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到着の知らせはなく、慧くんは直接インターフォンを鳴らした。
慧くんが来ると言うメッセージにすごく悩んだ。会いたい人だから会いたくない状況だったし、メイクもしていなかった。しかし飲み続けると悩みは消えていった。Anuenueまで歩いたり、メダカを選んで移す気力はない。時間が経ってから「来て」と返信した。慧くんが来る前にポイントメイクだけしようと思ったけれど、パジャマ代わりのTシャツとハーフパンツを着替えて気合を入れるのが気まずくて部屋着のままノーメイクで待っていた。
「車、前の道に停めといて大丈夫?」
「少しの間なら平気」
慧くんは白いTシャツとジーンズで、オールドスクールを玄関に脱いだ。スニーカーを揃える前にバケツと小さい網などを渡された。Tシャツの背には、車のエンジンルームの中にある何かの内燃機関のグラフィックがプリントされていた。
「あ! 魚屋さんだ!」
自分の部屋でTVを見ていた瑠夏が飛び出してきた。
「ケイくんだよ。熱帯魚屋さん、っていうの」
「何で来たの? 泊まってくの?」
魚を見たら帰るから早く寝るんだよ、と慧くんが瑠夏に応える。子供は苦手かと思っていた。前の夫みたいに。
慧くんがヒカリメダカの稚魚を分けてくれた。二台のガラスの水槽の一方には十ミリ前後の稚魚、もう一方には五ミリ前後の稚魚が泳いでいた。それぞれ大きさの違う餌を与える。私には、魚たちの餌やり、水換え、植物たちの水やりさえ苦痛だった。慧くんに打ち明けたかった。助けて欲しかった。でも、理解される自信がなかった。
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