上がった。

夕食後、熊のお母さんがブラウンをお風呂に入れる用意をしていた。

「お母さん、お皿洗い今日私がしてもいいですか?」

「悪いわよ。大丈夫よ。」

熊のお母さんは首を横に振った。

「お節介だったら、洗わないです。でも、お客さんって気分も何だか。強引な意見すみません。」

「いいのよ。お言葉に甘えて食器洗いお願いしようかしら。愛ちゃん結婚はしているの?」

「まだ、独身なんです。とほほ。」

「じゃぁ、花嫁修業と思ってね。」

「はい!やらせて頂きます。熊のお母さんみたいに家事が上手で、優しいお嫁さんになりたいです。」

と椅子からたち、キッチンの洗面台で食器を洗った。

何か役に立ちたくて‥

でも、30年近く生きていて、時々迷うことがある。

それは相手がして欲しいことなのか?

それとも、お節介になってしまうのではないか?と‥

考え過ぎだが、顔色を伺って好かれようとしている胡麻を擦るとは少し違う歪な心が顔を出す。

私の弱い心と自信の無さが災いしての迷いだとは自覚している。

妹の朱莉の職業は、看護師で以前は病棟担当の日勤と夜勤のシフト制の勤務だった。私は、朝9時から6時や、11時から8時と昼夜逆転の勤務ではなかった。

朝は起きて当たり前の親父は、妹が夜勤明けで帰って来て眠りについても掃除機をかけ、喧嘩をしていたのを覚えている。

木造の築古のアパートの1室。3ツ部屋はあったものの。壁一枚では、掃除機の音が消せるはずもない。床からは掃除機が移動する音が響いていた。

私も、妹の疲れや苦労を知らずに「疲れている。」と約束を断られたことに悔しくて怒ってしまった事もあった。

逆もある。お互いの頭の隅っこで“許してもらえるだろう”姉妹だから、親子だから、家族だからと勝手な甘えの血の繋がりがあったり、姉と言う順番を言い訳に、妹の立場を少し下に見ていた。

親父や妹と喧嘩したり、学校の中の人間関係、社会人になってからの環境を過ごしてきて臆病になりつつもある。

傷つきたくないと‥

守りに入ってしまい、素直に受け止めずらく年々なっては、色眼鏡の度数が上がる一方の自分がいる。

度数が上がれば、見やすくなると思いきや、反対にボヤけていった。

好きな人を飲みに誘ってみても、仕事が忙しくて行ける日程が決められないと言われてしまった事がある。

実際、本当に彼は激務なのかも知れない。でも、大人のマナーとしての社交辞令なのかと恋愛だけでもなく、友達や仕事の人、取引先や、お客様と十人十色の価値観がひしめき合っているから本人にしか本心は知る由もない。

社交辞令は、プラスに捕らえたら嘘も含まれるかも知れないけど、相手への配慮が少しある気がします。

ただ、曖昧で社交辞令を言われた方が、どこまでが本気なのか?と線引きの判断なかなか難しい気がする。

自分では、先入観だと思っていたら違う。ってパターンも時々起こる。

好きな人に嫌われたかと勝手に思って諦めかけてたら、電話がきたことも。

本音で、はっきり言って欲しい人は、特に仕事では、きちんとミスや仕事内容を伝えられるメリットがある。

言い方次第だが、人の捉え方で、怒られた。とか、煩いデリカシーが無いとも言われてしまっていた上司がいた。

本当は優しいけど、言葉の表現が下手だったり喋るのが得意ではなかったり誰にでも、長所・短所は必ずある。

ボーッと人の気持ちについて考えていた。食器を洗っている間、熊のお父さんは食後の紅茶を飲みながら、グリさんと小声で話しながら、紙に書物をしていた。

私は紅茶を注いだカップを、食器を洗う前にシンクの脇へ置き休み休み紅茶を飲みながら洗っていた。濯ぎも終わり食器を布巾で拭いていたら、熊のお母さんとブラウンがお風呂から上がってきた。

