第2話‐3‐

「さて、早速だけど」


学園長が俺を見る。


「着替えるから出て行ってもらえるかな?」


「…それを早く言ってくれよ。それと着替えるなら、そいつの着替えも頼む」


俺は少女を指差し、そう言ってから部屋を出て、扉を閉めた。しばらく一人、せっかくなので俺は部屋を調べることにした。壁側はそのほとんどが本でいっぱいである。何冊あるか間では分からないが、少なくとも1年で読みきれる量ではないだろう。小説に加え、勉強に役立ちそうな学術書、魔術書もある。学園長の趣味で構成されているのであろうか。最初に入ってきた扉の反対側は大きなガラス窓だ、中庭の大きな木がよく映えている。そんな感じで部屋の隅々を観察していると扉がノックされる。最初に入ってきた方からだ。


「学園長、いらっしゃますか?」


女の子の声だ。しかし俺は学園長ではないので、答えるわけにはいかないだろう。

ここは黙っておこうか。

しかし、穏便にすまそうとする俺を気持ちとは裏腹に扉が開かれる。


「学園長、失礼しますね」


扉を開けた女の子は驚いた顔をする。当たり前か学園長以外の人がいるわけだからな。


「学園長は今いないよ。今日はもう帰ったんじゃないかな?」


「そうですか…。あのあなたは?」


「俺は…ここに見学に来た者さ。これから入る学園が気になってね、それで学園長を訪ねたんだけど、君と同じで会うことが出来なくてね」


「そうだったんですか、不躾な質問をしてしまいごめんなさい。怪しい人だったらどうしようかと思ってしまって…」


「あぁ、仕方ないさ。怪しい奴がいたらその対応が正しいと思う」


「はぁ、では私はこれで失礼いたします」


そういうと彼女はそそくさと出て行ってしまう。まぁこんなところに学園長以外がいたら普通は怪しんで当たり前だよな。俺だってそうする。



「お待たせ致しました。どうぞお入りください」


メイドっぽい人が後ろから声をかけてくる。いつの間にそこに居るのか聞きたいが、聞いても答えてくれるとは思えないので、おそらく無駄だろう。

彼女はそれだけを言うと部屋の中に戻っていくので、俺もその後についていく。


部屋に入ると先ほどのメイド、見知らぬ女の子、おぶっていた少女がテーブルの前に集合している。何かを察した俺は見知らぬ女の子と向かいあって座る。


「君はどちら様?」


そう聞くと大きくため息をはかれる。


「あなたって結構馬鹿なのかしら?」


「初対面の人間に対する正しい対応だと思えるが?」


「…そうだったわね、失礼したわ。私は理事長よ」


…嘘だ。さっき話をしていた人物は顔は見えなかったけど、身体的特徴が今の子とまったく異なる。その何ていうか…。


「悪かったわね。出ているところが出ていなくて!」


「いや、そんなこと言ってねぇだろ」


「言って無くても、顔が語ってるわよ!」


むむ…顔に出てしまったか…。


「まったく…。改めまして、私はこの学園、ブロッサムルーンの理事長を務めております。露木桜花と申します」


「桜花様専属のメイドをしております、ほのかと申します」


「ん?名前だけ…?」


「名前とは少し異なりますね。ほのかは源氏名みたいなものと御考えください、本当の名は主人以外に知られてはならないのです」


ってやつか、面倒なこった。


「じゃ、俺の番だな。知ってると思うが、秋峰陽、出身は紅葉島、中学に入る前にこっちに無理矢理に来させられた。」


「プロフィール通りね、偽物じゃない事が分かって良かったわ」


プロフィール通りじゃなかったらおかしいだろうが…。


「あたしの番か…」


「どうした?」


「いや…ちょっと…」


「別に言いたくないなら、無理しなくてもいいわ」


「ううん…大丈夫だ。あたしの名前は……アリシア・リミュエール」


…普通の名前だな


「隠すほどの名前か?」


「うっさい…、あたしに似合わないから言いたくなかったんだ」


「いい名前じゃない」


露木が俺に目配せをしてくる。なるほど…わかった。


「そうそう、可愛いアリシアちゃんにはお似合いの名前だなぁ!」


「う、うそつけ!」


