第4話 見えない隣人(後編)
またあの豊田という気味の悪いセールスマンが戻ってきた?警察が帰ってすぐに来るなんて、近くに隠れていたとしか思えない。
玲子はいつでも110番できる体勢で、震える指でモニターのスイッチを入れた。
伊豆野と名乗った隣人が立っていた。
豊田が戻ってきたんじゃなかったという安堵はすぐに消え、別の意味での緊張感が玲子の背筋を冷やす。隣人と自称しているこの初老の男も信用ならない。
「伊豆野です。先ほどは失礼をしました。遅くなりましたが改めて引っ越しのご挨拶をと思いまして」
薄く微笑む伊豆野は菓子折を持参していた。
この唐突に現れた隣人と名乗る男が玲子を見つめた時の心の内側を見透かすような視線が怖かった。
しかし、と玲子は冷静に考えた。
自分が伊豆野のことを、隣家を訪れる『日替わりの客』の一人だと思い込んでいただけだとしたら?今日、彼が外出から帰ってきたところを玲子が見かけただけということもありえる。
何より警察の来訪にも堂々と隣家の住人として対応し、面も割れているじゃないか。
毎日の来訪客のことは気になるが、それだって聞いてみたら、なあんだと腑に落ちる理由があるかもしれない。
そして、伊豆野も転居してきてから事情があって、ご近所挨拶に来るきっかけを失っていただけとも考えられる。
たまたまいろんな勘違いが重なっただけだ。何より大人としての常識に則って対応すべきという思いが玲子を落ち着かせた。
「は、はい。少しお待ちください」
鏡の前で髪をささっとなおして階段をおりて玄関のロックを外しドアを開けた。
「先ほどはあんな形で失礼しました。改めまして。隣に引っ越してきました伊豆野です。ご挨拶がこんなに遅くなって申し訳ございません。お口にあうかわかりませんが」
銀座の百貨店の包装紙にくるまれた洋菓子の詰め合わせを渡された。
「こちらこそ失礼しました。いつお伺いしたらよいのかわからず、ご挨拶しておりませんでした。町村と申します。これからよろしくお願いします」
お互いに一礼する。伊豆野は意外に柔和な笑顔をしていた。先ほどの怖い視線は自分の緊張感からくる誤解だ。
「長く仕事で中国のレアメタル鉱山を回ってまして、久方ぶりの日本なんです。この年まで独り身でしたもんでそろそろ老後のことも考えて落ち着ける住まいを探していて、引っ越してきたんですよ」
独身か。それなら転居の際に荷物の搬入も少ないし、自分で諸手続をしていたら、引っ越しの挨拶なんて後回しになってしまうかもしれないわね。
「そうですか。本来であれば主人と一緒にご挨拶させていただくところですが、今仕事で出張に出ておりまして。戻りましたら改めてこちらからご挨拶に伺わせていただきます」
伊豆野は足元の三和土に目をやる。
「そうですか、ご主人はしばらくおられないのですね。他の同居しているご家族もおられないようだ」
え?
