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 庭のビオトープはヨーロピアンクローバーが繁殖して、水面より更に上でいくつもの葉を広げている。メダカの産卵のために入れていたホテイアオイが、見たこともないくらいに大きくなっていた。一枚の葉の大きさが十センチくらいある。Anuenueで買ったソイル、底砂は水草が根を張るのに最適だったらしく、ビオトープはジャングルのように繁ってメダカたちの姿を隠していた。

「よく育てたじゃん」

「ウケすぎだよ」

 慧くんは噴き出しながらビオトープを観察している。

「これベタに入れるか」

 店の定休日、慧くんがウォーターマッシュルームを持って家まで来てくれた。瑠夏は友達の家に遊びに行っている。ビオトープがジャングル状態なのを確認して、カイかラナ、どちらかの水槽に新しい水草を入れることにした。二匹の水槽に浮かんでいるアヌビアス・ナナ・ナローリーフは暗い照明でも育ち、成長も遅いらしい。カイの水槽の水草を空のメイソンジャーに移して、キッチンの窓際に置いた。因みにうちで育てているのはCO2を添付しなくても育つ水草ばかりだ。メダカの稚魚に使っていたプラスチックの容器に同じ水を入れてカイを移す。水草が良く映えるように、と慧くんが選んだ黒いソイルを水槽に敷き詰める。一株のウォーターマッシュルームをソイルに植え込む。

「こいつは三日経ってから戻してね。カイ、だっけ」

「分かった。ありがとう。……コーヒー飲む?」

「アッシュに行こーぜ」

 前に和希と行ったカフェはAnuenueと同じ商店会に入っているらしい。慧くんと二人でどこかに行くのは初めてだった。ピーターラビットが出て来そうな内装の店内でラテを飲んだ。慧くんのTシャツのグラフィックについて質問してみた。

「キャブレターだよ」

 今はコンピューター制御のインジェクションの方がメインだそうだ。詳しいことは分からなかったので「車が好きなの?」と訊いた。「バイクのキャブ。元バイク屋なんだ」

 確かに。そう言って隣に掛けている慧くんは、熱帯魚屋ではなくバイク屋と言われた方が頷けた。

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