第1話 夜鷹の鳴き声は聞こえるか(2)
あの鳥の声、悪魔の群れが人間を嘲弄しているように聞こえるから僕は苦手だ。
聞こえたらできるかぎり早くその場を駆け去るようにしている。
今はその不吉な鳴き声は聞こえはしない。真夜中のアーカムは静謐そのもの。
「夜鷹だと……何のこったぁ……邪魔するんじゃねえ!」
僕を襲った強盗は紅潮させた顔を醜く歪めて、マントの男の方へ殴りかかった。突然空から乱入された驚きから、闘争心を回復させる早さ。
強盗はそれなりに場数を踏んでいるようだ。
「尋ねられたことに答えないと―――痛いぞ」
聞いてるこちらが顔をしかめてしまう鞭打ちに似た音が2回。僕の凡庸な視覚が何が起こったのか捕捉する前に、強盗は再び地面に転がされた。
鳥の鳴き声の代わりに、哀れな強盗の苦しげな呼吸音だけが風にさらわれていく。
「手間を取らせるな。もう一度だけ聞く。聞こえてないんだな?」
強盗はマントの男―――声は男性だった―――から少しでも遠ざかるべく、尻餅をついた姿勢のまま後じさり始めた。尻が辿った路面の軌跡が他の路面に比べていささかきれいになっている。路上強盗からが路上清掃人へ転職したみたい。僕は自分の置かれた立場を忘れて軽く吹いてしまった。
バールで頭を叩き潰されそうになったくせに精神的なショックは少ないようだ。僕は意外と度胸があるのかもしれない。
「聞こえていないんだな?」
マントの男はずるずると離れていく強盗兼掃除夫に念を押した。どうあっても正直に答えさせるという威圧に満ちていた。
「き、聞こえなかったっ」
虚勢を張るのがやっとなのか、半分裏返った声で強盗は答えた。
途端にマントの男は舞台俳優のように広げていた両腕をだらっと垂らして、露骨に肩を落とした。マントに包まれた背中が一回り小さくなったと思える程にがっかりしたのがわかった。
「そうか、聞こえてないのか。まだ死すべき
左手を強盗に向けて軽くひらひらと振っていた。用済みの使用人に退出を促す主人のようだ。
マントの男が自分に対する関心を完全になくした幸運を逃さず、強盗は両手をついて立ち上がるや、ノースウェストストリートの向こう側へ全力で逃げていった。
マントの男と僕だけが残された。こちらを向く気配のない背中に声をかけた。
「助けていただき、その……ありがとうございます」
沈黙が返ってきた。
「えーと、あなたの名前と住所を教えていただければ、日を改めて御礼に伺い―――」
目の前の黒いマントが、カウボーイハットが急速に色を失い、霧のように輪郭がぼやけて、消えた。
「うわああああ!」
死の危機から脱したこと。幽霊を目撃してしまったこと。2つの現実が一気に僕の精神を締めてきて、またも悲鳴をあげた。
結局サラはその場に戻ってこなかった。たぶん。僕は痛む体を鞭打って何とか寮の自室に戻り、熱をもって痛む両腕を濡れタオルで冷やしながら夜を明かした。
明け方になってから少し眠れたが、腕の痛みがぶり返してきて強制的に起きる羽目になった。
2月7日土曜日。午前だけ授業があるが病欠だ。あの分厚い辞書を持って歩くのは嫌だ。
教室へ行かない代わりに、医務室のドクター・ウォルドロンを尋ね、湿布を貼ってもらい、痛み止めの薬をもらった。
「骨は折れとらん。打ち身じゃね。しかし、喧嘩もたいがいにしたまえよ」
ドクターの注意に同意し、強盗の件は黙っていた。若い奴にありがちな喧嘩だと誤解したままでいてもらった方が都合が良い。強盗のことを話すと、寮の門限を破っていることもばれてしまう。
僕は、再びアーカムの中心部に出ることにした。
なによりサラが心配だし、あの強盗事件のことも気になる。僕の悲鳴を無視したが野次馬根性豊かな誰かが事件を目撃していたかもしれない。ついでにあのマント姿の幽霊のことも。空腹なので朝昼兼用の食事を摂ろう。2月のアーカムにしては気温が下がらずあたたかい日だ。街まで歩くのも苦にならない。足腰はまったく怪我してないから。
