今と彼女といちごみるく
俺と彼女の間には赤い沈黙が流れた。
彼女は泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、それとも俺と同じ気持ちなのか、顔を赤くして下を向いた。
「どちら...様ですか?」
おそるおそる聞いてくる彼女に俺はおどおどと答えた。彼女は俺の目を見ることはなく、研究室にある砂時計の埃を拭いていた。
「あっ...あの、なんかタイムマシーンに興味があって。」
彼女はえ、と小さく声を出してから俺の目を見た。砂時計を机に置くと、少し俺に近づいてきた。
「学生さん、かしら。」
「今年高2です。」
「高2か...若いな。」
長い髪の毛を耳にかけると、また笑ってきた。
一見すごく大人っぽい女性なのに、仕草の一つ一つ可愛らしかった。
やはり知らない男の人に教えられてよりもタイムマシーンに興味があると言った方が好感度が上がるかもしれないという俺の予想は的中したみたいだった。
「私はタイムマシーンを研究している清宮夢子と申します。名刺がたしか...なくしちゃった。」
「ああ、大丈夫です。俺は
小さい声で俺の名前を繰り返すと、キラキラした目でまたこちらを見た。
「タイムマシーン、乗ってみたいですか?」
「あ、はい!未来とか行ってみたいです。」
そうなんだ、と小さく頷くと、何かに気づいたように何処かへ走っていった。
ガサガサという音とパリンという音がして心配になったけど、何処に行ったか分からなかったのでそのまま待っていた。
「お客さん、久しぶりだったから...。
水がなくて、いちごみるくしかないけど大丈夫ですか?」
俺の手に持たれたビニール袋をちょっぴり隠してから有りがたく頂いた。
「そこの椅子に座ってください。」
俺が座ると彼女はにっこりと笑って、机の上を椅子のように座った。
「残念ながら私が作っているのは過去に戻るタイムマシーンなですよね。」
「どうして未来じゃなくて過去なんですか?」
「過去に...過去に戻ってどうしても会いたい人がいるの。約束したんです、会おうって。」
いちごみるくを一口飲むと、少し苦く感じた。彼女の表情は笑っていたけど目が悲しんでいた。
「あ....少し思い出しちゃってね、その人のこと。」
「好きな人、とかですか?」
彼女は軽く頷くと、俺の後ろの方をみた。そこには時計の下に男の人の写真が飾られていた。多分、その彼なのだろう。
「話、聞きましょうか?俺、聞くの好きなんで。」
彼女の目を見れなかった。俺はどちらかというと話す方だし、好きになりそうな人の好きな人の話なんてただの自分からの失恋行為だ。
でも、彼女の悲しそうな顔を見たくなかった。
「このいちごみるくも...彼が好きだったの。」
お言葉に甘えてと喋りだす彼女の表情は、少し明るかった。
懐かしかった。10分前に出会った彼女は。
チクタクと時計の針は動く。
彼女の中の時計は過去へと戻っていく。
遡ること彼女が、高校生だった時のこと。
彼女の初恋は時計回りには進まない @junjunhi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女の初恋は時計回りには進まないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます