松枝蔵人氏はライトノベル文学の夜明けを飾った明星であった。
今では当時のことを知る術は無いが、その輝きが不滅であることは本作を読めば明白である。
まるで映画のような情景描写、息遣いすら伝わるような生き生きとした登場人物達、そして圧倒的な世界とそこに根付く人々の社会構造が重なり合い、重厚な作品を構成している。かといって難解にはならず、気持ち良く読み進めることができるだろう。
この小説を通じて、月日を重ねても、微かに、でも確かに残る少年だった頃の純粋さが私を鼓舞するかのような高揚感を覚えた。煙を吸い込んでも、鉄の塊に跨ってスロットルを回しても、長い髪を夜通し撫で続けても、我々が少年だったという事実は揺らがない。そんな忘れかけていた純粋さを取り戻させてくれる。
今を輝く若者にも、文筆を生業にしたいと考える者達にもこの小説が届くことを願っている。流行に乗り目先の利益を追求する、独創性のない退屈な大人達に中指を突きつけるミドルティーンにとって、これ以上の教科書はないだろう。
松枝蔵人氏も永遠に少年なのだ。