第6話 ただの名探偵
「時計村? ……あぁ、あれか」
時計村連続予告殺人事件。
漢字が一一文字も続くものものしい事件名だが、これは昨年、世間をかなり賑わせた事件だ。予告状が毎回村の中心部の小さい市役所に送られてきたのだが、長いスパンでの殺人で、かつ予告状の内容が暗号になっていて判らないということから、警察を大いに苦しめた。そして四枚目が送られた時に、警察はついにその予告状を一般へ公開することを決め、日本中に暗号の解読を求めた。
すると公開した直後に警察の電話が二台同時に鳴った。その電話は両方とも、真相を告げるものであり、それによって、時計村連続予告殺人事件は迷宮入りせず、無事に犯人が逮捕されて解決したのだった。
その後、マスコミはこぞって真相の究明者を探し求めた。当時『現代に舞い降りた二人の名探偵』と銘打たれたものだった。しかし、マスコミの調査によって判ったのは、一人は男性でもう一人は女性で未成年であるということくらいだった、二人は共にそのことを理由に、自身についての公表を避けたらしい。
この一連の流れが、世間を大いに賑わせたのだった。
「それで、その事件がどうしたの?」
「その事件を解決した一人が、私だ」
「へえ、すごいな、それは」
本当だったらな。
「ほ、褒めるなよ」
「よくあんなのが判ったな。素ですごいと思うぞ。お前のこと」
素でそんな本当のように言えるなんて。
「い、いやいやいやいやいやいやっ! あの事件つまらんしあんな暗号が解けない警察の方がおかしいっていうかあの村を征するものが世界を征するとかいう意味不明な動機だったしそんな褒められたりすごいとか言われる筋合いなんかこれっぽっちもアリの触角ほどもないよっ!」
かなりの早口でまくしたてる美玖。
よく息が続くなあと、冷静にそう感想を抱いた所で、あることを思い出した。
「美玖。一応確かめるが、お前は女性だよな」
「何を失礼なこと言ってんだ? あたしは全身全霊正真正銘女性だ」
「ってことは、お前の方が――『ただの名探偵』の方か」
「うっ……た、ただのって言うなっ!」
そう。実はあの事件にはさらに続く話があったのだ。
女性の方は暗号を解読しただけなのであったのだが、男性の方は、何と犯人まで当てたのだ。それ故に女性の方が『名探偵』、男性の方が『超・名探偵』と呼ばれることになった。……ひどくダサい呼称だが。
その、ただの名探偵(自称)は頬を膨らませる。
「だ、だってあの予告状の中に、まさか犯人を指し示すことがあったなんて、気が付かなかったんだよ……ってか、北海道って行ったことなかったし……」
「いやいや、言い訳しなくても、解けたことはすごいんだから」
「うう……」
美玖は困ったような顔をして、ゆっくりとそっぽを向いた。
この様子を見ているだけじゃ、とても嘘は言っているように見えない。
……まさか本当に、本物じゃないのか?
そう考えを改めようとしたところで、
「ま、まあ、そんなことよりゲームしようぜ」
短く息を吐くと、彼女はコントローラを掴む。
「オッケー」
そう頷きながら横目でツッコミをしあっている争っている二人を確認すると、息を切らして睨みあいながら唸り合っていた。
「そろそろ止めなくちゃ駄目か」
僕の左から軽く呆れたような微笑と、
「見つめ合っちゃってお熱いね、お二人さん」
その囃し立てる声で二人は静止する。
「え、いや、そんなわけじゃ……」
一方は頬を朱色に染め、
「そうですね。不毛な争いは止めましょう」
一方は冷静に言葉を返し、何事もなかったかのようにソファーへと戻ってくる。というか、僕の右に彼女は座ったので両手に花ならず、両サイドに美女という、傍から見たら羨ましい構図になった。あくまでそれは傍から見た話であり、実際は小さく身体を縮こまらせているので、非常に気まずい。しかも二人とも全然意識していないようだから困る。だからといって意識してもらっても困るので、結局はどう転んでも僕は困惑するだけなのだが。
そんな純情少年の葛藤はさて置いて。
テレビゲームやトランプなどの極めて健全な遊びをしている内に窓を見ると、すっかりと日が暮れてしまっていた。
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