第15話 異様な光景

 夢を見ているのかと思った。

 それほど、あまりにもありえない、目の前の状況。


 八人――と、言っていいのだろうか?

 そう迷うのは、あまりにも目の前に立つ者の容貌が、普通の人のそれとは異様だったからだ。


 


 


 


 


 



 そこにいる者全てが――普通の人とは何かが違っていた。



 世の中にはそういう人もいるだろう。

 生まれもっての、もしくはその後の何らかの出来事によって、そういう障害を持ってしまった人もいるだろう。だから目の前にいるのは――人間である。

 そんなことは判っていた。

 なのに僕は――こう口走ってしまっていた。


「ば……化物……」


 小学校でも中学校でも道徳の授業、障害者に対して偏見を持たないようにと学校の先生に言われ続けた。その時は、そんなひどいことをするものかと思っていた。だが、実際に目の前にしてみると、僕は――そんなひどいことをしてしまっていた。

 他の二人も、反応は似たようなものだった。美玖は眼を見開いて口元に手を当て、韋宇はじりじりと後退りを始めていた。


 ――その時。

 そこで目の前のモノは、僕らに向かって歩き出してきた。


 思わず、逃げ出しそうになった。

 だが、僕は逃げなかった。


 逃げられなかったのではない。

 逃げなかった。


 それは、先程の発言を後悔しての行動だった。

 これは贖罪だと思った。


 でも冷静に考えればそんなことで贖罪にはならないし、何の意味のない行動だということが判っただろう。でも僕はその時、頭の中で色々考え過ぎて、混乱していた。


 しかし――唐突だった。

 カメラがズームアップするように、僕は、目の前のモノの手元に視線が吸い込まれていった。


 あれは……本、か?


 目の前のモノの一人――僕が思う中で最も通常の人の形に近いモノの手元には、何やらノートのような薄く四角い物があった。

 そう観察している内に、僕は頭の中から全てが吹き飛んだかのように、一気に冷静さを取り戻していった。

 だから気がついた。

 目の前にいるモノ――いや、『人』は、僕達にその本を見せようとしているのだ、ということに。


「……それ、何?」


 僕は彼――恐らく男性であろう――に話し掛けた。韋宇に「ば、馬鹿。何をしているんだよ……」と耳打ちをされるが、構わずにもう一度問い掛ける。


「ねえ、持っているものは、何?」

「…………」


 目の前の少年は、答えない。前進を止めない。

 それでも、僕は続ける。


「君達は、僕達に何か用があるんだよね?」

「…………」

「それは君の手にある、その本のことだよね?」

「…………」

「それを僕達に、見せたいのかな?」

「…………」


 駄目、か。

 僕の言葉に反応はしているようだが、目の前に近付いて来るまで言葉一つ返さなかった。もしかすると……いや、もしかしなくても、手に持っている本は関係なかったらしい。



 ――そう思った、直後だった。



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