第2話 る な


 遡ること2日。


「あなたは間違っています」


 総務は僕に向かっていった。可愛い声で。学校の螺旋らせん階段の踊り場で。


「あなたは間違っていますよっ」


 念のためだろうか、もう一回言われた。可愛い声で。その手を腰に当てて、若干前に向けて話す感じも可愛いなぁもう。

 だから、僕は返した。


「逆に僕が正しいままだったことありますか?」


 僕は真面目な顔をして返した。正しいとはなんだろう?


「うっ……それは、わかりませんが、あなたは正しくありません。なので、直すしたほうがいいと思います。少なくとも正しい方向に向かおうとするべきです」


 総務はよく抽象的に話す。頭が良いからなのだろう。かえって、分かりにくい時がしばしばある。今回もそうだった。


 要は・・・

「結局、なにが言いたいんですか?」


 僕は聞いた。これが1番だ。保育園児に質問するのに似ている。


「え?えーと、ですね・・・」

「好きです。おっぱい触っていいですか」

「ええ……ええ!?いきなりはダメです!」

「じゃあ、ちゃんとムードを作ります」

「何言ってるんですか!?そういう問題じゃありません!!!もう!!」


 顔を赤らめながら、胸に手を当てて、斜め顏でこちらを向く総務。そんな顔しないで、可愛いなぁ。逆にそそる。


 と、まぁ真面目な話をにごすようにこうやっておちょくることは楽しい。たじろぐ総務は何回見ても可愛い。


 ちなみに総務というのは、僕の知り合いの女の子で、同じクラスである。だから僕は総務といっているだけである。


「えっ、えっとですね、あれですよ。ほら!また依頼を受けたんですか!?今度はなんですか!もう!死にたがりの渡り鳥に手を貸すなんて!」


 総務は勢いを返すように迫ってきた。


「なんで知ってるんですか・・・」


 ちょっとびっくりした。僕は誰にも話してなかったはずだ。


「渡り鳥が愛した人から聞きました。水乃くんが手伝ってくれたって」

「なるほど」


 僕は納得した…………。


 ……いや。やっぱしてない。


「え?総務、あの人と知り合いなんですか?」

「いや、そういうわけではないんですが……」


 総務は口ごもった。何を言おうか考えているようだ。

 


      ******



 渡り鳥を見送ってから4日が経った気がする。ここでいう四日というのは僕の生活リズムで一日起きてから寝て、次起きるまでのことを指す。ほんとは5日かもしれないし、3日なのかもしれない。僕の睡眠リズムがぐちゃぐちゃだったので、あまりはっきりと言えない。原因は分かってる。



 こんな適当なことに対して意味はない。

 ただの字数稼ぎみたいなものだ。



 それでも、この世界は変わらない。


 渡り鳥の死は思ったよりも何も僕を変えなかった。そう思い込んで、あの日から僕は家に帰り、残りの菓子を食べきり、花に水をあげ、ご飯を食べ、寝た。要は普通だった。


 彼が残したものはほんの些細ささいなものだったようだ。


でも、僕は渡り鳥の恋を忘れられないんだろう。



      ******

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