第3話 みんなで居ることの


 あの、

 なんだ、

 あなたの名前を教えてくれないか?


「どうして?」


 星が光り輝いていた。星は、半ば照れるように、指で指を触るように、おずおずと聞いてきた、気がした。


「人間は初めましてをするときに、名前を教えあうんじゃないのか?」

「そうだな」

 僕は答えた。

「ならば、君の名前を聞くのも礼儀ではないかな?人間としては」


 僕は思った。きっとまだ、彼にとって今までの会話も全部が「初めまして」という時間の中なのかもしれない。生きてる時間の違いだろうか。星の方が長い。


「いいよ」


 彼は許しを得た小さな子供のように、安心して、笑った。気がした。


「そうか、では、聞こう。君の名前は?」


 僕ははっきりと告げた。

「真白。水乃真白だよ」

「ミズノ、マシロ…か。名前の価値がよくわからんが、いい名前だな」

「あんたの名前は?」

「わたしの名前を聞くのか?わたしの名前を」

「どういうことだ?」

「わたしの名前は結局わたしの名前ではないのだよ」

「ん?よく分からないが」


 僕は彼の意味を汲み取れなさそうだ。


「わたしの名前は人間が作り出して、わたしに貼り付けたにすぎない。わたしの意志もなく、許しもなく。この名前を背負わされているのだ。それでも知りたいかい?」

「いや、おかしくないか?」


 だけど、僕は素直に答えた。


「どういうことだ」

「名前っていうのはそもそも自分でつけるもんじゃないだろ。君も僕も。親につけられて、きっと自分がその名前になるんだよ」

「ほう」


 星は、溜息をもらした、気がした。


「そうか、その程度のものなのか」

「そうだよ、その程度のものだよ」

「それでも、人は必死に名前をつけるのか」

「僕ら人間は必死だからね。死ぬまできっと」


  僕は笑った。笑うところでもなかったけど。

 そうかそうかと、つぶやきながら、星は告げた。


「そんな人間が哀れに見えるかい?」

「うーん……」

「今少しだけ思ったろ?」

「ははは、気にするなよ」


 彼はすっかり、気が緩んだ様子だ。


「私の名前はペテルギウス。ではさらばだ。水乃真白よ」

「あぁ、じゃあな。良い名前だと思うぜ、それでも」


  僕はさよならを告げた。二人の回線が切れた、と感じた瞬間に僕の意識は途切れて、深い深い眠りについた。



 水乃真白が夢から覚めるのは、また別のお話。

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