iwakālua、イヴァカールア。ハワイの言葉で20の意味。
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定休日の午前中。朝の餌やりや水やりを終え、瑠夏を送り出してから、Anuenueに向かった。定休日以外は店に来て社員として仕事をしていた。今日は一週間振りにゆっくりと過ごせる。慧くんは二階でシャワーを浴びていた。私はガレージのソファで待っていた。もうすぐ十二時、まだ酔うには早いので赤ワインを少しずつ飲んでいた。慧くんは赤が好きだ。ちょうど十年寝かせていたワインを開けてくれた。十年前、というと十五年間一緒にいた彼女と飲もうと思っていたワインなのかもしれない。それでも関係なく美味しい。パルミジャーノがブレンドされた、ワインと良く合うチーズも置いてあった。たまたまグラスを置いた場所に微かな段差があった。グラスが傾いた。長方形のクロスの、灰皿の脇が少しだけ膨らんでいた。クロスを捲って、体が凍えた。背骨が、どこにあるかを知らせるように震えていた。慧くんが右手の薬指に嵌めていたリングが置いてあった。マイレ。絆を意味する、葉のモチーフと、
「泣いてるの?」慧くんの言葉で自分の涙に気付いた。勝手に出た割には頼りない声だった。
「何でこんなところに隠してたの? キョウコって……? 元カノ? ペアリングじゃないって言ったじゃん」
慧くんがいつもしていたリング。テーブルの上に剥き出しになったリングの内側には「KYOKO」という名前が彫られていた。慧くんを見るのが怖かった。訊いておきながら答えて欲しくなかった。
「黙ってて悪かった。言い訳できねえと思って言わなかったんだ。キョウコって女のリングとペアだった。……最後は、お互いイラついてばかりだった。何度も罵り合って責め合った。一人のときは自分を責めてた。口喧嘩とヒステリーじみた言動が続いて、高校生だった娘が何日も家を空けるようになった。俺は親父の家に寝泊まりするようになった。それから一度も戻らなかった。その頃はうつ状態が続いてたんだと思う。リングをしてねー両手が怖かった。外したのを女が責めてるみてーで……。それから惰性でしてた。してるってほとんど意識してなかった。女に気持ちは全くない。今はその女に、悪かったとさえ思ってない。この前外してから、どこに置いたのか忘れてた。持ってたことも忘れてたんだ。アイ。信じてくれよ」
慧くんは、悪かったと思ってるんだよ。言いたいのに涙が止まらない。「キョウコ」と呼んだ慧くんの声が、死ぬ程つらかった。言いたくないことがあったのも、誰かに悪かったと思い続けているのも、同じだった。そう伝えたくても悲しくて怖くて何も言えなかった。左手からリングを抜き取った。綺麗なグリーンゴールドのプルメリア。内側に……。Mau Loa KEI……
きっと
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