「お待たせ。愛ちゃんどうぞ。」

「すみません。いつも先に入れて頂いてしまって。熊のお父さんいいですか?」

「変に気は使わなくていい。俺は作業があるんだ。だから先に入ってくれた方が助かる。」

と、熊のお父さんは鉛筆を持ちながら答えた。

「でわ、お先に、お風呂入ります。」

岩で出来た露天風呂と、無数の星と言い贅沢だと、少し硫黄臭いお湯を顔にかけて両手で擦った。


「ブラウンはネンネしようか?」

熊のお母さんは、ブラウンを子供部屋に連れて行き寝かしつけるために、お話ししたり歌を唄ってあげた。

数分後、リビングに戻り椅子に座った。

「ポストに入っていた木の葉の葉書は‥」

熊のお母さんが心配そうに、お父さんとグリさんに聞いた。

「猿吉爺さんからだよ。猿山に来てくれと書いてあったから、夕食前に行ってきた。」

熊のお父さんとグリさんは真剣な眼差しで、お母さんを見た。

「孔雀が飛んでいたのを猿吉爺さんは目撃したから慌てて葉書をよこしてくれた。孔雀が飛んいると言う事は、人沼山の神社にある青の竜舌蘭の花が咲く可能性が高いと話を聞いてきた。」

「と言うことは、お神輿を出すってことですか?」

「そぉなると思う。愛ちゃんを帰らせる為だからな。猿吉爺さんにも、愛ちゃんが人間で迷い込んでしまったこと、お神輿を担ぐメンバーの招集。青の竜舌蘭の花が咲くか見張る当番など、話し合いをしてきた。後は、その日が来るまで待つだけだ。でも近いぞ。」

「判りました。」

熊のお母さんは、唾をゴクリと飲んだ。

「猿吉爺さんは、皆命掛けで担ぐと言っておりました。日付変更と共に、人沼海岸まで着くまで担ぐのが掟で、担ぐ時間も半日以上とおっしゃっていましたね。」

グリさんは、猿吉爺の所へ行き、孔雀、青の竜舌蘭の花、神輿について初めて知った。

「過去、命を落としたものはいないが、怪我はあった。道のりは長いからな。青の竜舌蘭の花が咲いたら神輿を海まで出すのはココに住む生き物の絶対であり、住まわせて頂いている以上、恩恵だからな。皆で力を合わせて無事に帰ってくるから待っいてくれ。」

「あなた‥」

ブラウンが寝つきが悪かったらしくリビングへ起きてきた。

「お父さんは、どこかへいっちゃうの?怪我しちゃうの?」

端々聞こえた話を、トイレで起きてきたブラウンが言った。熊のお母さんはブラウンをトイレに連れて行き、また寝かそうと子供部屋へ連れて行った。

布団に入ったブラウンに

「お父さん、どこにも行かないから大丈夫よ。心配しないで寝ましょう。明日も学校頑張ろうね。」ブラウンの胸をそっとあやした。


「お風呂、ありがとうございました。」

スッキリした顔で私は出てきた。

熊のお父さんは書物をしていた手を止めて、紙を裏返しにした。

「おお、今日も一日お疲れ様だったね。明日もお仕事、宜しく。」

「はい。頑張ります!おやすみなさい。」私は、寝室のベッドですぐ眠ってしまった。


人沼駅3日目

今日も、ブラウンが起こしに来てくれた。毛布を引っ張り、グズル私が面白いらしい。

熊のお母さんが、今日着る洋服を持ってきてくれた。昨日と同じ赤い繋ぎだが、来て見たら少し硬く重い。

着替えて、リビングに行くと昨日ブラウンと一緒に作ったバターが置いてあり、トースト、オムレツ、ミネストローネ、茹でブロッコリーとアスパラ、牛乳。

皆、席に付き「頂きます。」と朝食を食べ始めた。

「お父さん、今日の洋服やブーツ重いけど何で」

私は動きづらそうに身体を動かしてみた。

「今日は、樵だぞ。危険と隣り合わせの仕事だから万が一の為の作業着なんだよ。」

「そぉなんですね。安全着ですね。」

繋ぎの思い部分を見ていたらブラウンに

「愛ちゃん、バター付けないの?昨日一緒に作ったのだよ。牛乳も。早く食べないと学校だよ。」

木のバター棒で、バターをすくいトーストに付け、口に運んだ。

「ごめん、ごめん。美味しい!」

慌てて食べた。


熊のお母さんからは、お弁当の入ったバスケットを渡され、ブラウンを見送り、熊のお父さんと林業のお仕事の準備をした。熊のお父さんと私はヘルメットを被り、ゴーグル、手袋をマスクをした。

鋸とロープを各自持って山林へ向かった。山の斜面と足場の不安定さに気をつけながら木と木の間を通り抜け歩いた。

「朝食時に頭だけ話したが、木を伐採するにあたって沢山危険がある。まず、鋸の正しい使い方。ハブや蛇、蜂、蛭等の虫。そして伐採時の木を倒す方向の注意。何か異変や疑問があったらすぐに言うんだぞ。」

