第3話 る め

2.

 1650年が経ちました。この惑星はどんどん開拓されました。

 人間はすこしはましになったようです。


 また、誰も見ることのない湖に、一匹の亀がおりました。

 ただ。待っていました。

 そこに一羽の鶴がやってきました。


「こんな綺麗な湖があったんだな、知らなかった」


 つるはただ待っている亀を見つけました。


「ん?どうしたんだい?こんなところでひなたぼっこかい?」


 亀は頷きました。


「えぇ。そうよ。とても、大切な人のためにあったまってるの」

「大切な人のため?」

「そうよ、大切なかめ、かしら」


 そう亀が笑った時、心が惹かれたことを、つるはずっと後に気づきました。


 しかし

「帰ってくるのかい?」

 つるは聞きました。

 かめは答えませんでした。

 つるは気付きました。これは自分の失態です。


 つるは考えました。

 きっともう彼女は気付いてること。自分の知らない『彼』は帰ってこないこと。つるが聞いてはいけなかったこと。

 つるは聞くということは亀は知っていることになります。

 もうお互い気付いていました。

 

 でも。亀は。自分が認めてしまった時が怖かったのです。

 1000年もの間見ないままにしていた事実を、自分の力で気付いてしまったら?

 その悲しみは誰が背負うのでしょうか?


 ならば、私にもくれないか?君の悲しみを。


 つるはうんうんと考えていたため、気がつけば、もう日が暮れていました。

 つるは突然いいました。突然言ったように聞こえましたが、つるはずっと考えていた言葉でした。


「かめさん。実はもうあなたの待ち人は帰ってきませんよ」

「どうして?」

「だって。ずっと待っているんでしょ?なのに、何故まだ帰ってこないのですか?」

「ずっと泳いでいるんですよ、優雅に。あの人らしいじゃないですか」

「違います!」

「ん?」

「彼はもう、いないんですよ!ここのどこにも」


 つるは言ってしまった、扉を開けてしまった、と思った。


「あら、つるさんったら冗談がお上手で」

「嘘じゃないですよ。分かります。」

「嘘です。知らないんでしょう?」

「知らなくてもわかります」

「でも知らないんだ」


 亀は揺らぎませんでした。まるで、ずっと前から反論を用意していたように。


 つるは困ってしまいました。しかし、このままでは。彼女は一生その思い出を抱えて死ぬことになると思いました。亀はまるでおばあちゃんのようでした。

 それはきっと。美しいけど。何かが違うような気がして。

 誰も気にしなかったから。きっと亀は誰にも気にされず、幸福と終わらせてしまうような、そんなお話で。

 だけど、ボクはあなたと分かち合いたいと思うの。

 間違ってるかな?


 つるは続けました。

「じゃあ、嘘だ」

 亀はすこし、目を見開きました。

「嘘、そう。嘘よ。そのうち帰ってくるわ」

「でも……」

 つるはいい直しました。

「じゃあ……ボクと遊ばないかい?あなたの待ち人が帰ってくるまで。ここで遊ぼう」

「ふふ。楽しそうね」


 かめは少しこられきれなかったように笑いました。


 つるにはまだ亀の心の奥には踏み込めませんでした。

 2人の出会いはここからでした。

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