ミスカトニック河、B&M鉄道を越えると昨日の犯行現場だ。何事もなかったかのようだ。
そばに建つボーデン・アームズホテルに立ち寄って聞き込みしてみた。
安い料金に比例して態度も投げやりなフロント係の老人は、夕べは何もなかったの一点張りだった。あまり思い出したくない僕の悲鳴も聞こえなかったらしい。嘘をついているようには見えなかった。大方、アルコールの海に溺れて眠りこけていたんだろう。知らないよ、と言い張る老人は酒臭かった。
これで事件を知る者は僕を除けばサラと強盗だけだ。幽霊は……ノーカウント。
サラが警察を呼んだなら、あのフロントのじいさんも聴取されるはず。だから警察も出動してないし、サラは事件に巻きこまれないよう逃げたということになる。
僕の身を案じてくれなかったのかな、と思うと少し悲しくなった。
次に僕が向かったのは新聞スタンドだ。アーカムの2大新聞「アーカム・アドヴァタイザー」と「アーカム・ガゼット」それぞれの本社からちょうど真ん中の位置にある情報の集まる場所だ。
「元気か。若いの」
新聞スタンドの主アーサー・ストラウトはアーカムでは有名人だ。
新聞休刊日を除いて1年中ここに陣取り、新しい情報とコミック、キャラメルなどを売っている。人懐っこく会話好きというのもあって、いつも商売はうまくいってるようだ。
アーカム暮らしはまだ浅い僕だが、アーサーの別の一面も知っている。スピークイージーのバーテンダーのロンから聞いたことがあるんだ。アーサーは『新聞に載らない裏の情報を警察やギャングに売っている』んだって。
スタンドの前に置いた丸椅子に腰掛け、道行く人に新聞の見出しを読み上げて購買意欲を煽っている根っからの商売人が裏では情報屋だなんて信じられない。
でも、それを僕に教えてくれたバーテンダーのロン自身がアイルランド系ギャングの一員で、アーサーを経由して警察と情報交換しているのだから本当のことなのだろう。
「やあ、アーサー。今日は面白いニュースはどっちに載ってる?」
「どっちにもだよ、若いの。だから両方買ってきな……と言いたいところだが稼ぎのない学生から金を搾り取るのはわしの望むところじゃねえ。今日は……ガゼットの方だな」
と言ってアーサーは束ねて積んであったガゼットを一部差し出した。
代金を渡して僕は昨夜の強盗事件についてアーサーのところに情報が入っているか探りを入れてみたが空振り。
「今日はガゼットの方がおもしれえ理由ってのはな、一面の記事ではねえのよ。ちょっと真ん中のページ開けてみろ」
大判の新聞を左右に開いて手繰る。両腕負傷中の身には意外な重労働。
アーサーが言ったページはアーカム近郊の地方のニュースで埋められていた。アイルスベリイ街道で逃げ出した牛と車が衝突しただの、イブスウィッチのある家で3回連続で双子が産まれただのというローカルそのもの―――当事者以外にはどうでもいい―――記事ばかり。
「ほれ、そこの下の小見出し」
アーサーは、僕が広げているページの裏の一部分をつついた。指の圧力でその部分のページがこちら側に盛り上がる。
『セイラムで謎の連続失踪?魔女の幽霊のしわざか?』
幽霊という単語は今僕が求めているものそのものだった。記事を読み込む。
アーカム近隣の町セイラムでここ1ヶ月に渡り毎週1人のペースで失踪事件が起きているという。失踪した人間は性別も職業も年齢もばらばらで、失踪する理由がないことだけが共通項というもの。記事の後半には、このセイラムがセイラム村だった17世紀の末頃に集団魔女裁判事件が起き、数十名の村人がろくな裁判も受けられずに絞首刑となった忌まわしい過去を持つこと、連続失踪事件と同時期にセイラムのあちこちで正体不明の黒マント姿の幽霊が目撃されていて、再び魔女が戻ってきたのではないかと、事件との関連を疑う一部の町民が騒いでいることが書かれていた。
黒マント姿の幽霊だって!
