'umikūmāhā、ウミクーマーハー。ハワイの言葉で10と4の意味。
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瑠夏の携帯に電話をかけたけれど出なかった。鍵を持たせていなかった私。「外にいるけど、五時に帰るね」とメールした。
カフェは三時でラストオーダーになり、夕方からのバルタイムの準備を始めていた。三時過ぎにカフェを出て慧くんの店に向かった。車内にはtupacのラップが流れている。曲のタイトルは知らない。ギャングスタ・ラップの、知っている数少ない曲の一つ。
休日の店内は水族館みたいな薄闇に包まれていた。各水槽で水草と魚たちがライティングに浮かび上がっている。カウンターの中に入り、奥のドアを開ける。そこはガレージ風のスペースだった。水草がコンクリートの床に並べられ、打ちっ放しの両サイドの壁際に大きな水槽が並んでいた。手前はキッチンになっていて棚には様々なものが並んでいた。向かい側の水槽は魚だけで水草やソイルは入っていない。ドア側には水草やソイルや流木がレイアウトされたアクアリウムが並び、ソファとサイドテーブルが置いてあった。水槽の中の熱帯魚は全てディスカス。赤がレッドシルクで黄に青いストライプがワイルドブルーだと慧くんが教えてくれた。成魚と幼魚で水槽が分けられている。慧くんは毎日、容量の二分の一ずつ水換えをしているらしい。思っていたよりたくさんのディスカスが泳いでいた。店内には二匹しかいなかった。
「何か手伝えるかな」
慧くんが冷蔵庫から大きな肉の塊を出してまな板に載せた。
「よく洗ってから血管と筋を取って、一口大に分けて」
「この肉なに?」
「牛の心臓。下に包丁が入ってる」
棚から大きなボウルを取って肉を洗った。切り分けてボウルに入れる。
「これを全部入れてよくすり潰して。肉は粗挽きにする」
ミンチ機の使い方を一通り聞いた。すり鉢で餌を潰し、挽き肉に混ぜた。それをボウルに三等分する。まず、一つのボウルにアスタキサンチンという粉を混ぜて今度は細かく挽いた。それをジップロックに詰めていく。その頃には水換えを終えた慧くんが肉を挽いた。一つはそのまま細かく挽いてジップロックに詰める。最後のボウルの肉を更に細かく挽いた慧くんが、ひとつまみの肉を持って行って幼魚に与えた。まだ色が薄い幼魚たちが勢い良く食い付いていた。三種類の肉を水槽ごとに与えて、残りのジップロックは冷凍保存した。どのディスカスも出来立ての餌に夢中になっていた。
幻想的なディスカスの空間に浮かび上がるデジタルが17:00になり、町のスピーカーから音楽が響いた。私は急いで瑠夏に電話をかけた。
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