第8話 す あ


「長いな……なぁ、真白、これってどれくらい続くんだ?」

「まだまだだぞ、ののの。まだ階段がまっすぐだろ?あと半分くらいしたら、螺旋階段」

「螺旋階段に登ったら、着くのか?」

「螺旋階段からがスタートだな」

「マジかよ……」


 僕らは黙って登り続けた。


 登り始めて1時間。僕らはようやく螺旋階段の始まる小さな踊り場にたどり着いた。


「あー!着いた着いた!!」

「疲れましたね、水乃くん、のののさん」

「えぇ、とっても疲れましたね、総務」


 ようやく、僕らはスタート地点に立った。


「じゃあ、行きますか」


 僕が言った。


「はい」

「だな」


 また、僕らは登り始めた。



 螺旋階段をぐるぐる。

 とんとんとんとん、と階段を歩く音だけが響く。



 幽霊であるりすは幽霊とはいえ、歩かないまま浮いてるけれど、やはり彼も疲れているらしい。表情に余裕が消えていった。



 螺旋階段をぐるぐる。足を同じリズムでぐるぐる。

 とんとんとんとん、と階段を歩く音だけが響く。



「なぁ、真白。お前、階段を登りきったら、とんでもなく広い踊り場に着いたってな」

「あぁ、あのあとの記憶は綺麗にないけどな」

「なんか変だよな」

「なんで?」

「お前は死ななかったんだもんな」

「そうだね」

「なんで死ななかったんだよ?」

「なんで……だろ……?」



 螺旋階段をぐるぐる。

 とんとんとんとん、と階段を歩く音だけが遠くから響く。



「おーい、水乃くん。足止まってますよ」

 気付くと少し先に総務が立って待っていた。

「すみません。ついうっかり……」

「気持ちはなんとなく分かりますけど、考えても仕方ない時なので足、動かしましょうよ」



 螺旋階段をぐるぐる。足を同じリズムでぐるぐる。

 とんとんとんとん、と階段を歩く音だけが響く。

 お互いの呼吸が小さく、はあはあ、と聞こえてくる。



 まだまだ螺旋階段は続く。

 もしかしたら、次はもうないんじゃないか、と思って登りきって、螺旋階段を回ると、当たり前のようにまた、次の階段が並んで待っている。

 これが結構沁みた。



 螺旋階段をぐるぐる。足を同じリズムでぐるぐる。



 螺旋階段をぐるぐる。足を同じリズムでぐるぐる。



 僕らはしばらく黙ったままだった。


 彼が少しずつ壊れていったのこの時からだった。

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