彼女の初恋は時計回りには進まない

@junjunhi

今と出会いとラーメンと

ラーメンは3分で出来上がるのに、なんで俺は3分で何も出来ないか疑問だった。


俺の人生は3分達が集まって出来ているから、俺は今まで何も成し遂げていないということになる。


そういえば俺は高1の終業式を終えてからすぐに、コンビニと家を行き来する生活を送っていた。高1から高2に上がる春休みだったから特に宿題もなかったし、強いていえば親の小言を聞くことだけだった。でも、親は共働きだったからいつも居なかったし、俺は本当に自由だった。


こうやって俺の時間は過ぎていく。

未来を決めていく選択は増えていって、その場しのぎが出来なくなっていく。


理系ㆍ文系の手紙がカバンの中にあることを知りながらー0点の小テストと共にー俺は今日もコンビニに走る。7時23分。まだ深い夜とは言えない夜。






ラーメンとヨーグルトとそれからいちごみるく。

いつものメニューをかごにいれてからレジへと向かう。やっぱり立ち読みしようか、と白いシャツの男の人の隣に立つ。漫画の最新刊がたまたまあって手に取るが、読めないようになっていたので諦めてレジへと向かう。店員にかごを差し出すと、ピッピッとした。新しいアルバイトなのか手つきが遅い。合計427円です。言わずとも俺はもう知っている。丁度を出してから、コンビニを後にする。財布は空っぽだ。母さんからお金を貰うのを忘れたからだ。


「ありがとうございました。」


自動ドアがしまっていくと同時に店員の声が響く。外を見上げると雨がぽつぽつと降っていた。

傘を買うにもお金がないし、そんなにも降っていなかったからそのまま走る。


春、といってもまだ3月。雨が肌寒い。雨のせいで前がうまく見えなかった。


「おい.....!」


さっきの雑誌の隣の人だろうか?うっすらと見える白いシャツがそう想像させた。


「それ、ハリーが犯人だよ。...君が手に取ってた漫画の結末。」


うん?と俺は驚きを隠せなかった。ハリーはその漫画を進行する存在で犯人というよりかは観察者だったのに...?第一、この人がなんで結末を俺にいうか分からなかった。


「俺がなんでそれを知ってるかは、あそこにいったら分かるから。ほら..ここ!」



彼はポケットからレシートを取り出すと、俺に地図を書いて見せてくれた。左利きだったのが印象的だった。


「今すぐいって。」


「え?」


「お前の未来が変わるから。」


まっすぐな瞳は雨の中でもちゃんと見えた。

未来、という言葉に敏感だった俺は思わず手に取ってしまった。分からない。本当に分からない。


ありがとうございます、と濡れていくレシートを片手にバス停の方向へと走っていった。

分からない、今、何故俺がはしっているのか。

こんな売れない小説みたいな出来事があってもいいのか。


でも、一つ分かることがある。


「タイムマシーンってなんだろ...!」


レシートに書いてあったタイムマシーンの文字が心を踊らせた。

人生のいろんな3分の中で知らない男の人と会話した今の3分が一番いや初めて、自分が動いた気がした。


タイムマシーンにドキドキしたのかは分からない。むしろ身体が勝手に動いたと言っても過言ではない気がする。俺自身もびっくりしている。

すぐに来たバスに乗って、目的地まで行ってみる。両親の夜勤朝帰り予定のメールを受信すると同時に圏外になる。


バス停を降りてから言われた通りに路地へと入っていく。ドキドキがもっとドキドキなって俺の身体を揺らして震わした。小学校の時の肝試しをしている気分だった。


細長い医師に彫られたタイムマシーン科学研究所の字に、俺は目を大きくさせるしか、口を開けるしか、なかった。


人影もない静かなところだった。植物たちの呼吸が聞こえて来そうな建物の中にはいる。


レシートに書いてある通り廊下を右側に大股で100歩ほどいくと、大きな扉があった。人気を感じなかったので少しずつ開けてみる。


「....誰?」


履き馴れたようなスリッパに黒いスキニー。薄いピンクのセーターの上には科学者と言うまでもない白衣がかかっていた。少しずつ顔を見る。


綺麗な女の人だった。


頭を打たれたような気分だった。


時計の音が響く。俺の心臓の音はもっともっと早く響く。俺の身体を張っていたドキドキはこの女の人を出会うための準備だったのかもしれない。


「泣かないで、ください。」


思わず発してしまった一言に、女の人は目を大きく開けた。

小さい顔に長い黒い髪、ぱっちりとした目に長く太いまつげ、そしてそこから流れ出ていたいくつもの涙。










これが夢子さんと俺の出会いだった。


チクタク、という時計の音を聞くと、あの時の感情を思い出す。


緊張、という言葉で誤魔化せるような心臓の音。









あれは確かに恋だった。

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