第14話:実現―Genealogy―
「ヒャッハー!!」
ヒューマの物とは違い、正規の刀ほどのサイズの二振りのヒートブレイドを扱う赤黒い、まるで血を纏ったかのようなその色合いのカルゴは、そう歓喜の奇声を上げながらヒューマに襲いかかる。
ヒューマはその正規の物より数倍に大きいヒートブレイドで攻撃を受け止めるが、物の大きさもあって攻撃を受け止めるのがやっとで、攻撃に転換できないままでいる。熱を灯しているとはいえ、血色のギアスーツは側面ばかりを攻撃するため、ヒートブレイドを切り裂く事が出来ない。ヒューマは思わず舌打ちをするが、それをしたところで何か解決できるはずもなく、ただ劣勢を強いられる。
「戦いは楽しい!! 強者と戦い! 己が強いのが解るからだ!!」
「……ッ!!」
「その点、お前は強い。だがァッ!!」
血色のギアスーツはそう言って、その両手のヒートブレイドで何度も盾のように扱うヒューマのヒートブレイドに叩きつける。ヒューマのヒートブレイドは丈夫にこそできているが、それでも強度には限界がある。加えて、大きさが災いし側面が広く、盾として扱えても攻撃武器としては機能しない。
これでは埒が明かない。ヒューマは沸々と湧きつつある頭の温度を感情で抑えながら、冷静に状況を見極めようとする。現状は、相手の攻撃を受け止めつつも間合いを開けるために後退している。このままでは連行している世界機構の議員を助け出す事が出来ない。だが、この目の前の狂者が目の前で立ちはだかる限り、この場を突破する事は難しいだろう。
倒すか、せめて隙をついて進むしかない。そうするなら、この右腕に接着しているヒートブレイドは邪魔であった。
「お前はァ、RRじゃないッ!!」
「そう、だよぉ!!」
そのヒューマの怒号と同時にバインダースラスターを前方に展開し後方へ大きく退いた。血色のギアスーツはそのスラスターに当てられて動きを止められた。だが装甲のみしか焼跡は残っておらず、まるで穴の開いたかさぶたのようなそれは血色も相まって奇妙だ。
ヒューマは、右腕のヒートブレイドをパージした。地球の重力に従って街路を突き刺したそれは、ブロード・レイドのOSの支配下から脱し強制的に冷却モードに入る。熱がシールドの内部の冷却剤と重なって冷やされていく。
「こいつはRRじゃない。だが、この機体、ブロード・レイドはッ!!」
そしてその冷却が終わるか否かの瞬間にヒューマはシールドの裏の取っ手と共にある、ギアスーツに接着する部分にあるスイッチを押した。瞬間、シールドを形成した部分、その腕側の部分であった箇所が開き、そこから柄が現れる。
ヒューマはその巨大な剣を握りしめ、構えた。
「RRの系譜……RRを継いだ、新しい力だッ!」
「そうかいそうかいッ!! ならば、楽しませてくれるよなァッ!!」
血色のギアスーツは狂喜の笑みがありありと見えるような感情を吐露しながらヒューマに向かってくる。ブロード・レイドの大型シールドヒートブレイドのこの形態は取り回しを重視した形態だ。だが支点は腕ではなく手となるので威力は確実に落ちる。
それを覚悟でこの形態を解禁させたのは、、ヒューマにだって考えがあるからだ。
「ルビィッ! 解ってるな?」
「――――」
「行くぞッ!」
背部のウィングスラスターの出力を上げ前進する。同時にバインダースラスターを後方へ展開。海上戦時のポッドブースターほどではないが勢いは確かにある。
血色のギアスーツはそれに応じるように背部のスラスターを展開し進み始める。次の交差。その次で血色のギアスーツは決着をつけるつもりである。
だが――――それこそが、その享楽に準じた心こそが、血色のギアスーツの失態となる。
「――――」
「な、なにィッ!?」
瞬間、ヒューマの左側のバインダースラスターが右側よりも強力に地面を噴射した。交差する数秒前だ。肉体が右方へクルッと回り、宙を一回転しながら肉体が一つ分、右へズレる。
そして血色のギアスーツがその動きを見ている間に、右側のバインダースラスターに装着していたワイヤー射出装置からワイヤーを射出。そしてそれが街の建造物のパイプにクローが引っかかり、一気に加速する。
交差しぶつかり合ったヒートブレイドは、しかし柔軟に曲がる手首によって上手く、滑らかに攻撃を受け流した。腕に付いたままではできない芸当だ。
「クソッ!」
「置き土産だ」
「――――」
