第26話 ごめん

 目の前の光景に、目を疑った。

 嘘だ。

 絶対に嘘だ。

 信じられない。

 これは夢だ。

 夢に違いない。

 色々ぐるぐると目の前が廻る。

 吐きそうになる。

 それは目の前が廻っていたから?

 ――違う。

 混乱する頭を無理やり正常に戻すべく、僕は歯を食いしばる。

 そして直視する。

 現実だ。

 紛れもない現実だった。


「……ごめん」


 思わず呟いていた、謝罪の言葉。

 それは隣にいた美玖にではない。

 部屋の中にいた、彼に向けての言葉。

 そう、いたのだ。

 そこにはいたのだ。

 だけど、僕は謝りたい。

 謝らなくてはいけない。


 日土が殺されたあの事件。

 周囲は韋宇が犯人だと決めつけていた。

 韋宇が日土を殺した。

 だから行方をくらませて、逃げた。

 僕はそんなことを微塵にも思わなかった。


 ――だけど。

 僕はこうも思わなかった。


 どうしても、思えなかった。

 思っていなかった。

 思い返せば思えるだろう。


 殺人事件が起こった。


 行方不明になった。


 一日、どこに行ったのか手がかりもなかった。



 だったら――こうなることは必然だ。



 でも、どこかで思っていたのだろう。

 あいつはいつも笑顔だった。

 だから、今回も飄々と、戻ってくると。

 危なかった、などと後で笑い話にすると。

 そんな奴だと思っていたから。

 だから――




「思っていなかったよ……お前が――




 そこにあったのは首を斬られた死体だった。


 更に異様なことにその死体は、首が無いのに吊られていた。どういうようにしてそう出来たかなどは分からない。

 だが、首から上が無いかといえば、そういう訳ではない、

 首から上はあった。


 


 目を閉じられていても、その顔は紛れもなく見覚えがあった。

 一部が赤く染まっていても、その金髪は紛れもなく見覚えがあった。




 轟韋宇。

 彼の死体が、そこにはあった。

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