「はい。お父さん。」

「この木にしよう。今立っている位置から見ると右に傾いているでしょ?この傾きに刃を入れてしまうと自分の方向に倒れてきてしまい、下敷きになり怪我や命に関わる場合もあるんだ。」

一度、ターゲットの木にロープを巻いて、熊のお父さんと私の腰にもロープを巻いて木の傾きを若干、明確にさせた。

「すいません。危険な仕事と分かっていても‥運動会綱引きを思い出してしまいました。」

「よし、まずここに切り口を入れて見ようか?」

熊のお父さんは、切る部分と長さを白いチョークで描いてくれた。

「ここまで切れたら、この笛吹いて。愛ちゃんの所へ向かうから。水分補給もちゃんとするんだよ。脱水症状になってしまったら、俺が母ちゃんに怒られる。なぁ。」熊のお父さんはグルさんに微笑んだ。

私はマスクを少しヅラして口を出して笛を咥えて鳴らしてみた。

ピーと、山林に響き渡った。

伐採の切り口を教えてもらい、横で熊のお父さんとグリさんが少し私の様子を見ていた。

鋸を使うのに不慣れな私は、切り口を作るまでに時間が掛かるが、鋸の扱いに慣れてきた頃を見計らい、熊のお父さんは、少し離れた木の伐採を始めた。

グリさんは、初心者の私を監督してくれるとバスケットの上で、作業を見守ることになった。

私は、なかなか進まない切り口の長さと、疲れでダラけが出てきては、鋸の刃柔らかく揺れて、木の繊維に挟まっては抜いてを繰り返した。

マスク中もヘルメットの中も、繋ぎの中も汗で蒸れていた。

足元も傾斜ではあったが、少し斜めで木の枝や落ち葉の絨毯になっていた。

水分補給の為、グリさんのいるバスケットに向かった。水ではなく、少量の塩と蜂蜜、レモンの味がした。

「これ、美味しい!」

「熊のお母さん特性、疲労回復ジュースよ。畑も林業も外仕事でしょ?暑い日も寒い日も、春夏秋冬と身体が」

ヘルメットを取ったら、頭を洗ったかのようにビッショリと汗で髪の毛が濡れていた。

近年では女性がチェーンソーを持って勇敢に林業をこなしていたり、大型トラックの運転手、クレーン車も卒なくこなし男性と肩を並べて活躍している女性も沢山いる。インターネットや街中で見掛けた時は、つい見入ってしまう。格好いいな。と。

今の自分も不器用ながらも、逞しいお姉さん達に近づいているのかも知れないと思ったら、自信の無い自分の事が嫌いな私を、少しは好きになそうになった。

ピーピーと笛の音が鳴り「倒すぞ。」

熊のお父さんが叫んだ。

離れた所で、ミシミシ、ガサガサバタンと木が倒れて行く音がした。

私は、切り込みの手を中断して熊のお父さんの姿を遠くから見つめた。

「もぉ、大丈夫だー。愛ちゃんどぉだ?頑張れ!」

「まだまだですー。頑張ります。」

漸くチョークで線を引いてもらった部分まで切り込みを入れられた。

首に掛けてある笛を吹いた。

「ピーピーお父さん出来たよ。」

熊のお父さんも笛をピーピーと鳴らして、こっちに来てくれた。

熊のお父さんは、切り込みを入れた部分を確認して、またチョークで線を引いたて「次はここまでだよ。」と教えてくれた。私は再び黙々と切り始めた。

きっと、花粉症の人の森はキツイんだろうな。今の時期、電車の中でマスクしてクシャミして、ゴーグルみたいな眼鏡も発売されている。

アレルギーだったり、人間生きてると色々と不調も出てくる。

20代後半の私だって元気に見られがちだが、頭痛や貧血で倒れたり、虫歯で熱が出た時もあった。風邪やインフルエンザと掛かってしまうときもある。

重度の高さを比べてしまうとキリがないが、やはりどこかしらの身体の不調は気にしてしまう。

顔に大きなニキビが出来きてしまったと時も、皮膚科の先生に怒られるの分かっていても、いけないのに潰してしまう。

すぐに、排除したいと思う気持ちに負けてしまう。嗚呼、今顎に大きいのが出来ている‥

ニキビの事を考えていた。

手をしっかり動かしながらグリさんに話掛けた。

「グリさんから駐輪場の出会いから、容姿の話を聞きましたよね。」

「えぇしたわ。私達の虫の見た目について。」

「でもさっ、人間にも容姿に関してのコンプレックスとか悩みは尽きません。私も、ニキビが出来やすかったり、胸が小さいとか。髪の毛の悩みだったり体重だったり顔だったり身長だったりと‥様々皆抱えているみたいです。」

