'ekol、エコル。ハワイの言葉で3の意味。

10

 何をしても悲しかった。

 ほとんどの日を海岸線を歩いて過ごした。ビーチから海岸沿いの国道一三四号線に戻ると片側一車線の車道に次々と現れて通り過ぎて行くシルバーや白の軽貨物自動車。湘くんが乗っているのはシルバーの軽バンだった。ずっと買い替えたいと言っていたから今は新車に乗っているのかもしれない。白い軽バンを見て、湘くんの車はシルバーだと自分にアドバイスする。ナンバープレートの色。メーカーのエンブレム。ライトの形。リアワイパーの有無。至近距離でナンバー。そして、ドライバー……。

 私は湘くんに会いたいのだろうか。運転している姿を見つければ嬉しいのだろうか。湘くんも私に気付き車を停める。私は助手席に乗る。本当にそうしたいのだろうか。分からない。ただ歩き海と車を眺めている。


 湘くんの軽バンと同じ車種、同じシルバーのドライバーは大体年代が高い人たちだった。そして揃いも揃って私の方を見ていた。ドライバーの顔を確認する前にナンバーが違うのを確認しているのだから、湘くんではないことは分かっているのに凝視してしまう。舗道があまりない海側を、男や犬や子供を連れずに一人で歩き続ける四十歳くらいの女は珍しいのだろうか。この道を歩いている人にはほとんど出くわさない。確か新居の近くに森の小道のようなルートや細い路地がいくつもあった。今度は車通りの少ない道を歩いてみよう。湘くんがあれから新車を買ったかもしれない、という妄想に付き合うのは疲れた。

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