「嘘じゃないわよ、アリシアは可愛いもの」


「アリシアが可愛くなかったら、だれが可愛いのか!」


「そうね、アリシアはこの世界の宝みたいなものだものね」


「全くもって、その通りでございますね」


「可愛い!アリシアちゃん、可愛いよ~!」


顔を真っ赤にして、アリシア俯いてしまう。

この辺でやめとかないと後が怖いな。


「ま、冗談はこのくらいにして、親からもらった名前だろ?大事にしないと罰が当たるぜ」


「そ、それは分かってる…けど…」


「大丈夫、少なくともここにいる俺らは、似合わない名前だなんて思ってねぇから」


露木とほのかも頷く。


「…ありがとう」


「さて、自己紹介もしたことだし…」


「そうね、詳しい説明でもしましょう。何でも聞いて構わないわ」


すると間髪入れずに秋峰は


「じゃ、アリシアが作られた理由から聞こうか」


そう聞かれた露木は少し驚いた顔をしている…ように見えた。

がすぐに冷静になったのか元の表情に戻る。


「いいでしょう。彼女が作られた理由はとある実験をしていたからです」


「とある実験?」


「精霊や悪魔を人間の体に入れることが可能かどうかですよ」


思わず情けない声が漏れる。


「まぁ、その反応は正しいですよ。実際に私もなりましたから」


「とはいえそんな突拍子もないこと言われたらな」


「信じるにせよ、信じないにせよ、彼女はその実験から生まれた者ですよ」


「ちなみにその実験ってのは…」


「もうとっくに廃止しましたよ。生きた人間を使用する実験など道徳に反しますからね」


俺はその言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。

今も行われてたら、どんだけやばい学校なのかと…


「他に質問はありますか?」


話題を変えたということは、さっきの話はこれで終わりか。

なら次は…


「俺はなぜ連れてこられた?理由は俺の両親に関係あるとか言ってやがったが」


「詳しく説明されなかったのかしら?」


「いやまったく。とにかく俺の両親がどーたらとしか言ってなかったな」


「全くあの人たちは…」とため息交じりに聞こえた気がした。


「分かりました、詳しくはこれから話しましょう」


それから俺は呼び出された経緯を聞いた。理由は至極単純だった。

突如いなくなった俺の両親を探してほしいということだった。

いなくなった理由や経緯は不明、だが唯一手がかりがあったらしい。


「で、その手がかりってのは?」


「これよ」


そう言って機械をテーブルの上に置いた。

少なくとも俺が居た紅葉島には見たことがない代物だ。


「これは?」


「これは学園で使用されている記録端末「C.A.R.Dカード」よ」


「ふーん…。で、これが手がかりなのか?」


「いいえ、手がかりはこの中に録音されたものよ」


そう言って端末を操作し始める。ヴォンと小気味いい音が鳴ると、半透明のディスプレイが浮かび上がる。どんなテクノロジーなんだと関心と疑問を抱いていると用意が済んだようで。


「流すわよ」


俺は無言で頷くと、露木は再生し始める。ノイズ交じりだが徐々に声が流れ始める。息が切れている音などが混じっているため、緊迫した状況であることが伺える。


「この録音を聞いているということは…俺は学園に戻れていないのだろう。状況は最悪だ、あからさまに仕組まれた事態なのだと思える。だが誰が情報をリークしたのかを、俺たちが知ることはないだろう。」


この声の主は誰なのだろうか。だがどことなく懐かしさを感じる。


「だが、幸運なことは息子が巻き込まれなかったことだ、息子が無事ならまだ打つ手はある。今はまだ小さいが、息子が中学生くらいの歳になったら学園に呼んでくれ。」


あぁ、俺が呼ばれたのはこの人の仕業だったのか。


「そして、息子を鍛えてほしい。杏子のところで鍛えてもらっているとは思うが、それだけではきっと足りない。…その足りない分は学園で学べるはずだ。……最後にこんなことを息子に頼むのは申し訳ないと思うが…、俺……ちを…助…け……」