再び顔を上げた伊豆野は、先ほど玲子が恐怖を感じた刺すようなものに変貌していた。
「ならば遠慮することもない。私の家ご招待しましょう」
「はい?」
虚をつく物言いに、玲子は頭がついていかない。
玄関にブンブンと耳障りな機械が発するような音が聞こえ始めていた。
玲子の思考は急速に鈍り、その音に支配されていく。
拒否することは許されない、自分は伊豆野の招待を受けなくてはいけないのだ。
町村家の玄関を出て、2人は連れだって伊豆野の邸宅の玄関を入った。これまでの客と違って、玲子は家主自ら先導するという特別待遇だ。
かつて羨望し、空き家の頃から中を見てみたいと思っていた広大な邸宅に入る機会。これが普通の招待だとしたら、玲子は自分の家の倍以上ある玄関ホールや、上質の建材で丁寧に作られている各部屋を、失礼のない程度にじっくり観察しただろう。
せっかくの機会も、伊豆野の言うことにロボットのように従うしかないため、観察のチャンスを放棄することになったが。
指示された部屋に入ると、伊豆野が不思議な音声―――先ほどのブンブンという機械的な音に似ていたノイズ―――を発すると、一方の壁にぽっかりと出入口が開いた。地下に向かっていく階段を下りると、平均的な体育館くらいはありそうな広大な空間が広がっていた。
天井高は4メートルくらいはある。薄い緑色の照明がついているものの全体的に薄暗い。
手前左に病院の手術室のようなスペースがあり、手前右には、複数のモニターとその制御装置らしい機械類が置かれている。
薄暗さに目が慣れていないので、奥の方はよく見えなかったが何もないスペースが続いているようだった。その奥からブンブン、ブンブンという音が聞こえている。
伊豆野は玲子を巨大なモニター―――玲子の家の55インチテレビよりも大きい―――の前の椅子をすすめた。
「ようこそおいで下さいました。この家の本当の主人が是非あなたをお招きしておもてなししたいと希望しておりましてね。主人があなたの家を直接伺うには少々問題がありまして、私をよこしたわけです。あ、町村さんが疑っていたとおり、私は今日初めてここの家に招かれた者ですよ。今まであなたが覗き見していた毎日の来訪者たちも私の同志です。
本当はあなたを同志にお迎えするのはもう少し後だったのですが、主人は周囲を嗅ぎまわる者を好ましく思いません。速やかに削除することもできたのですが、あなたの家族や友人が騒ぎだすのも面倒です。だから予定を前倒しして同志となっていただくことになりました。
心配なさらずとも私がこれからあなたにこれから主人のことをご説明いたします。お聞きいただければきっとあなたは自ら同志に志願してくださると思いますよ」
玲子は意識の奥底でこの尋常じゃない事態と自分の置かれた立場を理解していたものの、ブンブンと耳に鳴り響く音が警鐘を打消してしまい、伊豆野の言葉をただ受け入れるだけだった。体験はないが催眠術にかかるとこんな感じなのだろうか。
巨大モニターが点灯し、映像が流れ始めた。最初は宇宙空間から撮ったと思われる地球。
伊豆野が次々と変わるモニターの画像にあわせて、常識を覆す内容の説明を始めた。
この宇宙とは別の時空にある世界に住む主人達が、『ゲート』を越えてこの宇宙に進出してきたこと。
宇宙の各所―――大熊座にある惑星や冥王星―――に前線基地を築いたこと。
主人達が希求しているレアメタルの鉱脈が地球に存在することを知り、はるか昔、ジュラ紀に飛来し、当時の地球で繁栄していた『いにしえのもの』や『クトゥルー』という存在と戦いを繰り広げたこと。
主人達は現在も地球の複数の場所で希少金属を採掘していること。
その科学力は現代の人間のそれを上回っていて、いくつかの国家と秘密協定を結んでいること。
主人達は彼らの活動を補助するエージェントや敵からの護衛役として人間をスカウトしていること。特に選ばれた人間は彼らの前線基地へ連れて行ってもらえたり、人間を超越した存在にしてもらえること。
主人達に仕えることは人間にとって最高の栄誉であること。
「ミ=ゴ、と呼ばれております」
