第23話 嫌悪感

 早歩きでどんどん、韋宇の家から遠ざかっていく。

 それはもう、ものすごい早さだった。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 為すがまま手を引かれていた僕は、家が見えなくなった所で振りほどく。かなり強い力で引っ張られていたようで、少し痛みが走った。


「どうしたんだよ、美玖? まるであの場に居たくないかのようにあの場から離れて」

「……その通りだよ」


 低く、唸るような声で美玖は告げる。


「あたしはあの家から一刻も早く立ち去りたかった。具体的には韋宇の姉から、だ」

「韋宇の姉?」


 少し人見知りがありそうな人ではあったが至って普通の範囲で、そこまで嫌悪感を抱く程の印象は受けていない。


「ゴミ箱見ていないのか?」

「ゴミ箱?」

「……見ていないのならばそれでいい」


 美玖が口を閉ざす。どうやらこの様子では訊ねても答えてくれないだろう。

 ならば話を進めよう。


「なあ美玖。これからどうする?」

「どうする、って言われてもねえ……」


 困ったように美玖は唸る。


「何も手掛かりがないから、どうしようもないんだよね。刑事さんからのGPSの手掛かりがあればいいけど、それもあんま期待できないしね」

「呼び出された、って言うだけしかないからな」


 韋宇を呼び出した相手が何なのか。

 呼び出されて従うのは何故か。

 ……あ。


「美玖。あのゴミ処理場はどうだ?」


 ゴミ処理場。

 その地下にある空間。

 少し前、とある事件の際に発見された場所。


「ゴミ処理場? 何で?」

「韋宇が呼び出されたのは電話で、って言ってただろ? その後、どこか調べていた様子だった、って韋宇のお姉さんは言っていなかったってことは、どこか知っている場所に呼び出されたんだと思う。で、知っている場所で一目が付きそうにない場所と言えば……」

「それが、あのゴミ処理場ってことか?」


 ……あれ? 美玖の反応が悪い。


「呼び出す場所として良い気がするのは分かるが、そうなると……呼び出した相手が分からないわね」

「……やっぱりそうだよね」


 言っていて矛盾しているのは理解していた。

 あのゴミ処理場のことを正確に知っているのは僕と美玖と、今は遠くに行ってしまった『とある彼女』だけだった。

 その『とある彼女』が韋宇を呼び出すことはほぼ考えられない。

 呼び出すとしたら、美玖、そして僕の方が可能性が高いだろう。


「まあ、でも今は何も手がかりがないから、思いつく所に行ってみるのはありだろう。行ってみようか」


 よし、と手を打って美玖が前を向く。


 そうして僕達は、例のゴミ処理場へと向かった。

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