そこで音声が途切れ、部屋が一気に静かになる。


「…これを見つけたのはいつだ?」


「5年前、この学園の中央にある木の下に落ちていたそうよ。ちなみに音声は10年前に録音されたものになるわ」


「10年も前の話なのかよ。もう間に合わねぇだろ…」


「いいえ、生きているわ」


「そんなわけあるはずがないだろ!10年前の話なんだろうが!!…生きてるはずがねぇんだ…」


「それがそうでもないのよ。実はあなたの両親らしき人物を見たといっている人物が居たという情報が報告されているのよ」


「それは本当か!?」


「えぇ、信用できる情報屋からの報告だから間違いないはずよ。そしてその情報を教えてくれた方は私達が訪ねたときには居なかったわ。おそらくは口封じされたのかもしれないのだけれど…」


「逆にそれが、情報の信憑性を高めているのか…」


「その通りよ。だからこそ、端末に録音されたものを信じてあなたを呼び出したのよ」


それなら全てに合点がいく。杏子さんもこのことを知っていたからあんな態度をとっていたのだろう。このことを知れば俺がどうするのかを知っていて、敢えて言わなかったのだろう。今度杏子さんとはじっくりとー話し合わなければならないな。


「それよりも…だ、これからどうするかだよな」


「それについては提案があります」


露木はテーブルの上に本を広げる。


「これは?」


「これはこの学園の全てを記したものですよ。これを使って説明します。」


それから俺たちはこの学園について詳しく教えてもらった。


最初は学園を構成するシステムについてから話をしてもらった。

この学園はランクですべてを管理しているらしい。しかも生徒だけでなく教員もランクで管理されているそうだ。ランクは通常はS~Eがあり、Sが最高でEが最低だそうだ、ちなみにSよりも上のランクがあるらしいが詳しくは載っていなかった。露木もS以上の生徒がいるのかわからないそうだ。

因みにランクが高いと開示される情報も異なるらしい。

しかし、このランク制度は厄介なもので、ランクが低い人はランクの高い人に逆らうことができないそうだ。例でいえばSランクは全てのランクに命令が可能だが、EランクはS~Dランクに全てに逆らうことができないといった感じだ。

とはいえ、さすがにそれじゃ辛いだろうって考えで作られた制度もあるらしいが、それはいずれ話そう。


次のこの学園について

学園自体は普通のだが、学園を中心にして取り囲むように都市が形成されているそうだ。また、この地方では都市を作った場合砦で囲う風習があるらしいが、魔物を討伐するのを授業の一環とするため、敢えて遠くに砦を形成しているそうだ(俺が通ってきた壁が砦だそうだ)。ちなみに生活に必要なものから特殊な物のほとんどが学園内と都市で手に入るそうだ。


「まぁ、こんなところかしらね」


「そうだな。気になることがあれば、また聞くことにするよ」


「分かったわ」


「皆様、夕食のご用意ができました」


「もうそんな時間なのね」


そう言いながらテーブルの上に置いた本を閉じて床に置く、それと同時にほのかさんが料理をテーブルに並べ始める。並べられていく料理はどれも見たことのないものばかりだ。


「いつもより豪華ね、どうやらあなた達のために張り切ったみたいね」


「明日から忙しくなると思いますので、腕によりをかけてお作りいたしました。お口に合うか分かりませんが、どうぞお召し上がりください」


そう言いながら、次々と料理が運ばれてくる。テーブルに乗り切るのかどうかが気になるが、それ以前に俺に食い切れるかどうかが気になる。


そうして一抹の不安を感じながらも学園についてからの初めての夜を過ごし、これからのために彼らは英気を養うのであった。


……………


「予定通り彼が到着しました」


「そうか、彼の到着を阻止することはできなかったか、彼らも思ったより無能だな」


「それほど彼が強かったのではないでしょうか」


「ふむ、その可能性もあるか。それはさておき次の手はずは整っているのか?」


「はい、次だけでなく、その先も用意しております」


「うむ、相変わらず用意周到だな」


「ありがたきお言葉です」


「必ず彼をこの学園から追い出すのだぞ、彼が居ては例の計画に支障が出る。それにあの小娘もな…」


「お任せください、この私がどちらも片づけて見せます」


「期待しておるぞ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

EXブレイカー 天風春雷 @iguzex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る