グリさんのキレイな黄緑色の瞳が太陽の木漏れ日で輝いた。

「事実、進化により、変えられることが出来ることも増えました。変えられない自然の流れもあります。天変地異もそぉです。私達カマキリはこの容姿で、明日から綺麗な蝶にはなれません。それに、私達は蝉やトンボをも食します。これを聞いたら怖い印象が生まれない?でも、変えられない自然界です。」

「変えられないもの。沢山ありますよね。人間界の話もしていいですか?グリさん達の食のイメージが悪かったとしても、人間だって黒い部分は誰にでも持っています。私だって新しい鉛筆削りに嬉しくて、とんがった芯の鉛筆を投げてしまい親父の頭に刺さり、怪我をさせたこと小さい時にあります。天変地異や、産まれてくる親、兄弟、親戚、寿命など‥現実の受け入れがたいニュースだって日々起こってしまいTVで流れています。でも、グリさんが虫を食べるのを知って嫌いになるのは、自分の好きになった彼実はカツラで嫌いになったみたいな感じですかね?」

「好き人とは、違う気もするけど。そぉしておきましょうか?ふふ。」

熊のお父さんに2本目の線を引っ張って貰った部分を切り終えた。

また私は、笛を吹いてお父さんを呼んだ。ピーピー

切り口の形は三角になった。

切っていた場所の反対側に熊のお父さんと私は移動した。

「もぉ一切りしたら倒すから、これだけ宜しくね。これ終わったら遅くなっちゃったけど、お弁当食べよう。」

と最後の一線がチョークで引かれた。

私は鋸を動かし、切り終えた。

切った木から離れ、倒れるのを見届けた。

「ご苦労様、お弁当食べよう。」

切株が調度、2つあった。熊のお父さんと私とグリさんで、お母さんの作ってくれた大葉と味噌のお握りと、蕪の漬物たくあん、蜜柑を食べた。

その後、倒した2本の木の枝を切ったり、暖炉の薪になりそうな木を集めたりして束ねて持った。

「今日の仕事は、ここまで。帰るぞ。」

熊のお父さんは薪を背負い、私は切った枝を束ねて、バスケットとグリさんを持った。

私は、疲れ果て黙ってしまった。

ふと溜息共に上を向いた瞬間こちらに1本の木が斜めになっているのが目に写った。

「危ない!」

私は持っていた枝の束と、バスケットを離して熊のお父さんの繋ぎの首元と首根っこを思いっきり掴んで一歩下がった。

熊のお父さんは、後ろに倒れ背負っていた薪はバラバラに散らかった。

バサーンと音を立てて私達の前に木が倒れてきた。

熊のお父さんも、私も後ろに倒れ手と尻餅をついていた。

グリさんは、私の前髪に逃げていた。

「お父さん、ごめんなさい。強く首を引っ張ってしまいました。首絞めちゃいました。怪我は大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。すまなかった俺がしっかり木を見ていなかった。愛ちゃんが気付いてくれなかったら木の下敷きになっていたところだ。ありがとう。」

「ごめんなさい。薪、バラバラになっちゃいましたね。」

私は、咄嗟に熊のお父さんの首を掴んだ力の感触、折角束ねた薪枝のを束ね直す時間のロスに申し訳なさそうに言った。

「薪や枝何て束ね直せばいい。一瞬息が止まったけど、助けようとしてくれた行動じゃないか?皆、無事で何よりだ。お母さんとブラウンが待っている。後少しも気を引き締めて帰ろう。」

