第13話 or
「本当に…か?」
「あぁ、ちゃんと殺してくれ、ナイフでひとつき、だろ?」
何があったんだ、このりすに。
分からない。全く分からないことばかりだ。
しかし、僕は言わなければならない。
さぁ、そろそろ幕を閉めよう。これで終わりだ。
「だがな、ののの。俺は殺せない」
沈黙が降りた。
「どういうことだ?」
彼の声には少しの怒りが含まれていた。
「この砂袋は、具現化は出来る。だが、無生物だ。無生物にお前は詰め込まれている。俺はナイフで無生物は殺すことはできない」
「すまねぇ……何言ってるか、全く分からねぇ……」
つまり、
「僕には無理だ、お前を救えない」
今回はややこしい。死ねないことで死ねるから。
「俺は、救われないのか……?」
「あぁ、ののの。お前は誰にも救われない」
『オレは誰にも救われないことで!初めてオレ自身に救われるんだ!!俺は救われない哀れな存在だと!それがわかったなら!!!オレは改めて!!ちゃんと死ねる!!!』
『誰にも救われないことで、初めて自分で自分自身が救える』
こいつの期待には答えられない。
しかし、最初の依頼は、今ここで達成させてやる。
だから、頼む。死んでくれ。
「俺は救われないのか?死ねないのか……」
彼は囁くように言った。
実感はもう感じたはずだ。あの白い踊り場のない階段で。
少女に踊らされたあわれなりすは気づくだろう。あとははやい。
自分の死ぬタイミング、きっかけを自覚したから。
条件があれば、死ねる、つまりは成仏成功である。
「そうか……分かったよ。じゃあな。オレは消えるぜ」
思ったのと反応が違うな、と思った瞬間。
途端に形を崩した。ぐにゃり。
砂袋から、魂が離れた。
最初出会った、りすの幽霊の形をしていた。
それがぐるぐるとりす自身の中心に向かって回ったかと思った瞬間。
ぱん!
霧となって消えた。
「終わったか……」
求めていた結果だが。過程が全く違った。
突然声が降ってきた。
「なぁ、消えたけどさ、最後に聞いてくれ。
俺はあのあと、急いで前の飼い主のとこに行ったんだ……場所をしらねぇから手当たり次第探したぜ……そしたらよ……そいつもう死んでたってよ。俺よりも若ぇ年のはずだ……悲しくなっちまってよ。
その飼い主の母が少女が死んだ時に俺を捨てた。その母さんも後追いで自殺さ。あぁ、なんて哀れな家族だったんだろな……」
あぁ、なるほど。それが死ぬ理由か。
呪術なんてしなくても、こいつはもう消えることができたのか。
僕は笑った。僕のやったことはほとんど意味なんてなかったなって。
「……そうか。向こうでは、幸せに暮らせよ」
果たして、僕の声は届いたのだろうか。
夜が明けた。
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