僕が昨日見たアレそのものじゃないか。隣町にいた幽霊がアーカムにも遠征してきた?
僕が真剣に考え込んでいるのを見て、アーサーは丸椅子から立ち上がって囁いた。
「わしのとっておきのネタなんだがサービスで教えてやろう。この魔女の幽霊ってのがよう、実はセイラムだけのもんじゃねえんだよ。こいつは、セイラムから離れたボストンやニューヨークにまで足のばしとるんだと。やばい事件の現場に構わずでるそうだ。もっとも『カウボーイの幽霊』とか『夜鷹の幽霊』とか呼ばれ方はさまざまだがの」
間違いないよ。あいつはこいつだ。新聞を持つ両手が少し震えてきた。
「カウボーイハットかぶっとるから『カウボーイハットの幽霊』ってのは馬鹿でも想像つく。じゃ、『夜鷹の幽霊』のネーミングの理由、わかるかの?」
「
僕はゆうべ実際に聞いたセリフを復唱した。
「なんだ知っとるのか、つまらん。そういやお前さんはニューヨークから越してきたん。知っててもおかしかねえ」
いや、ニューヨークではそんな話知りませんでした。アーカムの何十倍も広いんだし。
「まあ、この幽霊はわしの若い頃にアーカムにも現れとったんだから、この記者はわしに裏取りしてくれれば、もうちっと記事に厚みが出たろうにの」
「それ本当?」
情報屋はにやりと笑った。
「ここから先はお代をいただく情報だ。ただな、ありゃ幽霊なんかじゃねえよ。もっとおっそろしい何かだ」
僕は多少の金を払ってでもアーサーの話を聞きたかったが、もっと優先すべきことがあったので今は辞退した。
サラ・オズボーンのことだ。
彼女はゆうべの事件現場を立ち去って無事だったのだろうか。
強盗はまず間違いなく単独犯だったから、彼女が別の強盗にさらわれたということはないと思う。けど、僕は彼女の無事を確かめたかった。
サラの部屋は知らなかったが、勤めているオフィスは聞いていた。大学であらかじめ住所は調べておいた。上着のポケットから住所を書きつけたメモを取り出して辺りを探す。
ストリートから一歩入った路地に面したところがその住所だったが、そこは誰も住んでいない古ぼけた貸間長屋だった。
カギがかかっている無人の長屋に不法侵入するのはさすがにどうかと、僕は長屋の隣にある日用品の店の主人に声をかけた。こういったところの大家は2、3軒隣に家を構えているものだ。
運が良いことに日用品屋の主人は
そして、貸間長屋には慈善団体のオフィスが置かれたことは一度も無いこと、サラ・オズボーンという女性のことを全く知らないことがわかった。日用品屋の主人は嘘をつくような人物には思えなかった。
少し世慣れた大人だったらよくある話さ、で済ませてしまえる。
僕はまだ世慣れた大人ではなかった。
街中を走ってサラを探そうとするほど子供でもなかった。
中途半端確定の僕はスピークイージーに重い足を向けることになった。当然、通行の許可を出すギャスとドア窓越しに向き合うわけだ。
「前にお帰りいただいた日からそう
入店を断られたのは3週間前。中途半端な学生のままだが今の僕には酒が必要だ。
「
ギャスの目に突き入れるような勢いでドア窓に10ドルを差し込んでやった。ほら、チップを受け取れよ。
ギャスの目がこの侮辱に怒気をはらんだ。しかし、10ドルの魅力は捨て難く、そして、やけっぱちの僕の目が『お前のパンチは怖くない』と訴えていたので、かろうじて怒りを鎮められたようだ。重たいドアが
スゥッと開かれた。
「いらっしゃい」
薄暗い店内で暇そうにしていた店主兼バーテンダーのロンが挨拶してきた。
僕はカウンターに座り、上等のウイスキーを注文した。
ボストンのギャングがアーカムの酒の流通を支配する為に派遣したバーテンダーは、手際よくグラスに酒を注ぎ、僕の前に置いた。
一気に干す。喉を通り抜ける熱。僕は実はそれほど酒は強くない。飲むのは好きだが。
「おかわりを?」
僕が答える前にロンは瓶を傾けた。
カウンターに両肘をつき、顔を両掌で覆う。酒の熱さが胃で滞留する。
「サラ……」
今夜もアメリカの多くのスピークイージーで、恋に破れた男が未練まじりに、消えた女の名前を呼ぶだろう。その情けない男アーカム代表は間違いなく僕だ。
サラと会ってから3回の夜の出来事を思い返す。あの時間はまだ僕にとって輝かしいものであったが、早くも悲しく変色し始めていた。
サラが僕に嘘をついていたのは何か事情があるのかもしれない。
女というものは、知り合って間もない年下の男に真実を語るほど簡単な回路を持ってないのかもしれない。
僕はその後もサラの言ってたことを思い返していた。
セイラム……。そうだ!
