第21話 キングスポートに霧は煙る(6)
「出迎えご苦労」
ガラスの破砕音、投げ込まれた石板に書かれた忌まわしい文章、割れ口から部屋を覗き込むフード姿の脅迫者。
パワード・ラヴクラッシュ氏は恐怖を惹起させるそれらの圧をものともせず一言で片づけた。
スナップした青年の手から
応接テーブル上のそれをいつ手にとったのか、いちいち問うまい。
それよりも、狙い通りに顔面とおぼしき場所に命中、いや突き立つ勢いの不意打ちをノーダメージでやり過ごしたフード姿に驚くべきか。
青年は視界の隅で動いた変化に注意を向けた。
石板の上で長虫がごとく文字がのたうち、何かを示そうとしている。
そちらへの好奇が追撃の意志にやや勝った。
『町がお前の敵対者となる』
新たな警句も彼の鋼鉄の意志を揺るがすには至らない。
このくらいの脅し、永き生で数え切れぬくらい受けてきた。もう飽きがきている。
『お前はすぐにそれを知る』
ラヴクラッシュは奇妙な石板自体から興味をなくした。
窓辺に目を戻すと、シップ・ストリートを悠々と遠ざかっていくフード付き外套の背中。
霧の中、馬の鞍上に揺られている。舗装された道路を蹴る蹄の音が聞こえないのが奇妙ではあった。
その代わりなのか、濃く淡くたゆたう霧の切れ目を通り抜けて、横笛―――フルートに似た音が窓辺に届く。
「馬に乗ったくらいで凶つ鳥の爪から逃れられると―――なんだ、この音は」
石板にまたも変化があり、
『すぐに知る』
の文字だけが残った。正しかった。
キャヒャーッ
ラヴクラッシュは背後から動きを封じられた。
驚嘆の一言に尽きる。対邪神格闘技バリツのマスターである彼が背後をとられたのだ。
(続く)
当初の想定を超えてキングスポート編は仮面の夜鷹の重要エピソードに化けつつあります。
今後の展開は作者の頭の中でどんどんできあがっており、考える都度面白くなっていってます。
次回は字数増しです。
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