と伊豆野は締めくくった。
玲子は自分の理解をはるかに超えたレクチャーの内容についていけなかった。趣味の悪いSF映画のストーリーだと笑い飛ばせなかったのは、自身の経験と伊豆野の語り口が淡々と事実を語っていると全身で感じられたからだ。理解を超えていることとその真偽は別だ。
催眠術的なもので心理状態が安定させられていて、パニック状態になることを許してもらえなかった玲子は受け入れるしかなかった。
「町村さん、この家の主人が挨拶するそうです。奥へどうぞ」
逆らえずに伊豆野の後ろに従った。
奥の暗がりの空間―――ブンブン音はそこから聞こえてくる―――が複雑に歪曲し、収縮して、それは現れた。
「きゃああああああああああ」
玲子の恐怖と嫌悪の叫びが空間にこだました。ブンブン音がかき消される。
伊豆野が仕掛けた催眠効果を簡単に打ち消すほどの生理的嫌悪が絶叫となって、喉をついて出たのだ。
それ、3人……ではない3匹、か3体と呼ぶべきものだ。
その姿を一言であらわすなら、翼のある甲殻類。
大きさは身長160センチの玲子とほぼ同じ。
ピンクがかったカニとかエビのような体から複数―――6本くらいか―――の手だか足が生えており、うち2つはカニのハサミがついていた。背部にはコウモリの翼か膜のようなものがある。
一番気持ち悪かったのは頭部だ。非常に短い触手だかトゲに覆われた渦巻き状の楕円体がついてて、目鼻口はない。
それがLED照明のように1秒ごとに色を次々と変えていた。
平凡な主婦、町村玲子の隣家に越してきた者。
ミ=ゴ。
「うあああああ!うああああ!いやああああ!」
玲子は現実を拒否しようと、いやいやをするように上半身振って、その場にうずくまった。
その間も3体のミ=ゴはそれぞれのおぞましい頭部を明滅させていた。
伊豆野が主人達にかしこまるような姿勢で話しかける。
「町村さん。主人は怖がることはないと申しております。同志になればこのお姿の美しさが理解できるようになりますよ。今からそこの手術台であなたの脳をちょっとだけいじらせていただ」
非現実の異常な空間に、日常がインターホンの音という形で割り込んできた。
ピンポーン
ピンポーン
ミ=ゴがまた頭をカラフルにちかちかさせた。頭部の光の色と明滅具合で意志を疎通しているのだ。
「今日はもう来客の予定はありません。警察でしょうか。適切に対処します」
伊豆野は空中に指先を走らせた。巨大モニターの画像が玄関先の画像に切り替わる。
営業用スマイルを浮かべた男がモニターに顔を突き出すような姿勢で立っていた。
黒いスーツに黄色のネクタイ。
豊田だった。しつこくて気味悪いセールスマン。
うずくまっていた玲子がモニターに目をやって、少しだけ理性を取り戻した。気味悪いセールスマンでも、エビカニお化けや狂人の伊豆野に比べたら。地獄で仏とはこのこと。
助けを求めようとしたが声が出ない。
ミ=ゴの、伊豆野を上回るテレパシーが玲子の意志を封じたのだ。
「どなた様でしょうか」
伊豆野の落ち着きはらった対応に、豊田はモニターの中で一礼。
「はじめまして。私、○○製薬の訪問営業で当地区担当をしております豊田と申します」
名乗り終えて、豊田は一層笑みを深くした。
「薬ですか。うちは足りています。他をあたってください」
モニターの中の顔は大げさに驚いた顔になった。
「他って、隣の町村様のお宅とかですか」
玲子はモニターに駆け寄りたかった。その町村はここにいます、この化け物どもに人間じゃない何かに変えられようとしているんです。薬だったらいくらでも買うから助けて。警察に連絡して。
うずくまった姿勢から動くことも出来なくなっている。豊田に何とか気づいてもらう方法はないか。
「町村様の奥様はご不在のようなので飛ばしました。そこで、お隣様にも当社の製品をごひいきにしていただきたくてですね。なにしろ現代人の抱えるストレスは」
「結構です」
伊豆野は平静を崩さずに会話を打ち切る。
「そんなことおっしゃらずにお話だけでも聞いてください。
そこに町村の奥様いるんでしょう?奥様は薬が必要な状態なのではないかなと私は思いましてね」