彼女は、
明日が日曜日だ。日曜日はバスが運休するから、今日中にセイラムに行く必要がある。
「危険だ」
ん?いささか酔った頭にその声は矢のように貫通した。僕に言ったのか。
左2つ空けた席に座っていた男が少しこちらに顔を向けていた。
男はインディアン、のようだった。
店内の薄闇に溶け込むような曖昧模糊とした色味の肌は浅黒いのか赤銅色なのか白いのかよくわからない。くっきりとした鼻梁はインディアン特有の鷲鼻でもない。
西部の強い砂塵によって削られたワイルドな風貌、東部の都市部で組み上げられたような知性、そして夜の如き物静かな態度。
インディアンと思ったが、純粋なインディアンではない。純粋なヨーロッパ人の末裔でないことは確かだが、僕は不思議な印象を受けた。この人はアメリカ人だと。
僕もロンもギャスも渡ってきた先祖の地は違えどアメリカ人だ。アメリカ合衆国を形成する国民としてのアメリカ人。
目の前の男は、真の意味でのアメリカ人だと思えた。このアメリカという大陸の様々なエッセンスが凝縮したのがこの男なのだと。
そう、僕自身なんでこのようなことを思ったのかわからないが、彼を僕らと似て非なるアメリカそのものだと思ったのは素直な印象だった。
「セイラムに行くのはやめておけ。いいことは何も起きない」
なぜセイラムのことを?
つい独り言で漏らしたか。いいことは何も起きないって、この人は一体何を言ってるんだ。
男は両手で包み込むように持っていたグラスを静かにカウンターに置いた。
僕は酔っていたかもしれない。僕の行動を戒める男の助言に、かえって反発心が芽生えて立ち上がった。
「あなたはなんだ。他人の独り言に口をはさまないでくれないか。放っといてくれよ」
5ドルをカウンターに置くと出口に向かった。こんなおかしな警告に耳を傾けている暇はない。セイラム行きのバスに乗らなくては。
男はそれ以上何も声をかけてこなかった。
出入口のドアの横に置いた椅子に腰かけていた門番のギャスがドアのかんぬきを外してロックを解いた。
ドアを憤然と開けて外に飛び出る際にギャスに言った。
「ギャス、あんたは僕を入店させるのに10ドルとったわけだけど、あのインディアンからはいくらぼったくったんだい」
ギャスは大学生が出て行った後にかんぬきを入れ直した。
次にこの天国に入りたいとやって来る客を値踏みするため、愛用の椅子にどっかりと座って待つのだ。
「あのガキ、インディアンだと。どこにそんなのがいるってんでえ」
自分が今日このドアを通した客はあの大学生ただ1人だ。もうすぐ仕事を終えた勤め人達が押し寄せる。それまでは休憩時間だ。
ふと相棒の方を眺めると、カウンターの向こうでロンはひたすら首をかしげている。
「どうしたんだ」
ロンは油で固めた口髭に指をやりながら答えた。
「客は今の若いの1人だったはずなんだが・・・・」
先ほどまでウイスキーをあおっていた大学生の左2つ飛んだカウンター席には、今の今まで誰かが飲んでいたとしか思えないグラスが静かに置かれていた。
カラン
溶けた氷がグラスの中で転がる音だけが夕方のスピークイージーに響いた。
セイラムに実家があり、日曜日は実家で過ごすというサラ・オズボーンの言葉をたよりに、僕はセイラムを通る19時30分初の最終バスに乗った。乗車賃35セント。
窓外に流れる闇を眺めながら、何とはなしにスピークイージーで出会った不思議な男のことを思い返していた。
