第4話 think



 そもそも僕は女ではないからお嬢さんと呼ばれるのはおかしい。しかし、どうせ渡り鳥は死んでしまうのだろうから、もう僕の言葉を届けても意味はない。どうせ死ぬんだこいつは。


「そうかい。おやおや。しかし、そこまで君はわかっていて僕を殺そうとしたのかい」

「あぁ、頼まれてからちょっと……」


 こうやって肝心なとこをごまかすことは僕はずっと前から下手だ。


「調べたのかい?」

「いや・・・、考えたのさ」


 適当に笑って頭を指差して、嘘でごまかした。


「そうかそうか。ところで、お嬢さん。その甘そうなお菓子を私にもくれないか」

「無理だよ」


 僕に答えた後、渡り鳥は馬鹿を貼り付けたような顔をした。そして、聞いてきた。


「どうして」


 僕は告げてやった。いつまで酔ってやがるんだこいつは。



「だってあんた、もう首からしたがないんだから」



 渡り鳥はぶら下がっていた。首だけ。部屋の天井から下りているロープに吊るされていた。首より下のだいたいの身体は。今、赤い血が広がっていた。


「ははは、そうか、そのことか。確かにな。ははは。それがどうしたというのかい」


 渡り鳥は笑った。まだ気づいていないのだろうか。


「たとえ、これを飲み込んでも受け入れる胃袋はないぜ」

 もういいだろう。めんどくさい。何も分かろうしないくせに。

 渡り鳥はいままでの口調で答えた。


「でもね、お嬢さん。そのウイスキーボンボンを味わう舌と頭ならある」


 僕はちょっと言葉に詰まった。渡り鳥は言った。

 見透かされていた感覚は本物だったようだ。


「なんだ。知っていたのか」

「ん?なんのことだか」

「シラを切るつもりなら、早く死んでやってくれ」

「あぁ、この味わえる首の残りを全て彼女に愛してもらおう」


 渡り鳥は目を細めた。目の周りに皺がよって、妙に優しい顔つきに見えたのが不快だった。

 渡り鳥の首から血が垂れていく。ぽたぽたと。

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