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「ベタ買いに行こうかな」 

「ユイガがいるじゃん」

 朱里の家には唯我という名前の三毛猫がいる。

「大丈夫だよ。前も飼ってたし」

「ベタ飼ってたんだ、知らなかった」

「んー。アイと会う前ね」


 朝くんが迎えに来てからAnuenueに向かった。閉店三十分前。久し振りにここに来た気がする。今日も慧くんは一人で座っていた。


「すごい……」


 壁側の水槽に純白のベタが泳いでいた。

「真っ白ー!」

 漆黒のカイと正反対の、純白のベイルテール。長く垂れ下がる尾鰭が綺麗だった。他にも可愛いベタが何匹もいたけれど、朱里はその純白のベイルテールに決めた。

「猫がひっくり返すといけないから大きい水槽で飼うね」

 家の水槽より一回り大きい二十センチキューブの水槽を選んだ。

「んー。エアーは入れなくていいんだよね?」

「エアレーションは必要ないです。フィルターがあれば水質を保ちやすくて便利ですよ」

 接客仕様の慧くんが笑える。勧められたフィルターと水草とソイルを一緒に会計して、朱里の家のミニバンに運んだ。慧くんはベタの餌と、カルキ抜きのサンプルをくれた。水草はウォーターマッシュルームというとても可愛い草。「アイも欲しいんだろ」と慧くんに訊かれて頷いた。

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