第3話 も た




「…って知ってますか?」


 それではあの死になんのメッセージがあったのだろうか。

 愛する女のために自分の生を捨てることは狂っている。ここまでは分かる。


「おーい、聞いてますか?」


 だが、やっぱり腑に落ちない。僕は本当は全部を理解できてないのかもしれない。知っていた気になっているだけ。でもどうしようもない。だって死んでしまったから。

 問題は僕を指していった言葉だ。

 狂ってる、か。


「はい?そうですねぇ。分かりますよ。もう一回言ってください」

「やっぱり聞いてないじゃないですか」


 すいません、と謝って話を戻してもらった。


「あぁ、あの学校の屋上から続くもののことですか?」

「そうです」

「『天国の階段ステアウェイ オブ ヘブン』って呼ばれてるんでしたっけ?」

「いや、そんな名前聞いたこと無いです。頭おかしいんじゃないか、水乃くん」


 なぜか罵倒された。これも悪くないな!


「いや、普通に天国てんごく階段かいだんでいいですよ」


 この学校には屋上から天に向かって伸びる階段が存在する。


「でも、ちょっとこの呼び名ステアウェイ オブ ヘブンの方がかっこいいと思います!」

「あそこって、怖いですよね」

 無視だった。 強いなぁ。



 しかし、

 そんなに怖いだろうか。


「今更何を改めて言うんですか。総務」

 

 僕は真面目になって話を進めた。

 天国の階段なんて別に天国の人がつけた名前じゃない。


「知ってますよ。神様が学校に階段なんて作るわけないじゃないですか」


 この総務は何が言いたいんだろう。今回は言葉が足りなすぎる。


 ちなみに僕は実際に行ったことある。あの四階建ての屋上からぐるっと円を描いた白い階段。そこからひたすら上に向かっているのだ。

 あの日はいつだったか忘れたが、僕は登った。

 何故か

 見上げると雲と混じるから一番上は見えない。だから気になった。


「それだけですか?」


 それと僕はあの頃天国を目指してた。


「死にたがり……?ということですか?」


 いや……ちょっと違いますけど、天国を目指してたというのはまぁ、そのなんて言えばいいんだろ、はい嘘です。そうです嘘。嘘だよー。嘘だが階段を登ったことはあった。


「おーい。聞こえてますよー」


 あの踊り場から先は何もなかった。

 

 ただ、あの場はとてつもなく恐ろしかったことだけは鮮明に覚えている。

 空から殺すように差される何条なんじょうもの光。

 何もない白だけの踊り場。

 汚れを受け付けないかのように。全てを受け入れないかのように、死の空間だけが存在していた。


 その踊り場にたどり着いた時は、確か……



  愛する我が子よ

            こちらにおいで

   死ぬことが怖いか

             こんなにも大きくなって

     それとも

               ほら、ちゃんと顔を見せておくれ

      死んだ私が恐ろしいのか

                 それがとても、とても嬉しいよ



「大丈夫ですか……?」

「ん?」


 僕は考えすぎてしまっていたようだ。


「さて!私が天国の階段の話をした理由は何でしょう」


 そろそろ現実に戻ろう。


「まさか、クイズだったんですね」


 そうくるとは思わなかった。だけど、手間は省けた。

 

「総務に依頼が来たんですよね?」

「正解です。なんだ分かってたんですか」

「だからって結構回りくどいやり方しますね」

「べつに天国の階段じゃなくても、絞首台でもよかったんですけど」


 総務は思い出すように言った。つられて目が上に向いている。



「それで総務、依頼はなんでしょう?」


「りすの成仏です」

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