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 ファンデーションだけを塗った、パウダーを乗せる途中の訳の分からないメイクで病院に着いた。約束を反故したことを、電話で朱里に謝った。瑠夏と遊べなかった理沙ちゃんが、とても残念がっていた。


「そっかー。久し振りに聞いたぁ。ミノル? だった? 今はどうしてる、とか何も?」

「ショウくんと離婚してからだけど。酔ってて、ミノルの幼なじみに連絡しちゃったんだ……。ずい分前に『仕事を世話してほしい』みたいなやり取りがあったきりで、もう連絡取ってなかった。その時は『親父のところにいる』って言ってたらしいよ」

 何故か、瑠夏の父親のみのるのことは嫌いになれなかった。幼なじみに電話をした時は、まだ好きだったんだと思う。瑠夏と血の繋がった男だからかもしれない。違う。私は悪いと思っている。罵倒したこと。娘を取り上げたこと。被害届を出したこと。それを取り下げなかったこと。他の人を愛したこと……。瑠夏から父親を取り上げたことを。

「『ライバルがいるとしたら多分そいつだから』ってケイくんがさ。まさか、って言ったけど。全然そんな気ないのに」

「ミノルとは長かったしね。はっきり『大嫌い』って聞かないと心配なんじゃない?」

「だったらケイくんと元カノの方が長いよ。めちゃくちゃ心配じゃん? でもあたし元カノのことなんか聞きたくないな」

「ケイくん。呼べない?」

 長かった夏休みも残り一週間。朱里ファミリーとカラオケに向かっている車内。朝くんが運転している。飲み始めて気が大きくなっていて、さっそく慧くんにLINEした。朱里が言う。

「ケイくん? も、さーあ、アイみたいに吐き出したい毒があって、聞いてほしーって思ってるかもじゃん? アイだけ怖がって逃げてたらかわいそうじゃない?」

「そーだね……」

 朱里の言う通りだ。


 葉山にカラオケボックス、というものはない。他にも、DVD、CDのレンタルショップや、モス、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、ミスタードーナツ、焼き肉チェーン店、ホームセンター、携帯ショップ、鉄道の駅すらない。そのかわり綺麗な海と山があるんだけれど。

 朝くんは横浜横須賀道路に乗って、大船までミニバンを走らせた。港南台インターを出る前に、慧くんからOKの返事が来た。湘くんの方がライバルかもしれない。と言ったら、慧くんはどう思うだろう。

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