ガンバレ! しんぞうくん!(3)

 いつも通り、決まったリズムを刻む、雑音もしない、脳からの嫌がらせもない平和な時間


「シンゾーサァァァン」


 は、今終わりを告げた。


 叫び声を上げた小人の元へと向かえば、いつもは何もない通路が、今は窄まるように口を閉ざしていた。

 基本的に、心臓内部の血管である冠動脈が閉じることはない。閉じてしまってはこの先の小人たちは、栄養や酸素なく24時間働かなければならなくなる。それは到底無理な話なわけで、つまり死。すぐに対処しなければならない状態なのだが、心臓と小人はじっと、閉じてしまった血管の中央を見ていた。


「なにしてんすか。血管さん」


 中央に、血管に詰まった血管がいた。


「逃げ遅れた……」


 助けてと、手を伸ばされ、心臓もすぐに血管を引き抜けば、血管がいた部分が少しだけ隙間ができる。

 いつもなら対処するまでの間、その小さな隙間に酸素を運んでいる赤血球たちを放り込むのだが、今は血管がいる。


「あー……あったあった」


 足元に転がっていたスプレーを壁に吹きかけると、すぐに隙間が広がっていく。これで血液も流れるはずだ。


「昔はノー早撃ちガンマンって言われてたんだけどなぁ……」

「膵臓が喜びそうな名前……」


 NOと呼ばれる血管を広げる効果のある物質を詰め込んだスプレー。今のように血管が窄みそうになった時に重宝するため、血管の仕事道具のひとつであり、心臓の各所に非常時用に置かれている。


「やっぱりボロボロだね」


 壁の傍らに座り込むと、血管は剥げ始めている壁に触れては、ピックなどを他の道具を使って作業を始めた。


「一応、縮まないようにしておくけど……その内、大工事になるかもね」


 大工事。つまり、血管が縮まないように、物理的にトンネルのように固定してしまうことだ。


「抑える方法はなんデスカ?」

「歳取るとどうしてもね……ガタはくるよ」

「……」


 あまり表情豊かではないが、小人の悲しげな表情に血管も頷いて、


「あとはタバコに、高血糖……そのあたりが大きいかな」

「やっぱりアイツのセイ」


 言いがかりだよ。と言っている奴の顔が過ぎったが、すぐに忘れた。


「インスリン、もらってきマス」


 脳と心臓の喧嘩を一番近くで見ている手前、アイツが対処してくれるとは思えない。

 むしろ、膵臓の方が少し手を貸してくれそうだ。


「いや、それは……無理だろ。たぶん」


 ただでさえ、インスリンが足りないとβ区の(一部ストライキを起こしている)小人から強制的に絞り出しているのだ。余裕はない上に、インスリンは保存も利かない。

 小人が俯くと、目に写った血管が使ったNOショットと書かれたスプレー。


「ノー早撃ちガンマン 2世」


 そっと手に握りこまされた。


「え゛……俺が?」

「シンゾーさんの早撃ち見てマス! できマス!」

「お、おぉぅ……」


 がんばれ。と、血管にも作業の傍ら親指を立てられたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガンバレ!ないぞうさん! 廿楽 亜久 @tudura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