「何をおっしゃってるんです?あなた、不審者として警察にマークされてる悪質なセールスの方ですね。通報しますよ」
伊豆野は引かない。
「通報されて困るのは警察だと思うんですがね。
私もあなた達も警察が手に負えるわけがないですからね。通報して困らせるのはやめてあげませんか」
「何を言って―――」
不意に玲子のスマホの着信音。
伊豆野は舌打ちして玲子の尻ポケットからスマホを取って画面を見た。非通知となっていた。伊豆野は思い出した。この地下空間は携帯の電波は圏外のはず。
「あら、お電話ですか。終わるまで私はお待ちしますから」
いけしゃあしゃあと豊田。
伊豆野は電話に出てみた。その顔が強張った。
豊田がモニターの前で耳に手を当てて『聞こえますか?』のジェスチャーをとる。
「では当社のお薬の説明にあがらせていただきますよ」
伊豆野はモニターのスイッチを切った。携帯を投げ捨てる。
「なんだ、なんでだ。なんでだ」
始終冷静だった伊豆野は額に汗を浮かべて焦慮していた。
「聞こえてしまったのですね。
地下空間の入口に豊田が立っていた。
ミ=ゴ達の頭部のイルミネーションが今まで以上に激しくなる中、伊豆野は息を呑み、玲子は茫然とし、豊田はツカツカと近づいてきた。営業用スマイルはそれ自体が仮面のように張り付いたまま。
「
「貴様、この聖なる場所にどうやって入った!」
伊豆野はジャケットの内ポケットから小型の自動拳銃を取り出すと迷わずに弾倉が空になるまで発砲した。紳士然としていたが、もう取り繕う余裕はない。
全弾命中。しかし、豊田は平然としている。
「私のスーツ、特別なもので」
その黒スーツが煮だつように全身蠢き始めた。繊維であることを辞めたスーツはモゴモゴとうねくりながら、広がって豊田を包むマントにかわった。
「ショゴスって生物をご存知ですか?このマントはあれでできてるのですよ。ほとんどの攻撃を吸収してしまう便利なやつですよ。もっとも私自身のテレパシーで臣従させているだけなので、私がこいつを制御できなくなったら、暴走して私自身食われてしまうかもしれないんです。ま、素人にはおすすめできない」
ショゴスのマントを腕でキザに振り払った豊田と名乗っていた男は、濃茶色の革上下に黒ブーツ、カウボーイハットに黒いドミノマスクをまとった異邦人になりかわっていた。
「さあ、
声音まで、へつらい媚びるセールスマンのものから自信たっぷりのものに変わっている。
「と、その前に。君が薬を買ってくれないからここまで押し売りに来ることになってしまったじゃないか」
うずくまった玲子の手を取り立たせてくれた。握った手から冷涼な空気が流れ込んだような感覚。心身がミ=ゴの呪縛から解き放たれた。
「あ、あの・・・・」
お礼を言うべきところだが一連の出来事に脳がついていけずに、何も言えなかった。
「別に君のことはどうでもよかったんだが、この島国でミ=ゴが暗躍していることを情報提供してくれたことに対する礼だ―――君が夫にかけた電話の会話がそばの席にいた俺の耳にも入ってしまってね。なに、耳はいいんだ。夫の意識からここのアドレスを読み取ってさ。あ、急いでたからコーヒーの代金を払い忘れた気がする……」
伊豆野が修羅の形相で襲いかかってきた。片手にはコンバットナイフ。ロマンスグレーの老紳士の割にはぶっそうなものを多数持ち歩いていたらしい。
豊田ことウィップアーウィルは両腕にはめている籠手から生えているノコギリ刃のようなものでナイフを受け止め、もう片方の手で弾き飛ばした。
伊豆野の襟元を捕まえて、顔面にパンチ。鼻骨が折れ曲がって口から大量の血が流れた。
「ミ=ゴの使用人のお前にはまだ大事な役目があるからあと少し生かしておいてやろう。わかるな?俺達
ウィップアーウィルはもう一発パンチを伊豆野の顎にぶち込み、地下空間の隅の手術スペース―――ここで今までの客は脳をいじられたのだろう―――の手術台にくくりつけた。
ミ=ゴ達は怒りをあらわすと思われる光の強烈な明滅を繰り返し、伊豆野を拘束している最中のウィップアーウィルの背中めがけて何かを発射した。
