第3話 you



 沈黙を破ったのは、渡り鳥の疑問だった。



「不思議かい?私が死ぬのが」

「あぁ、とっても」

「私は愛する彼女のために死ぬんだよ」

「だからそれがピンと来ないんだよ、わざわざ死ぬ必要はないだろ」

「愛するのに必要も不要もないさ。愛してる気持ちだけが全てだ」

「だからそれが理解できない。普通ないだろ」

「これは至って普通、とまでは言われなくてもよくあることだと思うんだがねぇ」

「いや、なかなかないだろと僕は思う」



 僕は否定した。命をだいじにする聖人のように。

 しかし、忘れてはいけない。僕は偽善者だ。嘘つきだ。

 そして、僕には依頼があるのだから。

 もうひとつ、僕は分かっていた。

 こいつは、僕の嘘に断ることによってヒロイックになることも。煽れば煽るほど、僕の本当に望んでいる方向に動くことも。そして、僕にまんまと騙されるほど、彼女の嘘を信じていることも。


「お嬢さんにとって私が理解できないように、私も君を理解できない」




 こいつは僕を見透かしたように言った。やっぱり。分かってないくせに。口からため息が漏れた。全くもってこいつの言う通りだ。そして、僕も渡り鳥の言うことなんて全部分かるわけないのだ。

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