第8話


日曜日の朝。



一人で出かける。



今日の外出は前もって決めていた決定事項。




屋上へ上がれるビルを下調べをして見つけており、


プリントアウトした地図を手に歩みを進める。



錆び付いた扉を押し開け、劣化し脆そうな柵を乗り越えて


空気を胸いっぱいに吸い込む。



行き交う車や人々をまるでコマ送りの映像のように眺める。


風や音を全身に受けながら、鼻歌をうたう。







そしてこんな世界だったのか、と一人ごちる。




ここでお金をばらまくとか、写真をばらまくとか、紙飛行機を飛ばすとか、


そういうことをする気は全く起こらず、ただ穏やかに、何もせずにいる。



この世の終わりのように、オレンジとも赤とも取れる太陽が沈んでゆく。



もの凄い目映い光が辺りに満ち満ちて、


わたしの居場所を奪うかのように色が染め上げてゆく。





もう終わりにしようと思った。



ぐちゃぐちゃになってしまったものを自分が元に戻せるかもと思うのは、


とんだ思い上がりだった。



ぐちゃぐちゃになった少女は建物の下で贓物が飛び散って粉々になっている。



もう、元に戻ることはない。



手元には羽をもいだインコ。



これで、もう飛ぶことは出来ない。



羽がない鳥はただのゴミ、そんなことを言っていた小説の中の登場人物を思い浮かべる。






動かなくなってしまった生きものはただのゴミ。



もうこのインコは動かない。



いつの間にか、鳥籠の中で冷たくなっていた。



餌も糞の処理もいつもやっていたはずなのに、


わたしが寝ている間に全てが変わってしまっていた。




バイバイ。




両手を上にあげて最期に見た空は、見下ろせる空だった。



インコの羽が舞って、それはまるで一つの絵画のようだった。




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人知れず消えてゆく サタケモト @mottostk

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