第二章:ホウセンカ―Home―
第19話:説明会―Structure―
出港の翌日。試作実験戦艦ホウセンカは無事に海を渡っていた。他の軍用艦と比べその形状は異質であり、数百年前のアニメーションで出てきた架空の戦艦の様な形状をしている。これは特撮やアニメーションを好むツバキの趣味である。戦艦のタイプを表すフローロ級、というのも彼女が勝手に考えた造ったタイプだ。彼女が生物学者であったにもかかわらず技術者に弟子入りした理由の一つが、そのロマンの現実化であった。
その点、このホウセンカはその架空戦艦の要素をふんだんに詰め込んでいる。その姿はまるでまな板の上に乗ったヒラメのようだ。加えてホウセンカの花のように淡い赤色をしているから、更に異様な雰囲気を作り出している。そんな奇怪な姿であるが機能自体は現在の造船技術の範囲内でも最高の物となっており、食堂は勿論、ギアスーツの開発、調整デッキや、来客用部屋など、通常ではそこまで造る事はない部屋なども用意している。その辺り、ツバキは本気でこのホウセンカを自分達のホームにするつもりなのだ。
その事を昨日からニーアへのホウセンカの紹介を任せられていたスミスは、自慢げに喜びながら語る。ツバキを支持しているだけもあって、彼女のそのダイナミックな行動はスミスにとっても面白く楽しい行動だった。
「なるほどね。うん、あ、ここが僕達の部屋なんだ」
聞いていたニーアは、先程まで紹介されていたホウセンカの内部の構造などを照らし合わせていた。
彼にとってもどれぐらいこの一団と行動を共にするか解らないが、家みたいなものなので一生懸命に構造を覚える。これはヒューマにも言われていた事で、特にギアスーツ部隊の戦力として数えられているニーアは、緊急事態時にいち早くギアスーツデッキに向かえるようにしないとならないからだ。
ニーアが指しているのは、現在、ホウセンカの構造的には中央エリアに位置するフリールームで広げている構造の地図だ。そこでホウセンカの右下部を指していた。
「あぁ。ここが居住スペース。基本的にはギアスーツパイロットはここだ。オレ達、ギアスーツの技術者連中はデッキのすぐ近く。その他の、食堂や清掃員、とかの非戦闘のクルーは逆の左下部の居住スペースだ」
「へぇ……」
このホウセンカで働いているクルーは一般の軍艦と比べては数は少ない。だが、皆が皆、基本的には何かしらの戦いに参加していたり、ある程度の腕を持っている。
所謂、凄腕の集まりなのだ。
「あ、スミス」
そんなスミスのホウセンカの解説が終わりに近づこうとしていた時、そう声をかける人がいた。キノナリだ。昨日と違って帽子は被っていないが、服装は変わらず黄色だ。本当に黄色が好きなんだ、とニーアは漠然に思う。
その後ろにはグレイ、と呼ばれるあの戦闘の時に、スナイパ―タイプのカルゴを狙撃した鋭い目つきをした男が立っていた。キノナリとグレイは基本的に二人で行動しているとヒューマからは聞いていたが、本当にそのようだ。
「どうしたんすか?」
「ツバキがデッキで呼んでる。何か、ギアスーツの整備の新プランの話をしているようだよ」
「りょーかい。んじゃニーア、夕飯時にな!」
キノナリの話を聞くや否やスミスはそう言って部屋から退室してしまう。そしてタッタッタ、と駆けていく音が聞こえた。ツバキに呼ばれたらからであろう。従順である。
さてこれからはどうしようか。折角なので、甲板とは真逆の方にあるガーデニングスペースにも行ってみようか、と考えていたニーアであったがそんな彼の目の前で、バババンと、大量の本が置かれる。それを置いたのは、キノナリだ。
「……へ?」
「べーんきょーターイム! ギアスーツを使用するなら、ギアスーツの事も知らないと!」
突然の提示に思わず気の抜けた声を出してしまうニーアに対し、買い物の時のようなテンションの高さを見せつけたキノナリ。そして、鋭い目つきでキノナリを見ながら、明らかに何か言いたげそうなグレイ。
そうキノナリは彼にギアスーツの事を教えに来たのだ。これはヒューマとツバキの提案である。彼を一戦力と考えるのであれば、作戦会議でも支障ができない程度の知識をつけてもらうしかない。
