3
村瀬竹久62歳
俺は、話をするのは得意ではない。極力要件だけを伝える。無駄口は叩かない、侍魂を持っている。
そして、娘が2人居る。長女の愛と次女の朱莉。
今は、長女の愛と2人で暮らしている。
次女は、彼氏と同棲中。
どこの親子も同じだろうか?俺は娘に対して、親しき中に礼儀なしになってしまう。自分でも、反省はするものの‥
娘に対しては、どぉにも謝れない。
決して憎い訳ではない。親父として、男であるプライドが取っ払えない。
言葉使いが、ぶっきら棒で悪いとも言われ、娘とはよく喧嘩に発展してしまう。
次女の朱莉からメールが着た。
「行ってみたい店があるんだけど、3人で行こう。姉ちゃんの休み聞いてよ。」
との事だった。
なんだかんだ喧嘩しつつも、月に1度ぐらいは、定期的に家族3人で外食へ行っていた。
娘2人に連れられ、行きたいイタリアンレストランへ行った。見渡す限り、周りの席には女性ばかりだった。
黄色の壁紙、大きなテラス窓のある明るい店内だった。
俺は、ペスカトーレのランチセット、愛は、生ハムピザのランチセット、妹の朱莉は、ジェノベーゼのランチセットをオーダーした。
セットのサラダ、メイン、デザートの小さなティラミス、珈琲と運ばれてきた。
メインはそれぞれ違うメニューだったから、それぞれ仲良く取り皿に分けて味のシェアをした。
そして、娘2人には驚かされる時がある。
「愛ちゃんのピザは、味の検討がつくが、お前のスパゲティ何だそりゃ。」
次女の朱莉が頼んだ緑色のジェノベーゼパスタを見て言った。
「食べる?美味しいよ。バジルって言うハーブ、葉っぱを細かくしたから、この色なの。」
朱莉は、取り皿に味見程度の量を少し乗せて親父に渡した。
俺らが生まれた頃から、日本は本当に凄まじい発展を遂げた。
TVも、車も、新幹線も、飛行機も、食品だって難しい名前の輸入物が手軽に食べれるようになった。沢山の物が生まれ活躍している。
携帯電話だってそうだ。
ガラケーとやらを使いなれていない俺には、スマホ・パソコン等の機器には触れたくなかった。
娘達は器用に使いこなし、平然としている。覚えるのが面倒うくさいのと、昭和な頭に入っていかない気がた。
教わって出来なかった時の恥ずかしさに、俺のプライドが許さないって事もあった。
食後の珈琲を飲み終えて席を立った。
お会計をしていても、待っている人達は女性ばかりだった。
車に乗り、つい娘に聞いた。
「隣の席の人達は、俺たちの前から居て、俺たちが帰る時もまだ居たな。何話してんだ?」
妹の朱莉が
「あぁー話あるんだよ。女の人って。よくお茶してるじゃん。」
「俺は、食べたらすぐ帰ると思ってるから。」
親父だけではなく、世の中の男性の多くは、ラーメン屋さんや牛丼屋さんのように、食べたらすぐ帰る。
目的は、食事をすることだけだから、ずーっと喋っていられる女性が不思議に映る。男性と女性は、体や脳の作りが違うとザックリ言えばそうだが、それでも、娘2人や、さっきのような井戸端会議をしている女性を目にした時には、呆れもあるけど尊敬みたいな上手く言い表せられない感情も出てくる。
「でもさ、男の人の飲み会だって長いじゃん。お酒と、お茶会の違いじゃない?飲み会楽しいでしょ?」
「まぁ、付き合いだからな。俺は飲めないから運転手だけど。」
運転手でも、良かった。
町会の友達の飲みに付き合い、旅行へ行ったり、市議会議員の選挙の手伝をしたり、会社の人達とのミーティング等‥
時々、酔っ払い過ぎた人を面倒にも感じることもあったが‥
家族の悩み、健康について、次の旅行はどこへ行こう、仕事ココを改善しよう等と語り合える、共に頑張っている仲間がいるのが嬉しかった。
口下手な自分なりに、行動することだけでも微みたる戦力になっていると、いいなと思いは胸に秘めていた。
少し暑さを感じるけど、車の窓から吹く外の風が気持ちのいい日だった。
夕食の材料を買いに新しく出来たショッピングモールへ親父と私は行ってみることにした。
「ねぇ、珈琲屋さん寄っていい?奢るから。」
「ああ。」
「何がいい?」
「普通の。」
「牛乳入りでいいの?」
親父に食品の入った袋を渡して、珈琲を買いに行った。
「はい、こっち。」
とアイスカフェラテを渡した。
「お前の色が違うけど何だ?」
「飲む?」
とアイスカフェモカを渡した。
ストローから親父の口に入った瞬間。
渋い顔をして、「何だこりゃ?チョコレートのんでるみたいで甘い。珈琲は苦いのが当たり前だろ?」
「美味しいじゃん。返して。珈琲は苦いよ。でも、今色々あるの。」
カフェモカにカルチャーショックを受けていた親父が面白かった。
夕食を終え、親父と二人でTVを見ていた。