そしてヒューマの仲間であるルビィが脚部のロボットアームを使い、グレネード弾頭を血色へ向かって投げつけた。思わず身構える血色のギアスーツだったが、その弾頭から放たれるのは火薬が臭う爆発ではなく、思わず咳き込んでしまいそうな煙であった。スモークグレネード。ギアスーツにおいてそれは、あくまで銃弾予測を一時的に狂わせる物でしかないが、それでも十分に効果のある置き土産だ。
何より、それが一発だけでなくヒューマの通った道筋にばら撒かれているため、血色のギアスーツは下手に動けなかった。一発だけなら抜け出せたかもしれないが、複数発となると逆に狙われるかもしれない。
戦いに興奮を見出すが命を無駄にするつもりがない男は、ハァっと大きく溜め息を吐いた。彼としたら面白い敵だった分、中途半端に戦いが終わったのが不満であるのだ。
「RRの系譜……やはりいたかァ……この戦争、楽しみだなァ」
ただ、少なくともあの化け物の生き残りがいたと思うと、男は笑みを浮かべざる負えなかった。何せRRは彼にとっての目標であり、いずれ壊したいと考えていた存在なのだから。
十年前は味方だったのだから攻撃などできなかった。そしていつの間にか、政府によって公式でRRは使用者と共に死亡を宣告されてしまったのだ。だから、その系譜が存在する事は彼にとっての夢の実現と同義であった。
「くぅっふっふっふ……最高だなァ」
不気味な高笑いはヘルメット越しにも街中へ響き渡った。
◇◇◇◇
ヒューマは先程の敵が追ってこない事を確信し、意識を前方にだけ向けた。彼にとってこの作戦は敵を倒すものではなく、任務を成功させるためのものなのだから、あの敵に拘る必要なかったのだ。
勿論、あの敵が語ったRRの話は気になる。その系譜の機体を駆るヒューマにとって、RRの話は重要な物だ。だがここで任務を失敗する事はツバキに申し訳ない。
「敵前方……二機か。他は逃げたのか?」
連行部隊を捕捉したヒューマは、その議員を連れているであろう車を囲うように配置されている二機に攻撃を仕掛ける。
ヒューマは使用していなかった左側のワイヤーを発射し、それを構えた一機のカルゴにクローをぶつける。そして怯んだそれを急接近し右腕のヒートブレイドで切り裂いた。鮮血が車を襲い、もう一機のカルゴの動きを止める。
「車、止まれ。救援だ。あとお前、動くな。お前には生き残ってもらう」
そう言ってヒューマは動けないカルゴにヒートブレイドを向けながらゆっくりと迫る。脅しだ。実際、この距離ならばライフルを持っているカルゴよりも先にヒューマが敵を捉える。
「武器を捨てろ。言う事を聴けば、死なないぞ」
ヒューマのその言い分が通ったのか、首元までヒートブレイドを迫られたカルゴは手に持っていたアサルトライフル、腰に差していたヒートソードを捨てた。カルゴの標準武装はこの二種であるため、一応の確認を軽く済ませたヒューマはそのまま、そのカルゴを正座させ頭に手を置かせる。そしてルビィを使ってハッキングし、コアスーツの機能をロックさせた。
カルゴはそれに驚いているようで何かブツブツと喚いたが、ヒューマはそれを無視してツバキへ連絡する。
「ツバキ。こっちは終わった」
『――――やっと繋がった! えーっと、そう……うん、ありがとう。向こうも状況を見て撤収を開始している。ヒューマはそこで待機。ニーア君は……キノが出会っているっぽいから任せたわ』
「そうか……終わったか」
戦場の終わりはいつもこう、あっさりと終わってしまうものだ。ヒューマはそう思い、ずっと溜め込んでいた鬱憤とした戦場の感覚を忘れるためにヘルメットのバイザーを開いた。
風がそよぐ。戦場の臭いがする。街だというのに、ここで人が大量に死んだのだ。それは自分が来たから。自分が殺したのだから。
心の中にある、争いへの抵抗感と争いをしようとする戦意。矛盾するその二つを感じながら、ヒューマはふと空を仰いだ。そこにさっきの赤いギアスーツと青いギアスーツが過ぎった。
「ッ!?」
だが二機はこちらを確認しただけでそのまま北へ向かって行った。普通ならばここでこちらに攻撃を仕掛けてくるはずだ。向こうの目的は連行している議員のはずなのだから。
それとも別の目的があったのか。どちらにせよ現状、あの二機を追う事は出来ない。ここで議員を見捨てて動くと、まだ撤収していない敵が議員を拾うかもしれない。
ヒューマは歯を噛み締め、だが小さく息を吐いた。そして生が渦巻くこの島の空気を吸い込んだ。
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