だが、その前に。キノナリは一応の確認を取る。
「そういえば、ニーアは文字を読める? ギアスーツを使用しているから、一応なんだけど、もし読めないなら教え方も考えないといけないから」
「あ、それならたぶん大丈夫です。よく解らないですけど、昔から文字の意味とかが解るんです。教えてもらった記憶はないんですけど」
その言葉にテンションの上がっているキノナリは真意を聞き逃したが、グレイは気づいていた。教えてもらってもいないのに文字の意味が解る。これほどおかしい事はない。彼は少年兵だった。だから文字の読み書きは不安があった。だが、なぜ彼はそう自信を持ってそう言えるのか。
グレイは不信感を抱いたが言葉を挟まず、黙って腕を組んで壁に背中を預けた。どちらにせよ、彼にとっては久しぶりに拝めるキノナリの教導の時間なのだ。
「解った。それじゃ、まずはギアスーツの事でも軽く説明しようか」
「あ、はい。お願いします」
ニーアだってギアスーツの事は解っているが、勉強はニーアにとっては初めてに等しい行為だ。だからキノナリの説明にはしっかりと考えて、しっかりと耳を開いて聞く。
かくして、キノナリによるギアスーツ講座が始まった。
◇◇◇◇
「ギアスーツ。和名は
民間にも提供されているほど身近な物である。勿論、これ以外のパワードスーツも存在するが、十年前の戦争によって量産が決定的になり、結果的に他のパワードスーツよりも需要が増えた。
「その構造は、僕達の肉体にコアスーツと呼ばれる、ギアスーツ的には筋肉の手助けをしてくれるスーツを身に纏う。そしてその上に骨の役割をする、装甲を装着する内部フレームを装着。そして装甲をその上から身に着けて、その上に武装を装着する。これが基本だね」
言ってしまえば、肉体→コアスーツ→内部フレーム→装甲→武装という順番で構成している。この一連の流れを終えた物がギアスーツと呼ばれている物だ。
スラスターなどは装甲に内蔵してあったり、背部に装着する事によって補う。これがギアスーツの基本の形でもある。
「コアスーツは柔軟な材質で出来ているスーツだけど、頑丈にできているし、筋力を機械で増強するパワーローダーも内蔵しているから、これだけでも運用されている時もある。基本的には運搬作業とかだけど」
「見た事あります。海賊の人達がコアスーツを使ってコンテナを運んでいる姿とか」
「そうそう。だからコアスーツは現在的には一番使用されている部分でもある。貿易とかには本当に使えるからね」
と、脱線をしかけたキノナリにグレイがゴホンとわざとのような咳き込みをしたので、キノナリは我に返り話を元に戻す。
「また、コアスーツには武装やブースター、ヘルメットなどのプログラムが関連している部分に作用する頭脳、OSを司っているパーツがある。これがコア。この部分はスーツの弱点でもあるし、何より動くためのエネルギーが内包されている箇所でもある」
通常、コアスーツの背部にあるコアはOSと同時に運用する際にエネルギーの貯蔵タンクが両立して存在する。このエネルギーはバイオスフォトンと呼ばれる光子物質であり、生体エネルギーでもある。
バイオスフォトンは生命体なら誰しもが持つとされるエネルギーであり、ギアスーツの運用や軍艦の運用のために使用されている。発見当初は人命の問題で危険視されていたが、結果的に効率のいい生産方法が、植物などの動かない生物の生体エネルギーの回収となり、世界機構の関係者が管理する事によって運用が可能となっている。
「内部フレームは装甲や武装を自在にパージできるようになっている部分で、緊急時でのパージも対応している。装甲とか武装は言うまでもないね。これによってギアスーツは成っているわけだ」
キノナリはギアスーツの構造を説明し終えると、そこで持ってきておいた水を飲んだ。
どうやらこの説明会は長くなりそうだな、とニーアは複雑な心境でその光景を見ていた。
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