第20話 指名手配


    ◆



 やがてそれなりの時間が経過した頃。

 既に死体は回収され、ドラマなどで見る現場の状況が食堂の風景となっていた。

 その間に僕達は身体検査と事情聴取を終え、本館の一部屋に待機させられていた。勿論、身体検査では疑わしいようなモノは誰からも発見されなかったようだ。

 アリバイについてもそれぞれの聴取が終わったようだ。

 どうやら解散した後、僕と美玖以外は自室に戻ったようで、アリバイらしいアリバイはないようである。

 捜査が何も進んでいないように思えるが、しかし一つ進展があった。

それは、凶器が発見されたことだ。

 凶器は目戸のコテージにあった電気スタンドだった。それだけ見ると突発的な犯行に思える。

 だが、それは否定される。

 何故ならば、両腕を切り離した道具と思われるノコギリが見つかったからだ。無論、それはこの敷地内にあったものではなさそうだ。

 そのノコギリは、目戸のコテージ以外の場所で見つかった。

 その場所とは、韋宇のコテージだった。

 血まみれのノコギリが床に置かれていたらしい。

 指紋とか購入先とか調べているそうだが、無駄であろう。そのようなところから足が付くようなものではないと思われる。

 ――そして、もう一つ。

 美玖に言われて水車を捜索した所、奇妙なモノが見つかった。


 


 水車の回転部の根元に巻き付いていたらしい。

 確かに糸状のモノが巻き付いていたのだが、どうして美玖はこれが予想できたのか?


 そこから思考を辿った際、一つの結論に至った。


 それを美玖に伝えたら「正解」と言われた。

 言っておきながら信じられなかった。

 トリックは分かった。

 だが、犯人は分からなかった。

 何故ならば、この方法を使えば――誰でも目戸を煙突から落とすことが可能であるからである。


「そこなんだよね」


 美玖も苦い顔でそう頷く。


「誰が犯人か判らない以上、むやみやたらと推理を披露するべきではないとあたしは思うんだ。無用に疑われる可能性があるし」

「ん? どうして?」

「さっき正解って言ったけど、本当に合っているかは判らないんだよ、まだ」


 美玖の声がトーンダウンする。


「前の事件で、真実と違ったことがあったじゃない。あれが結構効いているのよ……」


 前の事件。

 篝製薬で起きた事件。

 KATIDが関わった、最初の事件。


「でも結局あれは――」

「うん。でも違うことも最初に疑って、犯人として言及してしまった。それは事実」

「……」


 確かにその通りだ。

 その後に真相を警察に告げたとはいえ、最初の推理は間違っていたことには間違いない。


「だから確信が持てるまでは、無暗に変なことを言って視野を狭めたくないし、狭めさせたくもないのよ」

「……分かった」


 ここはまだ警察の捜査に任せるべきであろう。

 と、相談している所で、飛鳥警部補が僕らの元に来た。


「どうだい? 犯人は分かったかい?」

「残念ながら、今の情報だけでは確定は出来ないです。もっと司法解剖結果とか、詳しい情報がないと」

「そうか。まだ警察としてもそこまで調べ切れていないからな。そこの情報もなるべく進展会ったら伝えるよ。警部にも許可は取ったし」

「お願いします」

「但し、当然の如く、一般人に情報を流していることについては他言無用で頼むよ」

「それは分かっていますよ」


 美玖が苦笑すると、飛鳥警部補はホッとした表情になる。


「では、とりあえずは自宅に戻りなさい。後で出頭要請が来るかもしれないから、その時は指示に従ってくれ」

「……え?」


 僕は疑問を口にする。


「この場に残る必要とかないんですか?」

「ああ。もう既に皆への取り調べは済んでいるし、君達は平気かもしれないが、気分が悪いから帰りたいと言っている人もいるから、今日の所はこれで」

「そうですか……」

「ま、今回の場合は凶器も見つかっているし、身体検査もしているわけだから、証拠処分とかする要素ないから出来るんだろうね」


 美玖が僕の肩を叩く。


「あと、まだ容疑者というカテゴリに分類できそうにないから、拘束力がないんでしょ?」

「……そういう裏事情は察してほしいね」


 苦笑いの飛鳥警部補。

 だが、すぐさま表情を深刻そうに引き締める。


「君達に伝えるべきことがある」

「何ですか?」


 すうと息を吸い、飛鳥警部補は伝える。



「警察は、轟韋宇氏を容疑者として捜索することを決定した」

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