第28話 思考

 電車が発車して美玖の姿が完全に見えなくなった後、僕は僕で帰路に――反対方向の電車に乗った。

 そして電車のつり革を掴みながら、思考を続ける。


 韋宇。

 彼は何故殺されたのか。


 しかもあんな猟奇的な殺され方を。

 切断するというのは相当労力を要する方法だ。目的が無くてはやりもしないだろう。思いつきでやるようなものではない。

 だからこそ、こう判断せざるを得ないだろう。

 韋宇は首を切られた。

 日土は両腕を切られた。

 この二つの事件は、繋がっている。

 犯人は同じと見て間違いないだろう。

 ならば犯人の目的は何だろうか。

 日土は煙突から落とした。

 韋宇は切った首を持たせて、曖昧になった首の部分に縄を括って吊らせた。

 特に韋宇の方の状況を創り出すにはかなり時間を掛けないと出来ない。わざわざそこまでする必要がどこにあったのだろうか。

 ……正直、分からない。

 まだ混乱しているということもあるだろうが、韋宇がそこまでされることに思い当たる所がない。

 動機面の話だ。

 どうして韋宇は死体がここまで損壊されなくてはいけないほどの恨みを買っているのだ。

 ……いや、そんなはずはない。

 では何故殺されたんだ。

 ……分からない。

 ――ということをループしている内に、あっという間に降車駅まで来てしまった。

 降車してからも僕は思考を続ける。

 幸か不幸か究雨は眠っているので、僕一人だけの思考が続く。


(……そういえば、究雨が出たのは今朝だったな。だから当たり前か。足の痛みがいつもよりないから忘れていたよ。まあ、事件には関係ないけど)


 横道から外れた所で、


(関係ない……あ)


 唐突に思考のループから抜け出した。

 関係ない。

 その一言が思考を先に進めた。

 何故韋宇が殺されたのか。

 原点に立ち戻り、日土と韋宇の共通項を探した。

 共通項は、一つ。

 笑美の婚約者に選ばれたこと。

 でも、それ以外の共通項が見当たらなかった。

 だけど、関係ない、という先の言葉から更にとある共通項を見つけ出した。

 笑美の婚約者という共通点。

 だが、韋宇は婚約者から辞退した。

 日土は暴言で婚約者からほど遠い候補になった。

 つまり、あの場にいた中で、婚約者となる人間からほど遠い人間が殺害されている。

 それが共通項だ。


「そういえば、結局婚約者は誰を選んだのだろうか?」


 日土の騒ぎですっかりとうやむやになってしまった事項だ。

 あの中での残り候補は、天野さんと森さんと左韻の三人。確か左韻も辞退していたはずだから、天野さんと森さんのどちらかだろう。


「……待てよ?」


 先の推論が正しければ、婚約者候補から外れた人間が狙われる、ということになる。

 そうなれば、次に狙われるのは――



「――動くな。振り向くな」

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