危険だ
セイラムに行くのはやめておけ。いいことは何も起きない
彼の予言めいた忠告は真摯に受け取るべきだったのだろうか。僕のこと、サラとのことをよく知ったうえで言っていたように感じたのはどうしてだろう。サラに関する唯一の手がかりにすがりたかった僕は酒の勢いもあって彼に反発するように酒場を出て行ってしまったけれど冷静に真意を聞いてみるべきだったろうか。
セイラムといえば、よく聞くのは17世紀末の大規模な魔女裁判だ。少女達の降霊会遊びが悪魔憑きだと噂が広まり、密告合戦と集団ヒステリーによって収拾のつかない魔女裁判に発展。その結果、200人もの住民が魔女と決めつけられて20人以上が死んだという、アメリカの暗部とも言える事件。その一件でこの町は長らく中傷にさらされてきた。
その事件と何か関係があるわけないな。もう200年以上前のことだ。
今となってはどうしようもない。僕は最終バスに乗ってしまったのだから。
そうしているうちにセイラムの停留所に着いた。降りたのは僕だけ。すぐ近くのダイナーで夕食を済ませ、安宿に部屋をとった。この町の夜は早く、今夜は人探しは出来ないことは明白だった。全ては明日だ。
僕は早めに起床し、宿の主人にサラ・オズボーンまたはオズボーン家の場所を知らないかと尋ねたがわからなかった。
アーカム同様、この町のほとんどの商店及び施設は日曜日の営業をしていない。
当然、行政機関で記録を調べてもらうこともできない。僕は町の教会に向かった。牧師なら日曜の来客を無碍にはしまいと踏んでのことだった。
実直そうなフェルトン牧師は僕の問いに怪訝な顔をした。
「オズボーン、サラ・オズボーンですとおっしゃったのですか?」
「ご存じですか、彼女を」
「この町でサラ・オズボーンと言ったら、あの魔女裁判事件で処刑されたサラ・オズボーンのことです」
「牧師様、僕は200年も前の話をしているのではありません。現在の話をしているのですよ」
「・・・・この町に住む人間で、あの事件で最初に絞首刑になった魔女の名前をつけるような者はいません」
フェルトン牧師はあの悪名高い魔女裁判事件が、当時の町の牧師の娘とその従妹の交霊会で従妹が悪魔にとり憑かれたような奇怪な行動をとったことから始まり、牧師が町の3人の女性を魔女と断定したことを話した。民衆に広がった魔女に対する不安と恐怖から暴動が起きかけた結果、ろくな審査もされずに絞首刑に処せられたことも。
「その3人のうちのひとりがサラ・オズボーンです」
馬鹿馬鹿しい、これが僕の感想だった。この非進歩的な牧師は20世紀になっても17世紀の悪夢に縛られているだけだ。名前の一致がどうだというのだ。
僕は牧師への失望をなるべく表面に出さないように注意しながら辞去することにした。
「あなたのために祈りましょう。フルネームをお聞きしておりませんでしたな」
僕の名乗りに対し、牧師はひどく動揺したように見えた。
これ以上ここにいても時間の無駄に思えたので、僕は気つかなかった体をよそおって教会を後にした。
これからどう行動するのがいいか。一軒一軒民家のドアをノックして聞き込むにはこの町は大きすぎる。
なるべく時間を空費しない探索方法を考えていたが、その答えを導き出す前に、僕の意識は闇に吸い込まれた。
(続く)
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