ガンバレ! ひんけつ′s
バタバタと血液を走り回る白血球たち。
「なんだろ? 最近、白血球くんたちがやけに忙しそうですよね」
なにか知ってる? というように、この区画のトップであり、現在インスリンで濡れた手を拭いている膵臓に振り返る。
「私が知るわけないだろ。白血球のやつに聞きに行けば?」
「えー冗談? 膵臓くんみたいに白血球くんの忙しいところにくだらない話しにいけるほど、私、ハート強くないですよ」
笑いながら外の様子を見ている脳に、搾り取られた小人を隅で引きずっていったβ区の小人がじっと脳を見つめると、
「あれっすね。コイツ、超めんどくさいダメ人間」
はっきりとそんなことを言い出した。
その言葉に、膵臓がなんとも渋い顔をするが、脳の方を見れば、笑顔のまま、
「君らに言われるとは思わなかったよ」
私もだよ。と、喉元まできた言葉を飲み込みつつ、膵臓は一度息を吐き出した。
「というか、なんでここにいるんだ? また血管さん探し?」
「まぁ、そんなところですかねぇ? でも、みんなバタバタしてるから、落ち着くまで待ったほうがいいかと思いまして」
たまたま近くにあったのがここだった、というだけだった。そうでもなければ、膵臓にわざわざ脳がくるようなこともない。
「それにほら、どうせこういうことって肝臓くんか腎臓くんのせいじゃない?」
なにか慌てるような事態になっているなら、脳にだって間接的に情報が入るのだが、今回はそれがない。こういう時は、八割、肝臓や腎臓がなにかやらかしている。
肝臓にほど近い位置で、仲のいい膵臓であれば、肝臓がなにかやらかしていれば知っていそうだし、膵臓が知らないということは、今回の原因は、腎臓のほ――
「ちっがぁーうッ!」
「ブブーっ!」
元気な声と共に現れたのは、双子のような容姿をした腎臓たち。その後ろには、軍服を着た目付きの鋭い白血球がいた。
白血球を見た途端、搾り取られた小人を介抱していた小人も、膵臓の後ろに隠れる。
「さっきも疑われたー!」
「疑ってません。確認をしただけです」
「ダウト」
「ライト。本当です。経験的におふたりが原因かどうかはわかります。しかし、一応確認する必要はありまして」
「ぶぅぅぅ」
「……」
声もなくため息をついてる白血球に、膵臓も苦笑いをこぼす。凶悪なウイルスだろうと細菌だろうと黙らせる白血球だが、腎臓たちは少々手に余るらしい。
「それで、なんなんです? 最近の騒ぎは」
「貧血です」
「だから――」
「ジーンズ、お口チャック」
また何か言おうとした腎臓たちに、膵臓が口にチャックを閉めるような仕草と共に命令すれば、素直にその仕草をマネして口を閉じた。
その様子に脳が感心してるのを横目に、腎臓たちが口をしっかり閉じたのを確認すると、白血球に目を向け続きを促す。
「ありがとう。さっきも言いましたが、言ってしまえば貧血です」
「あーそういえば、前に血がこなくて大変だったような……」
その時はすぐに赤血球が届けられたので、大事には至らなかったが、貧血であれば脳に関係あるはずだ。少しは情報が入ってきていそうなものだが。
「それは脳虚血の方でしょう?」
「そういえばそうだった。あいかわらず主は発表事、苦手ですねぇ」
「虚血? 貧血と違うのか?」
「いやぁ、私のところで起きてることは似てるし、ほとんど一緒」
あまり貧血には関係がないため、膵臓が不思議そうにかしげていると、脳が解説してくれる。
「血は十分あるけど、ムダに緊張して心臓くんがムダにがんばってフルスロットで回転しまくったら、脳の方まで血が運ばれない。自転車とかでギア1だと、どれだけこいでも進まないよね。っていうのが、脳虚血」
緊張して興奮した結果、心臓が軽い力で何度も血を押し出した結果、頭にまで血が行っていない状態だそうだ。
「どうにもならないから、逆立ちして発表するか、寝るしかないですね」
体に血はあるため、頭を下にすれば、重力に従い脳にも血が行き届くことは、届くだろうが、そんなことを発表の時にできる人間ならそんなことにはならないだろう。
「貧血は、血はきてるけど中身スッカスカって感じですよ。どっちも足りなさすぎて、私のところは動けなくなるんだけど……今のところ、まだ私の方は特にトラブル起きてませんけど」
脳が白血球へと目を向ける。一応、白血球は血液すべてを統治しているため、血液の、今回は赤血球に関してのことも何かあれば動くのは彼だ。
「まだひどい段階ではないようなのですが」
白血球は少し考えたあと、馬車馬のごとく心ここにあらずといった顔でただひたすらに走り続けている赤血球を一人捕まえると、4人の前に見せる。
「あいかわらず、死人みたいな顔ー」
「実際、魂ないですしね」
「きゃー」
つい腎臓たちが口を開けてしまったが、慌てて口を閉めると、何もなかったというように口をふさいでいる。
「こいつらの色が薄いんですよ。あと微かに小さい」
白血球の言葉に、膵臓や脳がじっと赤血球を見つめるが、わからない。
「もう少し進めばわかりやすくなりますが、そうなると脳さんのほうにも影響が出始めます」
「それは実に良くない。原因はなんでしょう?」
自分に負荷がかかると知るやいなや、動き出すのが早いのだから困ったものだ。
「てっつ不足ー」
「ふぇ」
「アレであってます?」
腎臓たちの言葉を確認するために、白血球の方を見れば、頷かれた。
「わかりました。じゃあ、主になにか鉄分あるもの……レバニラ、マグロ、あぁ、ほうれん草とかもか。食べるように仕向けるか」
「お前、本当に自分のことになると本気出すな」
「当たり前でしょ」
脳が早速、食欲として鉄分の欲求を出そうと本来の自分の持ち場へ戻ろうとしていた。それを見送る膵臓の裾を引っ張られ、その裾を引っ張っていた腎臓たちを見下ろせば、口を開けていいかと、チャックを開けるような仕草をしている。
もうすでに何度もしゃべっているが、このふたりにとっては、しゃべっていないに入っているらしい。膵臓が頷けば、腎臓たちは嬉しそうに口を開き、脳の元へかけていくと、
「信じてなーい!」
「疑ったー!」
「ひどーい!」
「錯覚ヤロー!」
「うわぁっ……! ちょっと、膵臓くん、このふたり――」
「さて、仕事に戻るか。白血球もがんばれ」
「はい。そちらもがんばってください」
「あ、見捨てた。薄情者ー!!!」
脳が叫ぶ中、ちょうど血液も少し薄くなってるし。と言った白血球に、膵臓は何も言わず苦笑を浮かべるだけだった。
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