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「お前、実家は葉山なの?」
「地元は鎌倉。実家ってゆーか大船に妹と母親が住んでて、父親は手広にいる。生まれた家は材木座だけど今は違う人たちが住んでるよ」
「材木座って海岸だよな。由比ガ浜の手前か。俺は鵠沼海岸で産まれた。らしい。まぁ産まれてから施設にいたんだけどな。親父とたちと住み出したのは辻堂で、バイク屋と自宅が一緒になってる家だった。ヒデアキたちの店が近えよ。施設のことや引き取られた時のことは覚えてねー。二歳だったからな。一応血の繋がった父親」
由比ガ浜、ってさ、と「由比ガ」にアクセントを置いて発音した。
「この辺の人は由比ガ浜って言うじゃん。他のところの人たちは何故かみんな由比ガ浜って言うよね」
と「ガ浜」にアクセントをつける。
「由比ガ浜? 他のところってどの辺? 由比ガ浜ね」
二人でどれだけ由比ガ浜って言ってるんだろう。
「何、笑ってんの」
九月から、目標と楽しみが出来た。水草や魚のことをたくさん勉強したい。こういう意欲を持つのは何ヶ月振りだろう。こんな気持ちにさせてくれる慧くんの力はすごい。
「もう一人の妹はダンナとオーストラリアに住んでる」
「ダンナはオーストラリアの人?」
「ううん。日本人。プロのサーファーしながら現地で働いてる」
――
「これ言われなかったら目立たないよ」
慧くんが私のお腹を撫でる。そこには傷を縫った微かな
「あたしにだけ、他の人より大きく見えてるのかも」
あんな事でもなければ、別れない。しかもあんな事があっても、別れて良かったのか分からない。私は。瑠夏の父親から瑠夏を引き離してしまった。いくら血が繋がっていないとはいえ、どうして湘くんは私たちを簡単に引き離したのだろう。本当は湘くんの気持ちを分かっている? 理由が分かるのがつらいだけ?
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