モニター群の陰に隠れた玲子は目を凝らして、ミ=ゴの何本もある腕の一本に握られたもの―――ドアの取っ手程の大きさの小突起のついた黒い金属の塊にワイヤーが絡みついている―――を見た。あの化け物の科学が作った銃。あの青白い火花は高圧の電気だろうか。
電気の矢は、ウィップアーウィルの背中を覆う黒いマントがゼリーのように震える表面で遮った。
生贄をゲットしたウィップアーウィルはくるりと振り向くと、無駄だろというジェスチャーをとった。
「ショゴスには火器も電気も効き目はあまりないんだって。お前ら科学自慢のくせに学習しないのな。この100年200年で何度同じことやってんだ」
言うやいなや風のように走り、ミ=ゴ達との距離を詰めた。
先頭にいたミ=ゴは前肢にあたる触腕についている巨大なカニのハサミでウィップアーウィルの首筋を狙った。頸動脈をスパッとやられたらまずいだろう。
彼は絶妙な体裁きでハサミをかわすと、その懐に入り込み、右腕を光る楕円体頭部の付け根に巻き付けてロック。左腕を甲殻類を思わせるボディに伸ばして、一気に持ち上げた。
ぴかぴか光る楕円体は下に向き、下半身は天井に近くなる。
そして、そのままウィップアーウィル自身の自重と重力、床に向かって引きつける両腕のパワーを全部乗せて、楕円体の頭部は床に叩き付けられ、表現し難い色彩の血液めいたものをぶちまけて潰れた。
心配そうに見ていた玲子に顔を向けて彼は言ってのけた。
「ニッポンのバリツだ」
「バリツ?何それ。あれはプロレスのブレーンバスターじゃない。しかも安全を無視した元祖型」
町村玲子、マニアックなプロレスファンだった。
2体目のミ=ゴはその隙に背後からハサミを突き入れた。
首をそちらへ向けることもなく
「フン」
ショゴスという黒いゼリー状のものでできているマントが、対面する形の化け物に波打って襲いかかった。マントの各所が裏にいる誰かがパンチの連打を入れているように盛り上がって、実際にマントの表面の豪打が次々と決まり、ミ=ゴをひしゃげた塊に変えた。
最後に残されたミ=ゴは無情にも背を向けて奥の空間のワープゲートに向かって移動していた。
そうはさせじと、ウィップアーウィルはマントをはためかせて跳躍、楕円体の後頭部にあたる部分を右掌でかっちりつかむと、落下スピードと自重をかけてそのまま楕円体を床に叩き付けて再び頭部を破砕した。
「ニッポンのバリツだ」
「フェイスクラッシャーでしょ」
町村玲子、技にはこだわりをもつべきと持論をもつプロレスファン。
町村家のリビング。放心してソファに横になる玲子。ウィップアーウィルは豊田の姿に戻って彼女に一粒の薬を服用させた。
「ミ=ゴの拠点をひとつ潰せたお礼だ。敏腕セールスマンのイチオシの薬をサービスしてやろう。今回のことを全て忘れられる。精神汚染もある程度は治るだろう。あとは君の心の持ちようだ。じきに眠くなるだろう。起きたらリセットできてるはずだ」
去ろうとする豊田。
「ま、待って。隣は……どうするの?あのままじゃ事件になって私やあなたは事件と無関係ってわけにはいかないわ」
「俺はあの地下室に戻って、伊豆野といったか、あいつで勝利の儀式をしなくてはならんので急いでるんだが……ミ=ゴはこの宇宙の外から来た生物で我々と原子振動が違うから、あと1時間もしたらきれいに消え去っているよ。伊豆野のことはまあ聞かないほうがいい。あの空間自体がミ=ゴの科学でつくった疑似空間だから、俺がゲートを破壊したらなくなる。あとは空き家が残るだけだ」
それじゃあな、と階段を下りていく背中。
「薬で忘れてしまうかもしれないけど、あなたの名前は豊田でいいの?恩人の名前くらい知っておきたい……」
「俺はウィップアーウィルだ。豊田は目に入った名前を使っただけの偽名だ」
その答えはすでに眠り落ちた玲子の耳には入らなかった。
リビングの壁にかけられたカレンダーは夫の勤務先である日本最大の自動車メーカーのものだった。
第4話 完
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