熊のお父さんと私は体制を戻し薪と枝を束ね、バスケットを持ち帰った。

倒れた木の前を通った時、お父さんは、その木の幹を見に行った。

「倒れた原因は、根っこと幹が腐敗しちゃっていたんだ。この木は。」

熊のお父さんの林業魂で原因知りたかったみたいだ。

「暗くなっちゃうよー。戻ってきてください。また木が倒れてくるかもですよ。ねぇグリさん。」

熊のお父さんは、はいはいと倒れた木を平均台のように渡って戻ってきた。

「ちょっと待て。」

熊のお父さんが、私の肩を軽くはたいた。

「んっ?」振り向いた。

「蛭が付いてたよ。」

「次は、私が助けられました。ありがとうございます。しかし、森は危険がいっぱいですね。」

あははと、笑う穏やかな皆の声が響いた。


熊さんの家に着き、今日もお母さんが夕食を用意してくれていた。

玄関を開けると、ブラウンが待ちくたびれたかのように走って出迎えてくれた。

「遅いよー。今日は愛と遊べなかったじゃん。」ブラウンは熊のお父さんに拗ねて言った。

「悪かったな。でも、お仕事だったんだ。明日は遊べる時間あったらいいな。」

「うん。」ブラウンは言ってリビングのテーブルの椅子に座った。

熊のお母さんが「今日は、相当汗をかいたりしたんじゃない?ご飯より先に、お風呂入る?」

と勧めてくれた。

「汗臭いんで、いいですか?ブラウンは大丈夫ですか?」

「明日は調度、学校お休みだから大丈夫よ。」

「でわ、お先に入ります。」


熊のお父さんが、薪を片付けに外へ出て行った。

コンロの火を止め、熊のお母さんもお父さんを追った。

「お父さん。」

背後から、妻の声聞こえた。

「どぉした?外まで。」

「私も今日、孔雀飛んでいるのをみました。」

「そぉか。そろそろだな。」

熊のお母さんは先に家の中へ戻った。夕食の支度を続けた。


お風呂から上がり、リビングへ行くと夕食がテーブルへ並んでいた。

「うわー今日も凄い。」

「早く食べよう!」ブラウンが言った。

今日のメニューは、

サーモンのお刺身、野菜の煮物、白米、豆腐とほうれん草の味噌汁が食卓に上がっている。

「頂きます。」皆で声を合わせて食べ始めた。

熊のお父さんが、今日の出来事を話始めた。

「危機一髪で、助かったんだよ。愛ちゃんが木が倒れてきたことに気付いてくれたお陰で命拾いしたよ。危なかった。」

「まぁ、それは危なかったわね。お父さんも愛ちゃんもグリさんも怪我もなく良かったわ。ありがとう。」

熊のお母さんは、驚いた瞬間目が大きく開いた。

「お父さんは倒れた木を、わざわざ見に行ったんですよ原因を知りたくて、危ないのに。グリさんと冷や冷やしてました。でも、私の肩に付いた蛭は、はらって貰いお返し合いの日でした。」

私はサーモンの刺身を2枚いっぺんに食べて言った。

熊のお母さんが微笑みながら言った。

「本当、雄?男って生き物は熊にもよるわよ。ああ、人にもよるわよ。でも、危険を省みないと言うか?探究心や好奇心が強いと言うか?私達、雌や女の心配何て忘れちゃって仕事にのめり込むのよね。人間もそんな男性いるわよ。きっと。ここは雌と女性が大人にならなきゃいけないみたい。」

「耳が痛いなぁ。」

と熊のお父さんは笑った。

「自由なのよ、お父さんは。一人でテントを持ってキャンプに行ったり、お友達と釣りに出て数日帰って来ない日もあったわ。」

熊のお母さんが、テーブルに落ちたブラウンの食べこぼしを拾いながら言った。

「私は、結婚や家族がいいものだと思っていたけど‥それって偏った思考で全てがそう上手く夢物語みたいに行くものではないとココ最近、色々な人の話を聞いて判るようになりました。激務過ぎて、旦那さんは家に帰れず‥それを浮気や、浮気じゃなくても家族を省みないとの理由で離婚してしまったり、嫁・姑、親や親戚問題の人間関係、金銭、仕事、病気、浮気など‥

現に、うちの親父が離婚してるし。でも、自分は諦めたいとかより寧ろ、熊さんファミリーを見て今後の見本にしたくなりました。

それに、失恋が辛いって振られる度に凹へこんで言い聞かせるんだけど、時が経つと自然とまた恋をしているんです。傷つくの判ってるのに私。自分って色々と変化していく感情に振り回されっぱなしです。

これから、彼氏が出来るか解らないけど、熊のお父さんみたいな人を好きになったら、お母さんのように寛大になるのが上手く行く秘訣ですね。」

「私達の間では、結婚ってなく、家族を持つってことは、子孫繁栄になるわよね‥人間とは、寿命の長さの違い等、私達とは異なる部分が沢山あるしね。でも、愛ちゃんに素敵な人ちゃんと現れるから大丈夫。」

「お母さん有難う。あっ、今日も皿洗いさせてください。」

「お願いね。」


夕食の団欒の時間も過ぎ、お皿洗いを終えた頃、木を伐採した作業の疲労感が一気にきた。

「いつも、すみません。もぉ寝ていいですか?」

「明日もあるから、おやすみ。ありがとうね。」

今日も何か書物をしている熊のお父さんが言った。

グリさんも、おやすみと言ってくれた。









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パンダな判断 素想 実水 @ai19810122

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