第22話 衝撃の事実

    ◆


「……何だ、これは」


 言葉を失う韋宇。

 その気持ちは十分に分かった。

 今までで一番長い文章であり、今までで一番、衝撃的なことが書いてあった。

 ゴミを喰う、でも衝撃的だったのだが、そんなことは飛んでしまった。

 人を喰う。

 カニバリズム。

 小説や空想、中学生のノートにしか書いていないこと。

 それが現実に起こっているなんて。


「ありえない……」


 美玖がそう言葉を漏らす。


「ああ、本当にな。まさか人を食うなんて――」

「違う」


 否定の言葉を口にして、美玖は僕を見る。


「いや、それもありえないんだけどさ……でも、ちょっと最後の所が引っ掛かってさ」

「最後の所?」

「ほら、ここだよ」


 そう言って指し示した場所は、『明後日辺り』という所。


「ということは、雪乃は今、外出しているってことだろ?」

「ああ、そういえば」


 外に出る、ということが記入されている。そして彼女はここにいない。ということは当然、彼女は今、外出しているということだ。


「それならさ、今から雪乃の家に行こう」

「それがさ……そうはいかないんだよ」

「どうしてさ?」

「さっき、使用人の人に連絡した。そしたら、そんな連絡は入っていないってさ」


 そうやって携帯電話を指し示す美玖。通じるのか、と慌てて自分のものを見ると、何故か、電波が三本立っていた。


「内容を読んでいる間に、電話していたのか……」

「まあ、メールだね」

「どっちでもいいが、それは確定情報なのか?」

「うーん、と……」


 歯切れの悪い言い方の美玖。


「どうしたんだ?」

「なんかさ、使用人のみんなは、明日から全員暇をもらったんだってさ。その準備中だったから、正確には全員に訊くことはまで出来ていないんだってさ」

「じゃあ、今すぐ行けば……」

「だから言っているでしょ。みんな忙しいんだって。行った所でどうも出来ないでしょうが。それに、全員に訊くように頼んでおいたからさ。分かったらメールで……っと、言った傍から」


 美玖の携帯が震える。


「早速、ご報告だ。誰も雪乃から連絡は入っていない。父、母、姉も含めて、だそうだ」

「じゃあ、それなら雪乃はどこに――」

「オネエチャン」


 少年が、僕の服を引っ張る。


「オネエチャン」

「……あのね。僕は男だからオネエチャンじゃなくて……」

「オネエチャン」


 少年は呼称を変えてくれなかった。


「……まあ、いいや。どうしたの?」

「オネエチャン」


 少年はまず、美玖の持っている雪乃の写真を指す。そしてその指先をゆっくりと移し、


「そこ」

「そこ?」


 指差した先を見る。

 そこにあったのは、少し盛り上がった地面。

 それを見た瞬間、僕の脳裏にある一つのことが思い浮かんだ。

 埋め立てられた地面。

 盛り上がる。

 そこを『オネエチャン、そこ』と指差す少年。

 そこにいる、オネエチャン。

 雪乃。

 そう。

 それはまるで――


「オネエチャン」


 少年は盛り上がった地面の横まで、歩き、そして、


「シンダ」


 はっきりとそう言った。

 死んだ。

 他の言葉は曖昧なのに、それだけは、はっきりと言った。

 それは、告げていた。

 事実を。



 

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