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「何でカイの家には草を入れないの?」

 小躍りするカイから振り返り瑠夏るなが私に尋ねた。

「かわいい草を選びに行く?」

「行く!」

 カイを家に連れて来るときに聞いたこと。ベタは狭いところが好きで、あまり大き過ぎる水槽に入れると泳ぎ疲れてストレスになってしまう。水温は二十六度。六月に気温が下がる日があるのでそれまでにヒーターを用意したほうが良い。そして、植物はどんな魚にとっても致命的になるアンモニアを除去する働きがある……。らしい。


 瑠夏とAnuenueに向かった。瑠夏の足だと十五分かかる。小学校を越えて、また同じ位の距離を歩いた。瑠夏は店の外のピンポンパールや店内の海水魚などを、興奮して眺めていた。私はオーナーらしき人とベタの水槽に入れる水草を選んでいた。カイの水槽は白い底石が薄く敷かれ、瑠夏とビーチで拾ってきたシーグラスと小さい貝殻が入れてあった。水草が根を張り易いとは思えない。教えてもらって、浮かんでいても育つアヌビアス・ナナ・ナローリーフという水草を選んだ。湘くんのアクアリウムにも生えていた水草だ。たまに茎を伸ばし小さな水芭蕉のような花を付ける。なかなか帰ろうとしない瑠夏を説得して店を出た。

 家で待っているのは六匹の親のヒカリメダカと増え続ける稚魚、そしてカイ。きっと、カイは落ち着いて、水草の中で眠るだろう。

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