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猫が出てくる夢を見た。目が大きなサビ猫。両目にアイラインのような黒い縁取りがある。近寄ってくる。撫でる。抱き上げる。どこの、誰の猫なのか分からない。瑠夏が隣で喜んでいる。
目覚めると薄い青い光が目に入った。どこにいるのか分からなかった。今がいつなのかも分からない。青い光は、水槽を照らすLEDだった。水色の熱帯魚が泳いでいる。多分ディスカス。そうだ、ここは慧くんの部屋だ。どれくらい眠っていたのだろう。外は暗い。部屋を出て階段を探した。降りてガレージに向かった。
「ルナのことありがとう。飲み過ぎてごめんね」
和希たちは、まだガレージにいた。光るデジタルは二十時二十九分だった。テーブルの上にワインのボトルが置いてあった。グラスを運んできた慧くんが、そのボルドー色の飲み物を目で勧めた。瑠夏はソファで横になっている。
「いま寝たとこ」
和希が教えてくれた。
ワインは滅多に飲まないけれど、皿の上のチーズを摘むと一気に美味しくなった。普段は炭酸ばかり飲むので不思議な気がした。酔っているのか酔っていないのか分からない。瑠夏を放って置いて眠ってしまったことで急激な自己嫌悪に襲われた。生きていていいのだろうか。ソファに置いたままのバッグからピルケースを取り出して、安定剤を唾液だけで飲み込んだ。
「薬は眠くなるしムリしないで眠ったら。アイたち親子は泊まれるように頼んであるから」
にこにこしながら和希が言う。英くんも眠っている。
「あいつはそのうち起こす」
空に近付いたグラスにワインが注がれた。
「水色のディスカスが泳いでた」
「ブルーダイヤモンド。あのタンクはブルーダイヤモンドだよ」
後ろの壁際に並んだ水槽の一つで、ブルーダイヤモンドというディスカスの幼魚が育てられているらしい。五センチ未満の幼魚の見分けが付かない。黄色のディスカスだけは幼魚も黄色だった。
「ブルーダイヤモンドは初めて繁殖させてる。繁殖が目的じゃなかったらベタと同じ二十六度でいいんだけど、あっちの幼魚用タンクは二十八度だから成魚と分けてるんだ。水と魚しか入れてないのは毎日水換えするからで、ベアタンクっていう。うちはタンクから直接排水できるし、注水もできるから、お前にも簡単にできるよ」――
私はワインよりもディスカスの知識に酔うように聞き入っていたけれど、和希は退屈そうにスマートフォンを取り出していた。
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