グリプス・シンフォニア〜異世界から天使がやって来た〜

穂道ありさ

第1話

虚空に黒が広がる下、2人はそれをずっと見上げていた。

 周りが草っ原でしかないただの場所。弱い風が吹く度に肌寒く、僅かに見える白い吐息。

 今日は満月。そして点々と視界に映る星。いつもと変わらない光景も、近くでみると綺麗だった。2人にとって星々を見ることは馴染み深いことだったがどうしてここまで想いが高まるのか答えが出てこない。

「ーーこれは……」

「星を眺める素晴らしさ、多分チフは忘れてると思ったからさ」

 空に溶け残ってしまったような細長い雲がより一層と星々を美しく表現され、もう言葉に出来ない光景だった。


 ーーここは〈天界〉。神と天使が秩序を保つ、天に浮かぶ世界。

 そんな世界の夜、2人静かに見つめる先に、静かに流星が降り注いだ。





 ◆ーー2時間前





「よし、今日も異常無しだね!」

 狭苦しい部屋にこもり望遠鏡のようなもので空を眺める。瞬きをするように煌めく星。それを観察、記録するのがチフの役割だった。

 月に1度、この仕事をする。星達が正常な動きをしているかとか、消滅した星座がないかとかを確認するためだ。


 取り敢えず異常が無いことを確認して、チフは窓辺から部屋の隅に置かれた机に移動する。

「どうしたらこんだけ散らかるんだろ……」

 机の上はたくさんの本がごちゃ混ぜに置かれていた。特にチフが今1番必要としてるのは星々観察記録帳で、単語辞典とかではない。と、よく見ると重なる本の下敷きに記録帳はあった。取り敢えず、机の上を整理しようと本を隣の本棚に移動させる。

「国語辞典、野菜の育て方、BL作……BL!?」

  それは見なかったふり。

「何かの勘違いだよね。他の人に貰ったとか……あれ?」

 ふっと視界に映った1冊の本。チフはそっとその本を手に取った。

「私とチフの日記……?」

「ありゃー、ばれちゃったかい?」

 背後から声がした。振り返ると扉の前に少女の姿があった。

「フィル。仕事の事忘れてたでしょ?」

「ごめんごめん」

 頭を手で啜り軽く謝る。

 彼女はフィルチ・アスタナ。通称フィルはチフの大親友だ。身長は160手前、髪はお尻くらいまである茶色、瞳はキラッとしたアクアブルーとなかなか美人。彼女も星を観察する月1度の仕事の仲間。といってもこの仕事はチフとフィルチだけで他はいない。


「それより、女神様に許可貰ってきたんだ〜」

「仕事をほったらかしてまで貰いたかった許可なんだー……」

「ま、そう怒らずに」

 怒ってはいない、と言いたげなチフ。実際のところは本当に怒っていない。それは大親友であるフィルチも理解しているだろう。

「外出の許可。特別な日だよ、今日は」

 〈天界〉は空に限りなく近い。そのせいで夜はとてつもなく視界が暗い。だから夜10時以降は外出を禁止している。

「……??」

「チフは覚えてないか〜。今日は特別な日アンド満月。取り敢えず、記録帳に今日の観察結果を書いて外に行こう」

 彼女はチフの手を取り笑顔でそう言った。

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