第12話 手掛かり
「……さすがに、まずくないか?」
予想外の事態に、部室内の空気はとても重かった。
「ああ。こんなに長く失踪するとは、まさか思わなかったよ」
「それは僕もだよ、韋宇」
一つ、溜息をつく。そして、部屋の真ん中で難しい顔をしている彼女を見る。
「……」
美玖は腕を組んで、眠っているように一言も発さずに、もう三〇分も椅子に腰掛けたままでいた。そんな美玖の様子をただ見ることしか出来ない僕は、韋宇に話を振った。
「なぁ、雪乃の消息とか噂とか、お前は何か手に入れたか?」
「いや、何もない。入ってくるのは噂程度のものしかないよ。しかも、どれも雪乃には関係ないと思われるものばっかり」
韋宇はそう言って僕に紙の束を投げつける。
「ほら見てみろ。こんなに情報はあるのに、雪乃という文字は一つも出てきやしない」
僕は黙ってそれを見る。パラパラとめくるが、どれもこれも都市伝説に近いものばかりだった。
「……あれ?」
ふと、あるページで手を止める。
そこに書いてあったのは、ゴミの処分場に、何やら人間に形状が近い奇妙な生物がいるというものだった。
「あ? どうしたんだ?」
「あ、いや……何故だかは判らないけど、これが気になって」
「どれどれ……は? なんじゃこりゃ?」
韋宇は素っ頓狂な声を上げた。
「ゴミ処理場に珍獣がいるっていう、こんな誰も信じない噂のどこが気になるんだ?」
「僕に訊くなよ。何故だか判らないって言っただろ」
「……ちょっと見せて」
美玖はそう言って資料を韋宇の手から奪い取ると、じっとそれを数秒間食い入るように見る。
「……これだ。この情報は、結構有力かもしれない」
「え? 何で?」
僕の疑問の声に、美玖は「いいか」と資料を叩く。
「ゴミ処理場から想像できる単語がある。それは昔のゴミ処理場だった――『夢の島』だ」
「あ……」
「夢の島ってのは、雪乃が自分を例えた時に言った所なんだ。『東京という華やかな街から離れた汚れた場所……これが篝家での私なんですよ』って」
そういえば、雪乃の家を出る時も似たようなことを言っていたな。
「だからちょっと気になって見たら……」
美玖は資料の右上を指す。
「ここに噂が発生した日付書いてある。それ、雪乃の失踪から二日後じゃないか。これは何らかの関係があると考えられるだろ?」
「……」
正直、ただの偶然……いや二日後って所から、ただのこじつけじゃないのかと思った。だが、僕は敢えてそれを口には出さずに「そうだな」と首を縦に振る。
「もうそこしか手掛かりのようなものはないからな。明日はちょうど休日だし、噂のゴミ処理場に行ってみるか」
「うん」
美玖は、さっきまでとはうってかわって明るい顔で、そう言った。
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