団塊の世代と言われる年代の親父は、口数が少なく、途轍もなく頑固で全て自分が正しいと思っている気難しい性格だ。
冗談は略通じず‥
虫の居所が悪い時に言ってしまった時には、冗談ではなく「嘘つき」だと、こっ酷く怒られる事は、ちょくちょく私と親父の間で起こっていた。
私が話続けていても、親父は表情を変えず、一言、二言しか返さない。
お父さんと娘とは、こんなもんなのかも知れない。
とある日、親父が行った社員旅行の写真が机の上に置いてあった。
封筒が、可愛かったから何かと気になり見てしまった。
私と同じ歳ぐらいのお姉さんや、お兄さん達と笑顔で写っていた。
家では、殆ど笑わない強面の親父に対して、会社の皆への外面は良さそうだと安心した反面、私にもその気遣いや、優しさを向けて欲しいと少し嫉妬を妬いたのを覚えている。
きっと、妹もこの写真を見たら同じ気持ちになるだろう。
明日から仕事の一週間が始まる。
9時近くを回り、親父はこの時間から風呂に入るのが日曜の流れだ。
よし、好きな番組が見れる。と思っていたのだが‥
親父が風呂に入る気配がない。
着替える準備の為に動くはずの体が、横にまだ在る。
ちょっとウザイなと思い‥
「見たいTVあるの?」と聞いた。
「特に。」と返ってきた。
親父の事は気にせず、自分の見たい番組にチャンネルを変えた。
警察ドラマの番宣が流れていた。
それを見て、思い出したかのように親父が話し始めた。
「昔、俺は犯人じゃないか?と疑われた事があるんだ。」
「へぇー、その風貌じゃ、疑われても仕方ないよ。髪型パンチパーマじゃん。」
私は、一瞬親父の髪の毛を横目でチラ見し、顔は振り向かずTV画面を見て答えた。
「いやぁー当時、爺ちゃん婆ちゃんと住んでいた、あの家の頃、近所で殺人事件があってな、私服の警察が缶コーヒー持って聞きに来たんだよ。何日も、しつこかった。」
「えっ?何で事件が起こったの?」
TVより、親父が犯人扱いされた話に興味を示した私は、自然と体と顔が親父に向いて話を聞いていた。
「どんな事件?」
「男の人が殺されたんだよ。金銭トラブルなのか?俺が犯人じゃないから詳しくは分からないけどな。」
「犯人は見つかったの?」
「見つからったらしい。」
「時々、ドキュメント番組で無実の人が刑務所に入ってたって再現してるけど、大体は親父の若かれし頃だよね。昭和何年の話〜って始めナレーションの人が言う!言う!」
私は、からかう気持ちで手を叩いて笑った。
「ごめん、ごめん。笑いごとじゃないよね。誤認逮捕だもんね。」
「警察の野郎、見た目で判断しやがって。」
今だから笑い話に出来るんだと、強面の顔が笑っていた。
たまに、TVを見たりしながらも聞いていた。
親父は乗ってきたみたいで昔の自分の話をし始めた。
「今の病院の介護の運転手になる前は、釣竿を作っていたじゃないか?景気が悪くなったり釣竿は大手の会社が機械で造るのが主流になったから手を引いたんだけど、あの時、よく千葉に高速に乗って竹切りに行っただろ?」
「覚えている。私、夜の高速道路今でも好きだよ。綺麗だもん。」
「一人でな、行った時に落とし穴みたいな穴に落ちてしまったんだよ。」
「えっ?そんなのあるの?」
「俺だって、草叢だし、竹薮の中にあるとは思っていなかったよ。井戸か何かの深い穴だったし山奥だろう?間一髪で両腕で地面を抑えられたんだよ。」
私は、約30年近く親父と一緒に暮らしていて初めて焦った話を聞いた。
「あの穴に落ちていたら、完全に死んでいたな。携帯の電波は届かないし、叫んだ所で人が通る場所でもないんだよ。腕の全ての力を出して這い上がれた。いやぁーあれは驚いた。」
「親父にも、そんな事件があったんだ。無事で何よりだったよ。」
私も、小さい頃行ったことあるため判るが、あの竹薮は方向を間違えたら帰れない雰囲気の場所だったのを覚えている。
親父の奇跡体験も凄いと思った。
それから、勤めている病院の介護について、仕事仲間について、自分が過去行った旅行について等‥
何年かに1度と言えるぐらいの機嫌の良さだった。
1時間半ぐらいは話をしていただろう。
親父は、何故かこの日だけは饒舌だった。
気が済んだらしく椅子から立ち上がり、お風呂場へと向かって行った。
私が、高校生の時に離婚した母親にも、さっき喋っていた親父だったら良かったのにね。
と、ふと、母親の苦労と望んでいたことが夜風が吹いたと共に運ばれてきた切ない気持ちだった。
さっき見ていたバラエティ番組は終わり、ニュースになっていた。
リモコンを取ってチャンネルを変えた。
外からは生温い夜風が、またフワッと吹いた。
きっと、これでいいのだとブラウン管を見つめた。
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