星と語る

第1話 あなたにとって


 星が光っていた。きらきらと星が光っていた。


「わたしはこの地球から650億光年離れた、一等星さ」


 赤く光る星はそういった。


「僕は……ただの人間かな。君がそこから地球に光を届ける時間の間までに生まれて、消えて、死んで、何もなくなるくらいの小さな人間さ」


 僕は答えた。名前を言ってもきっと、すぐのことだから忘れられる。だから言わないことにした。


「初めまして」

「こちらこそ、初めましてだな。よろしく、人間とやら」


 星は一回、よろしくと言ったあとに呼吸を整えた、そんな気がした。


「そうかそうか。人間なのかい。珍しいことだよ」

「君のような星の一生には短すぎる出会いかな、距離はとても長いけれど」

「確かに。そうだな」


 星は一旦、言葉を噛み締めた、ような気がした。

 しかし続けて、


「でも。わたしたちはこうして」

「会話をしている?」

「しかも、光の速さを超えてだよ?」

「僕と君は会話をしている。あぁ、奇妙だな」

「すこし、不思議だな」

「すこしだけなのか?かなり不思議じゃないかな?」

「うーん……。わたしにとっては人間の方がもっとよくわからない」

「そうかもな」



 僕は言った。


「星と話せるとは不思議だよ。こんな距離で。姿もほぼ見えない。君はとても小さい」

「わたしが小さいだと!?ふざけるな」


 星は少し怒った。僕はなだめるように言った。


「諦めてくれ。そもそも距離が遠いんだ。光が650億年かけて渡る距離じゃあ遠近法もなにもない」

「えんきんほう?なんだそれは?」

「むしろ、小さくともちゃんと見えているだけで、君の偉大さ証明できる」

「そうか、それなら良いような気がするな。よくわからないことだらけだが」

「大丈夫さ、だって」



    宇宙は広いからな、



 僕は今、光り輝く星と会話している。


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